―[負け犬遠吠え]―


ギャンブル狂で無職。なのに、借金総額は500万円以上。
それでも働きたくない。働かずに得たカネで、借金を全部返したい……。

マニラのカジノで破滅」したnoteで有名になったTwitter上の有名人「犬」が、夢が終わった後も続いてしまう人生のなかで、力なく吠え続ける当連載も17回。

 今回は、犬が日雇いバイトで「日雇いのプロ」と出会ったときのお話です。


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◆たとえ底辺だろうがどんな道にもプロはいる

 どんな道にもプロはいる。営業だろうと、投資だろうと、麻雀だろうと、日雇いだろうと。

 日雇いの仕事と言っても多種多様だ。知り合いから小遣いをもらって仕事の手伝いをするのも日雇いだし、個人事業主として依頼を受けるのも日雇い、そして求人サイトからその日だけの作業員としてアルバイトをするのも日雇いだ。僕はかつて、求人サイトの日雇いアルバイトのプロに出会った。

 就職する前、そして今の僕の生活は基本的に「金がなくなるまで遊んで」「金ができるまで働く」の繰り返しだ。借金を抱えている今となっては「働かずにギリギリ生活して」「生活できないくらい金がなくなったら働く」状態にマイナーチェンジしているが、基本的にはこの「静」と「動」、0もしくは1を繰り返している。いや、-1もしくは0か……。

 この生活スタイルに合っているのは短期労働で、必然的に求人サイトで工事現場の作業員に応募することが多かった。

 一番思い入れがある現場は千葉のイオンモールだった。巨大なショッピングセンターでは、大量の企業、そこが呼んだ大勢の職人、その職人たちを補助する無数の作業員がいる。作業場では毎日見違えるように建設が進み、同じ集合場所なのに、昨日目印にしていたものがなくなっていたり隠れていたりして、来る度に間違えてしまう。だから事前に駅で複数の作業員で集まり、徒党を組んで作業場に向かう。街中でもそういう光景が見れる。意識すると視覚に入ってくる「日常生活の裏側」だ。

 作業員が複数人いても全員が求人サイトからの派遣、なぜ徒党を組んだだけで作業場がわかるのだろうか。三人寄れば文殊の知恵という言葉があるが、ここではまったく関係ない。

 紛れ込んでいるのだ。たった一人の強者、「日雇いのプロ」が。

◆日雇いのプロは仕事を早く終わらせる

 彼らは自分がベテランだということを隠しながら、作業に支障が出ないように他の日雇いを誘導する。後に自分が日雇いをメインにして生活する時に思い知るのだが、日雇いのプロが重きを置いているのはあくまでプライベートの余暇であり、働く先々でわざわざ新しい友人を作ろうとはしない。だが仕事は早く終わらせたい。

「こっちっぽいね」
「さっき見たけど水道途中にあったよ」
「怒られんのダリーから二人で一枚運ぼう」

 作業前から作業中まで、ゲームチュートリアルで出てくる優しい吹き出しのような役割をこなし、作業終了後はいつの間にか帰っているので誰もその存在に気づかない。僕が気づいたのは鬱陶しいまでに人に絡む性格だったからだ。

 昔は工事現場にいる人はみんな同じ道を選んでいる人間ばかりが集まっていると思っていたが、そうではない。現場監督も職人も職業としては完全体で、みんな結構稼いでいる。働き方で言うなら僕は職人に憧れた。サッと現れて数時間作業してトラックで家に帰る。これで月に7、80万近くもらう職人もいる。実際にはもっと見えないところの苦労なんかもあるだろうが、僕には他人に縛られることなく自由に働いているように見えた。

◆日雇いのプロは「数時間先の未来」を見ている

「日雇いのプロ」の彼らに対して、我々のような求人サイトから流れ着いた日雇い作業員たちの志は海よりも低い。重いものを運ぶ、小道具を取りに行く、脚立を押さえる。どれも欠かせない必要な人員ではあるが、正直悪意がなければ誰がやっても同じだ。金がなくなったから仕方なくやる人間、その日の酒を買うために働く人間、人と関わりたくない予備校生。

 彼らのほとんどが現場仕事を軽視し、自分がこの中で一番賢いとでも言わんばかりの態度で「いかにサボるか」なんて話ばかりをしている。当初は僕もこのタイプだったが、思い返すと顔から火が出るほど滑稽で恥ずかしい。

 そんな掃き溜めの中で、粛々と日雇い作業員としての立ち回りを極めし者は一味違う。常にその作業が最短で終わるように作業工程も完璧、質問してみるとわかるが、彼らは「今」ではなく「数時間後の未来」を見ている。

 僕がよく行く現場には「岩崎」という男がいた。同じ派遣会社から現場に派遣されているので何度も現場で被っていて、髭の多い大男だった。髭というよりbeardと言った方が合っていただろう。当時の僕はかなり失礼に他人との距離を詰めるタイプだったので、その容貌から彼を「山のフドウ」と呼び、事あるごとに話しかけていた。

 この男を逃してはならない。後に派遣アルバイトで生計を立てる未来の自分の血が呼応した。最初の方こそ煙たがられていたものの、「知らん他のヤツと揉めたくない」という守りの姿勢が逆にフドウの弱点となり、5回目くらいの現場で彼も僕と仲良くならざるをえなくなっていた。

 フドウと会話していて衝撃を受けたことがある。まず、彼の月収は約50万円だということだった。僕と同じように派遣の仕事をしているならば、1日に稼げる金額はせいぜい1万5,000円がいいところだ。工事現場の時給は約1,400円。10時間以上働いたとして交通費込みでようやく届く。毎日働いていても50万円にはギリギリ届かない。しかもフドウは火曜日を固定休として週休1日を実現している。月に4回訪れる休みに全力を注いで遊び倒すらしい。さらに当時32歳だったフドウはこの時点ですでに800万円の貯金があった。月に4回の休みでも金は使いきれないので自動的に毎月10万円以上貯まるというのだ。

「この生活は今までで一番ハマっている。体が使い物にならなくなるまでこうして働くと思う」

 今になってみると理解できる。フドウもわざわざ競争するのが嫌だったのだ。きっとこの時点で自分にとっての幸福を見つけていた。まだ20代前半だった僕は、

「30にもなって派遣のバイトばかり。悪いけど人生の反面教師にさせてもらうぜ」

 と見下していた。

 思えば、我関せずと自分のしたい生活を素直に「一番良し」と受け入れるためには、他人に対する漠然とした劣等感や無駄な競争意識を全て排さなければならないので、フドウは32歳にしてもう成功していたのかもしれない。僕は今でも少し悩んでいる。自分は今の生活が一番ハマっていると思うか? という問いに対して迷いがある。

24時間の壁を超えるための“データ

 フドウが50万円を捻出するのにはコツがあった。

「いいか、この派遣の世界には、例えば8時間労働という看板を掲げながら実質2時間で終わるバイトが存在する。俺はそういう美味しいバイトを派遣先に聞いて一日20時間近く働くことができる」

 聞くと、そもそも派遣のアルバイトの募集をかける際にどのくらいで終わるかわからない仕事や、絶対にミスが許されない、または途中で終わらせてはならない工事というものがあり、早ければ2時間で終わるが、念のために4時間分募集したり、工事現場側でも珍しい作業だから作業の進行速度がわからずに8時間で募集をかけたりしている。この場合、現場が銀行だったり駅だったりと「絶対」に大金を費やせる企業であれば人件費もその分出るので、早めに切り上げたとしても募集の時間分の金が支払われるのだ。

 フドウはそういった事情がある仕事を派遣会社側に教えてもらったり、長年の派遣バイト生活で構築してきたFDB(フドウ・データベース)を基に選んでいた。

「8時間募集だけど2時間で終わる仕事を3回やれば1日24時間の壁を破ることができるぞ」

 そこに、天才がいた。

 フドウはこの世界の科学では絶対的と言われていた「時間」という壁を乗り越えて働いていたのだ。

 僕にとってこの話は革命的だった。その後サラリーマンとしてアルバイトを発注する立場になった時には理解していたが、この仕組み自体をアルバイターの立場で知る機会はほとんどない。

「何も起きない」には金がかかるし、日がなトラブルに巻き込まれていない平穏が膨大な金で守られていると考えると、感慨深いものがあった。アルバイトをする時に「どれだけサボれるか」を考えるのは、実はかなりもったいないことだったのだ。

「山のフドウ」はあなたのすぐ隣にいるかもしれない。

〈文・犬〉

【犬】
フィリピンカジノで1万円が700万円になった経験からカジノにドはまり。その後仕事を辞めて、全財産をかけてカジノに乗り込んだが、そこで大負け。全財産を失い借金まみれに。その後は職を転々としつつ、総額500万円にもなる借金を返す日々。Twitternoteカジノですべてを失った経験や、日々のギャンブル遊びについて情報を発信している。
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