全話世帯視聴率20%を超え、「令和ナンバーワンドラマ」の称号も獲得、「残すは2話のみ」というクライマックスを迎えて、ますます盛り上がる「半沢直樹」(TBS系)。

 他局にしてみれば、すでにお手上げ状態であり、「最終話の放送を静かに待ちたい」という心境になりそうなところですが、それでも、彼らはファイティングポーズを取り続けなければいけません。

「『半沢直樹』に勝つことは難しくても、負けの幅を小さくすることはできるはず」というのが各局の正直なスタンス。そこで、9月20日の午後9時台に編成されたのが下記の番組であり、それぞれの狙いが鮮明に表れているラインアップだったのです。

ドッキリ、2時間ドラマ、池上彰藤井聡太

 日本テレビは「うわっ!ダマされた大賞2020秋」。年2回ペースで放送されるドッキリ特番ですが、特筆すべきは内村光良さんや出川哲朗さんら出演者に加えて、スタッフも、「世界の果てまでイッテQ!」のメンバーが手がけていること。

 つまり、視聴率トップを走る日本テレビらしく、自信のある特番を真っ向からぶつけてきたのです。しかも、「あらゆる角度から笑わせよう」という番組のムードが、「半沢直樹」との差別化ができていることも強みの一つでしょう。

 テレビ朝日は「おかしな刑事 京都スペシャル」。9月20日の放送で24回目を数える2時間ドラマの人気シリーズであり、これまでコンスタントに世帯視聴率10%以上を獲得してきました。固定ファンの多いシリーズ作のため、失敗が考えづらいことから、「手堅く数字を稼ぐのならこの作品」という切り札と言ってもいいでしょう。

 フジテレビは「池上彰スペシャル!」。まさに「困ったときの池上彰頼み」と言われる番組であり、「新型コロナウイルスとの新たな闘い」という時事的なテーマは一定の視聴者層が見込める企画です。梅沢富美男さん、長嶋一茂さん、ゆきぽよさんらゲスト出演者を見れば、“池上彰的ニュースショー”のイメージで見やすさを重視していることが分かるのではないでしょうか。

 テレビ東京は「緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦」。こちらもテレビ東京を代表する番組ですが、今回は3時間30分にわたる大型特番仕様。さらに、新企画「全国の動物園ぜんぶ行く」も用意されているように、力の入った構成となっています。

 NHKは「NHKスペシャル 藤井聡太18歳“最強の棋士”へ~知られざる苦悩と進化~」。史上最年少での二冠獲得で国民的ヒーローとなったばかりの藤井聡太さんにクローズアップ。NHKスペシャルの中でも、キャッチーかつタイムリーな渾身(こんしん)のテーマと言えるでしょう。

中高年層狙いは「半沢」に影響する?

 こうして番組を並べてみると、よく分かるのではないでしょうか。日本テレビの「うわっ!ダマされた大賞2020秋」以外は、中高年層の好むタイプのコンテンツだったのです。

 テレビ局にとって、中高年層は苦しいときに最低限の数字を作る上で頼りたい存在。テレビ視聴人数そのものが多いことに加えて、録画やネットよりもリアルタイム視聴を好むなど、「中高年層をメインターゲットにすることで大失敗を避ける」ことが可能なのです。

 一方の「半沢直樹」は、すべての年代から満遍なく視聴されているため、これらのラインアップでは微減こそあっても、大きく数字を下げさせることはできないでしょう。しかし、それでも、中高年層は「半沢直樹」にとっても、さらなる視聴率アップのために支持を得ておきたい年代であり、裏番組の包囲網は気になっているはずです。

 また、「うわっ!ダマされた大賞2020秋」「池上彰スペシャル!」は午後8時台から、「緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦」は6時台からと、「半沢直樹」がスタートする9時より前から放送して、「チャンネルを変えさせない」ような番組作りを仕掛けるでしょう。全編に工夫を凝らすのはもちろん、9時をまたぐタイミングで最も注目度の高い内容を構成することが予想できます。

 万全の策なのか、それとも苦肉の策なのか。いずれにしても、各局は限りなく最善に近い策を打ちました。番組単体としての成功は難しくても、各局の狙いがかぶったことが奏功して、「半沢直樹」に一矢を報いる可能性は十分ありうるでしょう。政府という過去最大の強敵との戦いで世帯視聴率30%超えを狙う「半沢直樹」にとって、刺客となることは間違いありません。

コラムニスト、テレビ解説者 木村隆志

堺雅人さん(2017年10月、時事)