(星良孝:ステラメディックス代表取締役/編集者・獣医師)

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 8月の新規感染者の増加を第二波とすると、その人数はやや減少傾向にあり、関心は秋冬シーズンの第三波の動向に向いている。そこで生じ得る問題はいくつかある。新型コロナウイルス感染症そのものの問題、さらにその周辺の問題だ。

 新型コロナウイルス感染症そのものについては、症状が重い人や死亡者が出ないかどうか引き続き監視が必要だ。当然、新規感染者の増加が見られるかも注意すべきだろう。

 さらに、周辺の問題としては、インフルエンザをはじめRSウイルスや感染性胃腸炎など、新型コロナウイルス以外の感染症の流行に注意を払う必要がある。新型コロナウイルス感染症への対応が迫られる中で、別の病気をいかに予防するか、診断や治療をいかに行うかが課題になる。新型コロナウイルス感染症の蔓延と他の感染症が重複して拡大した場合の対処も問題だ。

 今回は、これから直面する課題の中でも、新型コロナウイルス感染症そのものの脅威に注目し、今後の展望を海外の研究を参考として考察する。

53カ国中43カ国で致死率が減少

 全体では、楽観的な見方と悲観的な見方が交錯している。

 楽観的な見方として特筆すべきことは、目下、欧州を中心に新型コロナによる致死率の激減が観測されている点だ。新型コロナウイルス感染症の病気としての脅威が弱まっているという可能性がある。

 9月6日、米国、中国、香港の合同研究グループが感染第二波における致死率の低下が見られると医学誌『Transboundary and Emerging Diseases』で報告した。致死率は感染者に対する死亡者の割合で、53カ国での第一波と第二波の致死率を比べると、43カ国で致死率は下がっていた。特に欧州の国々を中心に致死率が大幅に減っていた。すべてではなく、ベラルーシ、ペルー、アフガニスタンなど、致死率が上昇している国々もある。

 この論文を踏まえて、論文で致死率が最も大きな割合で減少していたスペインデータを見ると、激減ぶりは目を見張るものがある。以下の図は世界保健機関WHO)のデータで、上段が新規感染者数、下段が死亡者数を表している。

 新規の感染者は3月頃には1日1万人単位で報告され、その後8月にも同じような規模で報告されている。一方で、死亡者は3月頃に毎日1000人近く報告されていたのと比べると8月には2桁に低下、1桁の日も出るようになった。明確に致死率が低下している。

新型コロナの死亡率が下がった理由

 先の論文ではこうした致死率減少の背景にある理由をいくつか挙げている。一つは、研究グループが「弱者刈り取り効果(harvesting effect)」と説明する疫学的な考え方だ。第一波で感染症の影響を受けやすい人が亡くなり、その結果として第二波で亡くなった人が減ったという説明だ。

 もう一つは、第二波では医療機関などの準備態勢が整い、受け入れキャパシティーが拡充したこと。医療機関がより症状の軽い人を受け入れるようになり、このために致死率が減ったという考え方だ。

 さらに、感染者の年齢構成が変わったこと。外出自粛の緩和などによって日本でも若年層の感染者が多くなっていると報じられている。感染による死亡率が低い若年層の感染が増えたため、全体の致死率が下がった可能性があると考えられている。

 このほかウイルス自体が変化して、若い人や子どもに感染しやすくなったとの見方、あるいは温暖な気候などの環境要因が関係している可能性も指摘している。これまでの情報から断定的なことは言えないが、データ上は先進国を中心として致死率が大幅に減少しているのは間違いなさそうだ。

 この論文とは別に、9月にフランスの研究グループが、流行の始まった時期が遅い国ほど死亡率の上昇が緩やかだった事実を報告している。前述の第二波で致死率が下がった理由でも触れたが、医療機関の準備態勢が整えられたことが関係しているのかもしれない。

自然界に帰って行ったSARS

 新型コロナウイルス感染症が弱毒化し、風邪のウイルスの一つに成り下がればそれは望ましいのかもしれない。

 新型コロナウイルス感染症の流行から遡ること17年前、SARSが香港を中心に流行したとき、10%近くの致死率を示したSARSは脅威と騒がれた。だが、急速に感染者が減り、最後には消失した。2004年に突発的な発生を見せたものの、その後、世の中から報告されなくなり、結局、自然にウイルスを保有している動物もハクビシンコウモリが疑われているが、何がウイルスの宿主だったのかは闇の中となった。

 こうした経緯について、中国の研究グループ2014年に、SARSが祖先ウイルスから発生したものの、感染する人や動物などを変える中でウイルスが「逆行進化」をして祖先ウイルスに戻ったと推定している。SARSは病原性につながる遺伝的な変化を起こしたのだが、その後、さらに変化した結果として元に戻ってしまったというのだ。

 この8月には、米国、ブラジルイタリアの国際グループによって、新型コロナウイルスが新たな突然変異により弱毒化している事実が明らかにされている。筆者は以前の記事で、新型コロナウイルスが6種類に分かれていると伝えた。このときは、変異したG系統というウイルスが感染力を強めていると説明している。

 その後も、進化は依然として続いている。新型コロナウイルスも逆行進化して、弱毒化して、重い病気につながりにくいウイルスになる可能性もある。祖先返りして自然界に戻っていくというのも荒唐無稽な話ではない。

年内に死者倍増の世界的な観測も

 もっとも、楽観論ばかりでもない。米国ワシントン大学の保健指標評価研究所(IHME)は9月3日、世界の新型コロナウイルス感染症による死者の推計を発表、2020年の世界の死者は280万人に上る可能性が高いとの見方を示した。8月までの死者90万人に対して、年末までにさらに190万人増えるという内容だ。

 対策の取り方によって、3段階に分けて推計を出している。死者数280万人は現状のまま推移した場合。死亡者がもっと増えるとみているのはマスクの対策を強化せずに、ソーシャルディスタンスの対策を緩和した場合で、2020年の死者は400万人に拡大すると推定している。逆に、マスク着用やソーシャルディスタンスの対策を強化した場合には200万人まで減らせると見る。

 研究所では対策の強化で75万人の命を救えると強調しているが、いずれにせよ、これまでの死者から見れば最低で倍増という内容だ。

 この8月、英国、中国、米国の研究グループは重症化リスクが高い人についての推計を報告した。1つ以上の疾病を抱えている人を重症リスクの高い人たちと定義、世界人口の22%に当たる17億人の重症化リスクが高いと推計した。こうした重症リスクが問題になる国では、高齢者、HIV感染者エイズ患者、腎臓病、糖尿病、循環器疾患、慢性呼吸器疾患を抱えている人たちが問題になる。

 ここまでの報告から考えれば、こうした重症化リスクの高い人々をいかに守るかが死亡者数のカギを握る。それはマスク着用やソーシャルディスタンスなど日々の工夫のほか、ワクチン接種といった予防策の確立が関係する。

国家としてのデジタルデータの活用が不可欠

 この9月、米国、サウジアラビア、韓国の研究グループが報告した「デジタル公衆衛生」の観点も重要になってくるだろう。デジタルデータの活用を進めることで、感染症への対策をより確実なものにしていくという発想だ。公的情報、センサーデータソーシャルメディアなど新たな情報源などの活用も進めることが重要としている。

 この研究では、要点として6つを挙げている。1. 公的データの活用、2. 非医療的データの利用、3. スマートフォンなどによる遅延のない情報取得、4. 接触追跡、5. メディアや公的機関などでのデータの迅速な共有、6. データの統合、分解による詳細な解析──。こうしたデジタル公衆衛生がパンデミックへの対応を加速させると強調する。日本を含め、デジタルデータの活用を引き続き進めるのは重要だ。新政権はコロナ対策を重要課題に掲げているが、厚生労働省などに加え、新たに発足したデジタル庁はこうした点から重要かもしれない。

 これからワクチンや薬の開発も進むが、時間はもう少しかかりそうだ。欧州の致死率の減少から見ると、全体としては社会的な対策やデジタルデータの活用などが奏功していると見られる。科学的な対応により、パンデミックを乗り切る道筋を作っていくことは不可欠。手を打つべきポイントは見えている。

参考文献

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Spain Situation(WHO)

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恐れていた感染第2波、正体は感染力を増したG系統

First COVID-19 Global Forecast: IHME Projects Three-Quarters of a Million Lives Could be Saved by January 1

COVID-19 Projections(IHME)

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