ブラックホールの正体が仮説上の天体、ボソン星の可能性を示唆

ブラックホールの正体はボソン星? image by:Olivares et al., MNRAS, 2020

 おとめ座の方向にある楕円銀河「M87」の中心には、太陽の65億倍とされる超大質量ブラックホールが鎮座している。その姿をイベントホライズン・テレスコープ(EHT)で可視化することに成功したのは昨年のことだ。

 それは天文学における快挙と評されているが、これに疑問符を投げかける研究グループが現れた。

 可視化に成功したことを疑っているのではない。オランダ・ラドバウド大学とドイツ・ゲーテ大学の研究グループが疑っているのは、それは本当にブラックホールなのか? ということだ。

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一般的な恒星とは別の物理法則にしたがう仮説上の天体「ボソン星」

 一般的な恒星は「フェルミ粒子」(陽子、中性子、電子など)で構成されている。一方、現時点では仮説上の天体である「ボソン星」は、「ボース粒子(=ボソン)」で構成されている。

 ボース粒子の例としては、「光子」や「グルーオン」、さらには素粒子に質量を与えることから神の粒子と呼ばれる「ヒッグス粒子」などがある。これらはフェルミ粒子とはまた別の物理法則にしたがっている。

 たとえば、フェルミ粒子を支配するルールとして「パウリの排他原理」というものがある。これは、同じ空間にまったく同じ粒子が2つ存在することはできないという物理法則だ。

 ところがボース粒子にはこれが成り立たない。ボース粒子は同じ空間に重なり合い、ひとつの大きな粒子のように振る舞うことができる(物質波やド・ブロイ波と呼ばれる)。これは実験によって実際に確かめられていることだ。

 またボース粒子は、ある空間に圧縮されることもあり得る。これは「スカラー場」として表すことができるが、もし適切な条件が整えば、比較的安定した天体のような構造を形成すると考えられる(これはあくまで理論上のことで、現時点では確認されていない)。

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ブラックホールとボソン星はどう見えるのか?


 ブラックホールと同様に、「ボソン星」もまた一般相対性理論によって予言されている存在だ。それは太陽の数百万倍もの質量がありながらも小さくまとまっているという、超大質量ブラックホールと同じような特徴があるとされている。

 ゆえに、銀河の中心に存在している超大質量の天体がじつはボソン星なのではないかと考える学者はこれまでにもいた。

 『Monthly Notices of the Royal Astronomical Society』(7月2日付)に掲載された研究では、もしボソン星を望遠鏡で観測したとしたらどのように見えるのかを計算し、それとブラックホールとの違いを考察している。

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image by:Olivares et al。、MNRAS、2020

発見困難な超軽量天体


 厄介なことに、そうしたボース粒子は発見がきわめて難しい。研究グループによると、仮に超大質量ブラックホール並みの大きさを持つボソン星があったとしても、それは極端なまでに軽く、10-17電子ボルト未満だろうという。

 それゆえに、超大質量ブラックホール並みの質量を持つボソン星はおろか、ボソン星自体がいまだ未発見のままだ。

ボソン星のプラズマリング

 ボソン星は核融合を起こさないために放射線を放たない。ただそこに存在するだけで、ブラックホールのように直接目で見ることもできない。

 少し違うのは、ボソン星が光を吸収してしまうようなことはなく、ただ透明なだけである点だ。光すら脱出不可能な事象の地平面はないために、そこを通過しようとする光は、多少その重量によって曲がったとしても、ボソン星から脱出できる。

 またボソン星の中には回転するプラズマのリングで囲まれているものがある可能性がある。それはちょうどブラックホール周囲の「降着円盤」のような見た目をしている――中心に暗い影を内包した光るドーナツのような感じだ。

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挙動シミュレーションではボソン星でないという結果


 そこで研究グループは、このプラズマリングの挙動をシミュレーションで確かめ、それを撮像されたブラックホールの降着円盤と比較してみることにした。

 ここから判明したのは、ボソン星の影は同程度の質量を持つブラックホールのそれに比べて、かなり小さいだろうということだ。一方、ブラックホールだった場合の大きさとは一致していた。

 ということは、研究グループのシミュレーションが正しいのだとすれば、どうやら問題のブラックホールがボソン星である可能性は除外できそうだということになる。

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最終的な結論は今後の観測次第


 しかし、例のブラックホールのイメージは、EHTの観測データを作為的に可視化したもので、ボソン星も同じように可視化される可能性がある。したがって、最終的な結論は、将来的な観測結果を待たねばならないようだ。

 仮にやはりブラックホールではないということになれば、とんでもない発見だ。

 もちろん超大質量ブラックホールが存在しないということではない。だが、それはボソン星が実在する可能性を示唆しており、初期宇宙のインフレーション理論からダークマターの捜索まで、さまざまな意味合いを持つ。

 「宇宙論的なスカラー場が存在し、宇宙が持つ構造の形成に重要な役割を果たしているということになります」と、主執筆者のヘクター・オリバレス氏は話している。

How to tell an accreting boson star from a black hole | Monthly Notices of the Royal Astronomical Society | Oxford Academic
https://academic.oup.com/mnras/article-abstract/497/1/521/5866505?redirectedFrom

References:sciencealert/ written by hiroching / edited by parumo

全文をカラパイアで読む:
http://karapaia.com/archives/52294565.html
 

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