児童・生徒へのわいせつ行為により教員免許が失効しても、3年後に再取得を可能としている教員免許法の改正が検討されている。教員によるわいせつ・セクハラ被害は相次いでいるが、そもそも被害がどの程度あるのか実態調査は進んでいない。

NPO法人「スクール・セクシュアル・ハラスメント防止全国ネットワーク」の亀井明子代表によると、現在、わいせつ・セクハラ調査は千葉県神奈川県が独自におこなっているが、全国的には実施されていない。今年度は新たに大阪府静岡県が、児童生徒を対象にアンケート調査をおこなうことを決めた。

亀井さんは「表に出ている懲戒処分の数字は氷山の一角。実態がわからないと対策もできないので、文科省が統一した設問で 都道府県政令指定都市の教育委員会に全国調査をおこなうべく指示を出す必要がある」と訴える。

●刑事事件化されたものも

静岡県教委が県内の公立小中高生を対象に性的被害に関するアンケート調査に踏み切ったきっかけは、近年、教職員による児童・生徒へのわいせつ・セクハラ事案が相次いでいることだ。

昨年度の県の教職員の懲戒処分23件のうち、児童生徒に対するわいせつ・セクハラ事案は7件。今年度(4〜8月)は14件のうち3件だった。

刑事事件となったものも複数ある。中学校の30代男性教諭は、卒業生である複数の10代男性に、SNSで下半身の写真を撮って送るように連絡。うち2人とは個別に会って体を触った。男性教諭は県青少年環境整備条例違反(淫行)の疑いで逮捕されている。

また、高校の20代男性教諭は、勤務する学校の女子生徒二人と浜松市内で飲食し、うち一人の体を着衣の上から触った。強制わいせつの疑いで起訴され、懲役1年6月(執行猶予3年)の有罪判決を受けている。

県教委の担当者は「潜在的な事案を把握して対応ができる点と教職員への抑止効果を考えて、実施を決めた」。すでに高校ではアンケートを実施済みで、今後、小・中学生に対してはセクハラとはどういうものかパンフレットなどで説明した上で、今年度中に匿名でも回答可能な形で実施する予定だ。

大阪府は、7月に府が所管する高校や特別支援学校、中学校の生徒約12万人にアンケートを配布。「誰かからセクハラを受けたことがありますか」「どのような被害を受けましたか」などの設問があり、記名は任意で3月までに返送してもらう方式でおこなう。

●わいせつ行為の処分、2018年度に過去最多

前述の亀井さんは「まず被害が把握できないと対策もできないので、調査をおこなうことは重要」と評価した上で、「数字を出すだけでは意味がない。大事なことは、統計を出した後行政として何をするかだ」と話す。

「自分に起こっていることが何かわからない子どもは多い。自分の被害にふたをして、何もなかったと自身を納得させることもある。それが設問の仕方によっては、ふたがパカっと開く。私はやっぱり被害を受けていたんだと気づくと、心がしんどくなっていく。カウンセリングなども案内する必要があるし、相談があった場合の対応も考えなければならない」

文部科学省の発表によると、2018年度に全国の公立小中高校などでわいせつ行為を理由に処分を受けた教員は282人と過去最多となった。

亀井さんは「大人の社会におけるパワハラやセクハラと同じように、これまで見過ごされていたことが、発覚し始めていることは大きい。ただ、処分されていない教員も多い」と話す。

「スクール・セクシュアル・ハラスメント防止全国ネットワーク」には、「セクハラかどうか分からないけど違和感がある」といった相談も多く寄せられる。

ある保護者からは、美術教員が生徒に「(教員)自身が趣味で出展する絵のモデルを担ってくれないか」と声をかけ、制服をワンピースに着替えさせて美術教室で卑猥なポーズを取らせたという相談があった。教員に対しては学校長からの注意で終わった。

学校や教育委員会への相談サポートもおこなっている亀井さんは「教育関係者は、セクハラへの認識が希薄であり、わいせつ事案にはとりわけ身内意識が働き関わりたくないという身内をかばう意識がはたらく」という。

「保護者が未然に危ないと思って相談することもあるが、実際に被害にあわないと学校や教育委員会が相手にしてくれない。異動で済まされることもあるが、次の学校でも繰り返すことがある。教職員に対するスクールセクハラの防止研修も進めて、『可愛がっているだけ』で終わらせるのではなく教員の意識改革を含め共通認識としての緊急課題であると捉える必要がある」

NPO法人「スクール・セクシュアル・ハラスメント防止全国ネットワーク」では、相談を受け付けている。電話相談は火曜の11時〜18時、06-6885-1355。メール相談はcfcw-kawasaki@orion.ocn.ne.jpまで。

教員から生徒への「性暴力被害」調査、実施は4府県のみ NPO代表「懲戒処分は氷山の一角」