31分野の統計データ、20分野の調査データの合計51の項目について評価

給付金オンライン申請などでさまざまな問題が生じ、一部の人からは「日本ITの没落ぶり」が指摘される一方、「日本のIT競争力はいまだに世界トップクラス」という声もある。一体、日本のITは世界の中でどのくらいの競争力があるのだろうか。

これを正確に知るには、IMD World Digital Competitiveness Ranking」が役に立つ。スイスの国際経営開発研究所(International Institute for Management Development、IMD)が公表している世界63カ国のデジタル競争力ランキングだ。

このランキングは、31分野の統計データ、20分野の調査データの合計51の項目について評価をし、これを点数化してランキングを作成している。「知識」「テクノロジー」「将来への備え」の3つのカテゴリーがあり、それぞれにサブカテゴリーが設定され、サブカテゴリーごとの順位も公表されている。つまり、総合順位だけでなく、どの分野が優れていて、どの分野が劣っているかもわかるようになっている。

このランキング内容をご紹介しながら、日本のITの世界の中での地位、そして強みと弱みを探ってみたい。


(デジタル競争力ランキング。世界の中で日本は23位。昨年から1つ順位を下げ、中国に抜かれた。アジアの中では第6位。マレーシアに激しく追い上げられている)

もはや「トップグループに属している」というのは過去の幻想

日本の総合順位は、63カ国中23位。悪くはないが、決していいとも言えない。少なくとももはや「トップグループに属している」というのは過去の幻想になってしまっている。1位は米国、2位はシンガポール、3位はスウェーデン。このランキングは、インフラの充実度、普及度なども勘案して算出されるため、人口の小さなコンパクトな国はランキング上位に入りやすい。シンガポールや北欧諸国、香港、台湾などの順位が高いが、IT産業が発展しているだけでなく、ブロードバンドの普及率などが進みやすいことも影響しているのだと思われる。

そのことを加味しても、日本の順位はパッとしない。もはや、GAFAグーグルアマゾンフェイスブックアップル)のテックジャイアントを擁する米国と競争するというのは現実的な話ではなくなっている。むしろ、上位国といかに協調して日本のIT競争力を高めていくのかを考えるべき状況になっている。

アジア圏でのランキングは!?--ライバルはマレーシア

そこで、アジア圏だけのランキングも抜き出して作ってみた。すると、アジア12カ国中、日本は6位。日本より上位なのは、シンガポール、香港、韓国、台湾、中国。そして、日本より下位なのは、マレーシア、タイ、インドフィリピンインドネシアモンゴルとなる。日本は、アジアの中でのIT先頭集団には入っているものの、その集団の最後尾を走っている印象だ。

では、日本のITの強みと弱みはどこにあるのだろうか。IMDランキングに登場する3つのカテゴリー別の順位では、6位または7位で、日本はバランスがいいように見える。しかし、マレーシアと激しい6位争いをしていることに注目をしていただきたい。日本のITのライバルは、もはや台湾や韓国、中国ではなく、マレーシアなのだ。


(日本はアジア12カ国(と地域)の中で6位。「知識」「テクノロジー」「将来への準備」別に見てみると、マレーシアと抜きつ抜かれつしており、マレーシアライバルになっていることがわかる)

「人材」のサブカテゴリーの中で、「デジタルスキル」は最下位グループ

3つのカテゴリー「知識」「テクノロジー」「将来への備え」はそれぞれ3つのサブカテゴリーに分けられている。

「知識」カテゴリーの内訳は、「人材」「教育」「科学への集中度」に分けられている。このサブカテゴリーごとの順位を見ると、日本の強みと弱みがよくわかる。「科学への集中度」は日本はアジア3位で優秀。ところが「人材」になるとアジア11位になってしまう。日本より下はモンゴルだけだ。IMDランキングでは、このサブカテゴリーごとにさらに細かい項目別ランキングが算出されている。

「人材」のサブカテゴリーの中で、日本が優秀なのは「国際学力調査PISAの数学の得点」が世界第4位になっている。日本人がそもそも優秀なのか、教育が充実しているのかはともかく、誇らしいことだ。しかし、一方で「国際経験」は世界第63位、つまり世界最低という無残な状況。「デジタルスキル」も世界60位と最下位グループだ。


(知識カテゴリーでは、人材面のひどさが目につく。特に「国際経験」と「デジタルスキル」は世界最低レベル)

この総合ランキングの最下位グループは、コロンビアアルゼンチンウクライナ、ペルー、モンゴルベネズエラ。国際経験ではこれらの途上国よりも劣っていて、デジタルスキルもこれらの国と同等。この2つに関しては、日本は先進国ではなく、途上国レベルになっている。

日本のデジタルスキルが途上国レベルというのは納得できない方もいるかもしれないが、ここでのデジタルスキルは個人のスキルではなく、企業や機関などの集団でのデジタルスキルも対象にされている。いまだに、手書き書類、ハンコ、ファクスで事務処理をしている企業、機関は多く存在していて、それを考えると、最下位グループというのも納得できるはずだ。

「教育」サブカテゴリーで評価が低いのが「教育に対する公的支出」

「教育」サブカテゴリーで、優秀なのは「高等教育の教師と生徒の比率」が世界第1位。近年、日本の大学の国際的地位の低下が指摘されているが、学生にとって最高の環境が提供されている。一方で、評価が低いのが「教育に対する公的支出」で世界第55位。

「科学への集中度」のサブカテゴリーで、優秀なのは「高度技術特許への助成金」「ロボット教育、ロボット研究開発」がいずれも世界第4位。一方で、評価が低いのが「女性研究者の数」が世界第54位。

この辺りは、実感としても納得しやすい。

「テクノロジー体制」サブカテゴリーで最も低いのは「コミュニケーションテクノロジー」

テクノロジーカテゴリーは、「規制体制」「資本」「テクノロジー体制」の3つのサブカテゴリーに分けられている。

「規制体制」サブカテゴリーでは、残念ながら上位にくる項目はない。「起業に関する規制」も世界第42位と低い。また、「移民法」に関しては世界第56位と最下位グループ

「資本」サブカテゴリーでも上位にくる項目は存在しない。「電気通信分野への投資」は世界第57位で最下位グループ

テクノロジー体制」サブカテゴリーでは、「モバイルロードバンド利用者数」が世界第1位、「ワイヤレスブロードバンド」が世界第2位、「インターネット利用者」が世界第5位と多くの項目が世界最高レベルになっている。このサブカテゴリーの中で最も低いのは「コミュニケーションテクノロジー」だが、それでも世界第36位だ。


(テクノロジーカテゴリリーでは、資本の低迷ぶりが目につく。しかし、テクノロジー体制のブロードバンド普及などは世界トップレベルだ)

「ビジネスの機敏さ」サブカテゴリーは世界最下位の項目が3つ

「将来への備え」カテゴリーは、「適応体制」「ビジネスの機敏さ」「IT成熟度」の3つのサブカテゴリーに分かれている。

「適応体勢」サブカテゴリーで、優秀だったのは「電子行政参加」の世界第5位。行政関連のオンライン申請、行政のネットによる情報提供、オンラインによる意思決定参加(パブリックコメントなど)が内容。日本人としては、マイナンバーカードの普及も今ひとつで、まだまだ足りないと感じることが多いが、世界の中では恵まれている方なのかもしれない。このサブカテゴリーで最下位グループに入る項目はない。最も低いのが「グローバル化への体勢」の世界第44位となっている。 「ビジネスの機敏さ」サブカテゴリーはかなり衝撃的だ。世界最下位の項目が3つもある。「機会と脅威」「企業の機敏さ」「ビッグデータ解析の利用」だ。少し極端に言えば、「ビジネスチャンスはないのに、脅威ばかりが存在する。それなのに企業は保守的で何もしない。世界では電卓や天気予報のように当たり前に使われているビッグデータも使っていない」が、日本のビジネス環境だと言うことになる。評価が低いのではない。世界最下位なのだ。

「ITの成熟度」カテゴリーでは、特に悪い項目はなく、「ソフトウェア権利侵害」が世界第2位となり、権利侵害に厳格に対応している。


(将来への備えでは、ビジネスの敏捷さが世界第41位と低迷している。マレーシアインドネシア、タイなどの東南アジア各国よりも低い)

日本のIT、人材、教育、ネット環境は優れているがパフォーマンスは悪い

おさらいのために、紹介した上位項目と下位項目を整理してみた。これがそのまま日本のITの強みと弱みになる。


(日本ITの強みと弱みを列挙してみた。日本ITの歪みの輪郭が見えるはずだ。キーワードは「人材の多様化」にあるかと思う。これをベースにSWOT分析をしてみるのはいい演習問題になるはずだ)

並べてみると、日本のITの輪郭が見えてくるのではないだろうか。人材は優秀、教育も優れている。ネット環境も整っている。しかし、パフォーマンスは悪い。その根っこにあるのは人材の多様性の乏しさだ。国際経験がなく、女性や海外人材を活用しない日本人男性だけのガラパゴスぶりが見えてくる。多様性のない集団は、ひとつの考え方に縛られてしまい硬直化するのも当然だ。これが企業の機敏さを失わせ、時代に追従していくことができない。そんな姿が見えてくる。就職や転職を考えられているエンジニアの方は、企業を評価するときに「人材の多様さ」を基準のひとつに加えるといいかもしれない。

なお、この強みと弱みと使ってSWOT分析ができる。SWOT分析とは、Strengths(強み)、Weaknesses(弱み)、Opportunities(機会)、Threats(脅威)の4つをマトリクスに並べて、事業戦略などを導き出すベースになる分析手法だ。学校や企業などでSWOT分析の演習をする際に、IMD World Digital Competitiveness Rankingに記載されている日本ITの強みと弱みを使い、そこに機会と脅威を追加することで、日本ITの次世代戦略を考えてみるというのは、いい経験になるはずだ。また、日本が目指すべき米国や、アジアライバル国のSWOT分析をしてみるのも有益だと思う。この貴重なIMD World Digital Competitiveness Rankingというレポートをぜひ活用してみていただきたい。

菅義偉総理・平井卓也大臣も注目!? 日本のIT競争力は世界でどれぐらいなの!?