◆子供のいる日本を離れることがでず、悩み続ける

牛久入管より解放され、安堵の表情を浮かべるアンドレさん

 日系ブラジル人のアンドレ・くすのきさんが牛久入管から9月2日に仮放免された。トータルで約2年の収容生活だった。

 アンドレさんは2005年18歳の時に来日。もともとは日本で仕事をするためにやってきて、すぐ帰る予定だった。日本で出会った女性と結婚して2人の子供を授かり、そのまま日本で暮らしていた。

 しかし、たった一度の過ちがアンドレさんの運命を狂わせ、入管で虐待される日々を送ることになる。違法薬物を所持していたことにより3年の執行猶予がつき、刑に服すこと自体はなかったが、この件でビザの更新ができずに仮放免の状態となってしまったのだ。

 その8か月後の2018年1月、東京入管に収容されることになる。このことが原因のひとつとして、離婚となってしまった。しかし、元妻にはいつでも2人の子供と会うことを許されていた。

 退去強制命令が出てしまったアンドレさんだが、子供たちと離れることが辛くてブラジルに帰ることを躊躇していた。入管職員には、「離婚したのだからもう関係ない。早く帰国するべきだ」と促されたが、戸籍上は他人でも自分の子供には変わりない。どうしても離れることが辛く、悩み続けた。

◆入管の「制圧」はただのリンチとしか思えない

後ろ手錠をしたまま運ばれるアンドレさん。「痛い!」と激しく叫んでいるが、職員に「痛くねーよ!」と怒鳴られている(アンドレさん提供)

 2018年10月アンドレさんは東京から牛久入管(茨城県)へ移送されることになった。その理由を求めたが、入管職員が答えてくれることはなかった。

 遠い牛久入管に連れて行かれたら、知り合いはおろか、誰も面会に来なくなってしまうのではないかという不安が訪れた。さらに、同年に自殺者を出している場所(2018年4月にインド人が自殺している)に行く恐怖も感じていた。

「どうしても行きたくない」とトイレに逃げて籠城したところ、職員たちから激しい暴力を受け、牛久へ連れて行かれた。この暴力事件についてアンドレさんは現在、国賠訴訟で争っている。(筆者記事「常勤医が『気に入らないなら日本から出ていけ』。牛久入管でいまだ横行する被収容者イジメ」参照)

 過去、入管職員から制圧にあった人たちから証言を集めると、やり方はだいたい共通している。おそらくマニュアルがあるのだろう。

 集団で被収容者を地面に叩きつけ、職員たちが押さえつけ後ろ手錠をかける。身動きできなくなった相手に対し、手首をねじり上げるなど必要以上に痛めつける。痛みで叫ぶ被収容者に、よってたかって罵倒の言葉を投げかける。

 これは徹底して抵抗する気持ちを失わせ、屈服させるつもりでやっているようだが、一見するとただのリンチとしか思えない。公務員がここまでやっていいのだろうかとの疑問が残る。刑務所でも、ここまでやれば問題になるだろう。

◆20日間シャワーを浴びさせないなどの嫌がらせ

運ばれた後も引き続き暴力を受けているアンドレさん。どんなに痛がってもやめてくれない(アンドレさん提供)

 移送されたアンドレさんは、しばらくして他の被収容者とともに、解放を求めるハンガーストライキを開始した。その報復か、仮放免が決まって保証金を支払っても、すぐ捕まるという嫌がらせを2回も受けた。ハンストに加わった他の被収容者たちも、同じような対応を受けている。

 1回目はわずか2週間のみの猶予で、東京入管へ呼び出されて再収容され、すぐに牛久へ移送。しばらくしてまた仮放免となったが、わずか約3週間しか認められなかった。

 3週間が経ち、決められた日に東京入管へ出頭しなければならなかったが、アンドレさんはその日、体調がすぐれなかった。電話で出頭できない旨を伝えたが、その日のうちに職員たちが家までやってきて、強制的に連れて行かれた。

 2020年の2月には、とうとう帰国する決心をした。裁判が終わり次第ブラジルに帰ろうと考えた矢先、新型コロナウイルスが流行りだした。航空便がなくなり、帰国が不可能となってしまったのだ。裁判も延期になり、結局残るしかなくなってしまった。

 八方ふさがりとなってひたすら苦痛の日々が続き、アンドレさんはだんだん食事がのどを通らなくなり、やせ細っていった。

 それを若い常勤医に「ハンストだろう」と責め立てられ、「食べないなら差し入れも受け取らせない。シャワーも浴びさせない」と、20日間もシャワーを浴びることができないという嫌がらせを受けた。これには他の職員も、さすがに疑問を感じているといった態度をアンドレさんに見せていたらしい。

◆常勤医が「GO! GO! 制圧!」
 ある日、アンドレさんは常勤医に「体重計に乗れ」と命令され、拒否をした。すると複数の職員に制圧され、無理やり体重計に乗せられそうになった。その時、常勤医は「GO! GO! 制圧!」などと言い放っていたという。しかも、職員たちがアンドレさんを抑え込んでいる中、常勤医までが足をねじるように強く押さえつけてきた。

 別の日には「点滴を打つ」と言って、嫌がるアンドレさんの腕を職員たちに押さえつけさせ、むりやり針を刺そうとした。あまりにも嫌がるアンドレさんを見て、職員が「今日は辞めましょう」と静止して、その場はしのぐことができた。

 これに対し、牛久入管の総務課は「本人は、『GOGO制圧』なんて言っていないし、『国に帰れ』等の暴言も吐いていないと言っていました」と回答している。

 アンドレさんは個人情報開示を申し入れ、職員や医者に制圧された映像の入手を試みている。それさえあれば、事実がはっきりするのではないだろうか。

 その常勤医に「国に帰れ」「あなたの命は私の手の中」などの暴言を吐かれたという証言は、ほとんどの被収容者から得ている。あまりの常勤医の態度に、入管職員が被収容者に対して同情的な態度を見せることもあるらしい。

 アンドレさんは仮放免が決まった時、常勤医にこう言われたという。

「これからどうするの? 国に帰るの? 帰らないならまた捕まえるよ。子供に会うの?(イラン人は犯罪者だから)イラン人とは仲良くしないでね」

 アンドレさんは東京の知人の元に身を寄せることになる。帰るにも帰れない今の情況で、この先どうしていけばいいのか、判断に迷っている様子だった。まずはゆっくり休んで、傷ついた身心を癒してほしい。

<文/織田朝日>

【織田朝日】
おだあさひTwitter ID:@freeasahi外国人支援団体「編む夢企画」主宰。『となりの難民――日本が認めない99%の人たちのSOS』(旬報社)11月1日に上梓

後ろ手錠をしたまま運ばれるアンドレさん。「痛い!」と激しく叫んでいるが、職員に「痛くねーよ!」と怒鳴られている(アンドレさん提供)