―[貧困東大生・布施川天馬]―


 現役東大生の布施川天馬と申します。学生生活の傍ら、ライターとして受験に関する情報発信などをしています。

◆カネがあれば、東大生になれるのか?

 前回、僕は「東大生の多くは莫大なお金を課金されている場合が多く、だからこそ受験というシステムは平等な競争になっていないのではないか」という記事を書かせていただきました。

 ありがたいことにこの記事に関してさまざまな反響をいただいたのですが、その中で「東大は課金すれば誰でも合格できるわけではない」というご意見をいただきました。これについて、僕はおっしゃるとおりだと思います。

 もちろん、課金されたからといって受験がうまくいかないことなんてよくある話だと思います。しかし、一方で「お金がない状態ではどうしてもキツいこと」もあるのではないかと感じていました。

 そこで、今回は僕の周囲の東大生たちとともに「お金があってできること、できないこと」について考えてみたいと思います。

◆「情報」と「時間」の格差は深刻

 まず、おカネで買えるものですが、これについては「情報」と「時間」という2つの意見が出てきました。

「情報」というのは塾に通うことで最先端かつ、よく研究された受験戦略情報を得られるということを指しています。

 つまり、塾で一流予備校教師による授業を受けて効率よく勉強したり、志望校の問題の傾向やその対策などを教えてもらったりすることができます。「時間」というのは塾に通って効率よく勉強することも指しますが、浪人という選択肢があることも含みます

 多くの場合、大学受験に失敗してしまい、浪人を決めた人は塾に通います。なぜならば、それまでの勉強の仕方がよくなかったからこそ受験に落ちたのであって、来年受かりたいのであれば、よりよい方式の下で勉強をしたほうが当然合格する確率は高くなるからです。

 しかし、浪人時の塾通いは年間100万円前後の膨大な学費がかかります。成績が飛びぬけて優秀なら学費免除もあり得ますが、そもそもそこまで優秀な人なら前年の時点で合格していますし、東大に合格する人でさえその基準を優に超えているような人はそこまで多くはいません。

◆「中学受験の経験」は大学受験を大きく左右

 勉強しやすい環境も金で買えます。進学校に通い続けてきた人たちには信じられないかもしれませんが、成績上昇を目指すために嫌々だとしても自分から進んで勉強するような人たちが集まる環境というのは非常にレアです。そんな環境も塾の難関校コースにいけば、簡単に手に入ります。

 また、「中学入試の経験」も金で買えるでしょう。前回の記事でも言及したように難関中学を受ける場合は中学受験までに200万円以上の金がかかります。

 そして、これは意外に思われることも多いのですが、中学入試の経験も大学入試に非常に役立つ場合が多いのです。

 中学入試の問題は、大学入試以上に思考力を問う問題が多く出題されます。もちろんこれらもある程度はパターン化しながら解くことができるのですが、特に中学受験算数の経験は、大学受験の数学の問題において、ある種の「センス」や「才能」ともいえるような力、「数学勘」を育てるのに非常に効果的なのです。

 図形を用いて思考力を問う問題を好んで出題する東大の受験について、これほど重要なスキルはありません。

◆カネで買える最も有効な受験スキルは?

 もちろん数学以外においてもこの「勉強勘」を育てる戦法は有効です。逆にこのセンスがない科目については非常に苦戦を強いられることになります。東大模試一位を取ったことのある秀才で、今月末に『東大式目標達成思考』という本の出版も決まっている東大2年の相生昌悟くんでさえ「自分は社会科目のセンスがなかったからとても苦労した」と語ってくれました。

 ですから、中学入試の経験も「カネで買える大学入試に向けた経験」となるのです。むしろこれこそが「カネで買える一番の受験スキル」かもしれません。

◆カネで買えないのは「親」と「地理的な環境」

 では、買えないものは何でしょうか。「カネで買えるもの」とは打って変わって、こちらは非常にシンプルな答えで一致しました。それは「親」と「地理的な環境」です。

 まず、当然のことですが、親をカネで変えることはできません。中学入試から大学入試に至るまでのほとんどの場面で、カネを出すのは保護者です。「カネで買えるもの」のためのカネを出してくれるのも親ですが、「カネを出せる親」がイコール受験生にとって理想的な親」ではありません

 さまざまな家庭環境があると思いますが、受験を見据えて話をしたときには、まず最低限「親が我が子の勉強に対して肯定的であること」というのは外せない条件になってきます。だって「勉強すると親ににらまれる」なんて環境で落ち着いて勉強できませんよね?

 親の同意が得られていない状態での受験はカネの問題だけではなく、家庭内での人間関係の悪化から、精神的な負担を受験生に強いる可能性があります。だからこそ、受験という話をするときには、生徒のみならず、その親もあり方を問われることになります。

 逆にこれまで話を聞いてきた東大生たちの中で、親と非常に仲が悪い、もしくは親が教育に関して否定的な意見を持っているというような人はいませんでした。

◆地域による「教育機会の格差」はかなり深刻

 また、同じくして地理的な環境も変えられないでしょう。これは簡単にいえば「住んでいる地域」です。都市圏と田舎では、たとえ同じ金を払ったとしても、得られる結果が変わってくる場合があるのです。

 僕は東京生まれ東京育ちでしたので、都心の本屋や大手塾の大規模校舎へすぐにアクセスすることができました。ですから、参考書を選ぶときにも躊躇することなく本屋に行って一冊ずつ本を手に取りながら選んだり、気安く予備校開催の模試や格安で行われる特別授業に申し込んだりすることができました。もちろん模試には多くの受験生が集っていました。

 しかし、地方になると状況はまったく変わります。まず、地方の都心部でないと大手予備校の大規模校舎がないというのはザラで、しかもその学校によっては名物カリスマ講師が来てくれなかったりします。

 なぜなら彼らは東京や大阪などの一部大都市圏にある予備校周りで非常に忙しくしているため、地方の学校にまで手が回らないのです。そもそも地方では「特別授業」なんて開催されないケースもあります。それに受験者数だって、都市部のほうがずっと多いです。

◆いくらカネがあっても埋められないもの

 東大受験に限らず、都市圏と田舎とで受験生のできることや得られる成果にある程度の差が出てきてしまうというのはよくある話だと思います。

 実際、今回、話を聞かせてくれたK.Y.くんは九州南部の出身でしたが、「首都圏にいれば鉄緑会とかに通えてもっと楽に受験できたのになー」といつも歯がゆい思いをしていたそうです。

 また、五浪して理科三類に入った東大生の阿修羅さんは「試験場での緊張感やプレッシャーに打ち勝つための心の強さはお金で買うことはできない」と言っていました。これはまさにその通りだと僕は思います。

「課金」しても単純に東大に受かるわけではないという意見をいただききましたが、案外こういうところで明暗が分かれているのかもしれません。

◆「東大受験の課金ゲーム化」の本質とは?

 ここまで出てきたようにカネで買えるものは「情報」と「時間」、そして「中学入試の経験」でした。一方で買えないものは「親」と「地理的な環境」でした。教育に対してその真価を見極め、しっかり投資してくれる保護者の存在は大きいでしょう。まずこれは先立つ条件として挙げられると思います。

 しかし、これだけが東大入試の本質ではありません。なぜならこれは、そもそも受験するのか否かという問題に関わるからです。東大受験が課金ゲームか否かを語るとき、「受験すること」は大前提です。

 むしろ、僕は「中学入試の経験」に注目したいと思います。中学入試の経験は、親が教育熱心でなければそもそも中々ないことでしょうし、非常に金がかかります。さらにほとんどの受験を志す子供たちは塾に通うため、まさにこれこそが「課金ゲーム」なのです。

 おカネで買えることである程度受験の成功率が変わると僕は信じていますが、その中心は「中学入試の経験」の有無にあると思っています。受験開始年齢の早期化で、昨今さらに入塾の平均年齢が下がっているといいます。

 前回の記事の反響のなかには「カネ持ちのほうが受験に有利なのは昔から」という声もありました。これもその通りなのかもしれません。しかし、現役の大学生として受験に深くかかわる立場として「課金ゲーム化」は年々深刻になっていっているように感じています。

 受験の「課金ゲーム化」に歯止めがかかることを期待してやみません。

【布施川天馬】
1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』が発売中

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