4月に施行された香川県ネット・ゲーム依存症対策条例は違憲だとして、高松市在住の高校3年の男子生徒らが9月30日、県を相手取り、計約160万円の損害賠償を求めて高松地裁に提訴する。

この条例は、全国で初めてオンラインゲームなどに対する依存症から子どもを守る目的で、制定された。保護者に対して、子どものゲームの利用を1日あたり60分までにするなどの努力義務を課している。

原告代理人で、選択的夫婦別姓などの違憲訴訟で知られる作花知志弁護士によると、訴訟では、条例の根拠となる「ネット・ゲーム依存症」は医学的な根拠が不明確だとして、憲法に違反すると主張するという。

この条例をめぐっては、「利用時間まで県が定めることは行き過ぎであり、県議会での議論や情報公開も不十分だ」と批判を受けていたほか、香川県弁護士会も憲法に違反するおそれがあるとして、廃止を求める会長声明を発表している。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

●「条例の立法目的が正当ではなく、憲法に違反」

今回の条例の目的「ゲーム障害」について、次のように書かれている。

インターネットやコンピュータゲームの過剰な利用は、子どもの学力や体力の低下のみならずひきこもり睡眠障害、視力障害などの身体的な問題まで引き起こすことなどが指摘されており、世界保健機関において「ゲーム障害」が正式に疾病と認定されたように、今や、国内外で大きな社会問題となっている。とりわけ、射幸性が高いオンラインゲームには終わりがなく、大人よりも理性をつかさどる脳の働きが弱い子どもが依存状態になると、大人の薬物依存と同様に抜け出すことが困難になることが指摘されている。

原告側は、「ゲーム障害」の定義が不明確であり、「ひきこもり睡眠障害、視覚障害などを引き起こす」という点に対して、「科学的根拠が不明」とする。また、"世界保健機構(WHO)でゲーム障害が正式に疾病と認定された"とされているが、ゲーム障害について触れた「ICD-11」(国際疾病分類第11版)は2018年に公表されたもので、条例成立時は未発効のものであることも指摘している。

続いて、条例では「ネット・ゲーム依存症」について、次のように書かれている。

加えて、子どものネット・ゲーム依存症対策においては、親子の信頼関係が形成される乳幼児期のみならず、子ども時代が愛情豊かに見守られることで、愛着が安定し、子どもの安心感や自己肯定感を高めることが重要であるとともに、社会全体で子どもがその成長段階において何事にも積極的にチャレンジし、活動の範囲を広げていけるようにネット・ゲーム依存症対策に取り組んでいかなければならない。

この部分に対して、原告側は「ネット・ゲーム依存症」は「医学的根拠を持つ疾病なのかも不明確である」とする。一方、WHOによる「ICD-11」が定義する「ゲーム障害」は、「オンラインゲームやビデオゲームのやりすぎで健康を損なったり生活に支障をきたすこと」が対象で、「少なくとも、ゲーム行動ではないインターネット利用は、その対象となっていない」と指摘する。

●コロナ流行下で保障されるべき子どものオンライン活動

また、原告側は、仮に立法目的に正当性が認められたとしても、利用時間などを定めたことは、原告らの基本的人権に必要以上の制限を強いているとして、次のように指摘している。

「子どもに家庭で何時間ゲームを利用させるべきか、スマートフォンを何時間利用させるべきか、何時まで利用させるべきかは、親子で話し合い、その経験を重ねること自体が、互いに成長することができる貴重な学びの場となることである。この条例は、その場を奪うことを意味しており、憲法が保障する諸権利を合理的な根拠なく侵害するもので、原告らの基本的人権を必要以上に制限していることは明白」

一方、この条例が施行されたのは今年4月だが、新型コロナウイルスの世界的な流行下にあり、外出制限が求められたり、休校する相次いだ。これを受けて、「あつまれ動物の森」など、ネットを利用したゲームが子どもたちの間のコミュニケーションツールとして活用されたとしている。

日本も批准国である「子どもの権利条約」の委員会は4月、新型コロナ流行下で、子どもたちにとって、余暇やレクリエーションとして、テレビやオンラインでの活動が保障されなければならないという声明を発表している。これについても、原告側は、「条例は子どものそのような活動を制限するものであり、声明に反して許されない」とした。

原告の男子高校生、渉さんは、この裁判を起こすために、ネットで支援を募るクラウドファンディングで、1844人から約612万円を集めていた。

「ゲーム規制条例は違憲」 男子高校生、9月30日に香川県を提訴へ「貴重な学びの場を奪う」