「日本の読者の皆さまこんにちは。申し上げにくいのですが、この金曜日にあなたからの支援が必要なのです。私たちは非営利団体であり、営業担当はおりません」

【映像】ひろゆき氏ら出演者の”Wikipedia”を検証

 最近、Wikipediaアクセスすると大きく表示される寄付のお願い。そこまで呼びかける理由は、Wikipediaが非営利団体であること。つまり、活動資金はすべて寄付で賄っている。

 Wikipediaは、誰でも執筆・編集が可能で、公式には載っていない情報が満載のネット百科事典。全世界でおよそ5400万以上の記事が存在し、すべてボランティアが執筆・編集している。では、実際にどんな人が書いているのか。

 Wikipediaの記事を書いたり編集したりする、通称“ウィキペディアン”のサトウさん(仮名)。お金をもらっているわけではないが、「記事を書くためには色々と調査が必要だし、そのコンテンツについて書いてある本や記事というのはいっぱいあって、本をちゃんと読み解くのに時間が必要。例えば、論文の参考文献いちいち調べていくとか、図書館に行って目当てのものがありそうな棚をひたすら見てみるとか、そういった調査をしている方も多くいらっしゃる」と、熱量はプロの編集者レベルだ。

 ウィキペディアンには執筆を楽しむ人だけでなく、荒らしやイタズラから守る管理者もいて、日々パトロールをしている。見るだけで全く知らないWikipediaの実態。18日の『ABEMA Prime』は日本語版管理者に選ばれて14年の青子守歌さんを招き、運営の裏側を聞いた。
 

■管理者の仕事とは? ウィキペディアンのモチベーションは?

 Wikipediaによると、Wikipediaは「世界中のボランティアの共同作業によって執筆されるフリーの多言語インターネット百科事典」。米ウィキメディア財団が運営し、資金は寄付金で賄う。2020年7月時点で300言語、記事数は5400万以上あるが、情報の信頼性・信憑性や公正性などは一切保証されていない。

 一般の人は「執筆と編集」ができるのに対し、管理者は「記事の保護(編集できない状態にすること)」「記事の削除」「ユーザーブロック」を行うことができる。管理者になるには投票による選考を経る必要があり、日本語版管理者は18日現在で40人いる。

 管理者の仕事について青子守歌さんは、「一般の人が勝手に記事を削除して復帰してとか、特定の人が荒らしブロックしたりすると大変なことになってしまうので、そういう権利は一部の信頼された人にだけあげましょうというのが管理者。保護や削除も管理者が判断するのではなく、誰かから依頼されてボタンをポチっと押す係なので、全然偉くはない」と説明する。

 最近の主張の激しい寄付バナーについては、「毎年『でかい。怖い』と言われるが、我々には止められない。財団で“これだけの予算を使って、こういうことをする”と決まっているが、逆に言ってくるのは『寄付バナーを出してくれ』くらいで、中身については一切ノータッチだ」と明かした。

 お金がかかっているのはサーバーソフトウェアの開発などだそうで、「Wikipediaは世界でいろいろな人から利用されているので、サーバーのトラフィック管理がすごく大変。加えてソフトウェア初心者の方にもっと使いやすく、編集してもらいやすくなるにはどうしたらいいかとか。もっと大きい話とか、Wikipedia以外の話も含めて彼らがやっているところにお金を投じているという感じだ」という。

 広告で収益を得ることはしないのか。「広告を出すと、広告をもらったところに忖度してしまう。悪口を言うわけではないが、テレビではCMのスポンサーのことはなかなか悪く言えない。なのでそうならないように、広告はやらない」とした。

 慶應大学特任准教授でプロデューサー若新雄純氏の「そこはまさにWikipediaの精神。あれだけのページで広告といったら、世界最高値の看板くらいとんでもない額になる。例えば、ビル・ゲイツとかに(寄付を)ドカンと貰ったら、それは結局一緒になってしまうのか。超大口の寄付は受け付けないのか」との質問には、「大口の寄付ももらうが、もらってもそこに何も忖度しない」と答えた。

 青子守歌さんは土木工学のソフトウェア開発者として会社勤務をする傍ら、「モールの定理」「コンクリート工」など加筆を含めた計8本の記事を執筆。また、Wikipedia英語版などから計15本を翻訳している。

 なぜここまで頑張れるのか。青子守歌さんは「モチベーションはみんなに聞かれるが、趣味というか、最初に手を付けたのでそのままやっているところが大きい。あともう今の時代は、大学の先生が本1冊書いても全然お金にならないと聞いている。どちらかというと、自分が知りたいことを調べた・まとめたついでに書く。それくらいの感じだ。(書き手が)善意ばかりかどうかはわからないが、ご自身の活動の一環でやっている方ももちろんいらっしゃる。でも、どんな思いがあってもいい」と話す。

 そんな中、Wikipediaの呼び方には気をつけてほしいそうで、「“Wiki”と呼ばないでほしい。これは大きくお伝えしたかったことの1つ。Wikiというのはみんなで編集するシステムで、それを使ったpedia(百科事典)と合わせてWikipediaだ。利尻昆布のことを“利尻”とは呼ばないだろう(笑)」と呼びかけた。
 

■Wikipediaの内容は「全く信用できない」

 Wikipediaの内容はどれくらい信用できるのか。試しに番組出演者のページを見てみると、「西村博之一人称はおいら。小学校で『明るい人第1位』」「若新雄純:重度の中二病。興奮すると両手で叩きながら話す」「向井慧:芸人イチ可愛い。偏食家で生ものが苦手」「紗倉まな:キャッチフレーズは『レモンティーよりも?(まなてぃ~!)…』」などの情報が出てくる。

 ひろゆき氏の小学校の話などは確認しようがないが、信憑性について青子守歌さんは「これは信用してはいけない。今日は“Wikipediaを信用するか”という話だと思うが、同じことを指摘しようと思っている」と話す。

 また、記事で重要視していることとして、「例えば、本当に第1位だったか、手を叩くかという事実かどうかは気にしない。重要なのは“誰々が言った”という検証可能なところ。まずそこが信頼性につながるところがある。すべての記述には出典がきちんとついているはずで、出典元に書いてあることが正しければ正しい」と説明した。

 記事の信用性についてひろゆき氏は、「Wikipediaトラブルに遭っている人の場合、本人が『そんなことないよ』と言っても『じゃあ書籍を出してください』とか言われて、直らない場合がある。本人の申請が通らない問題はどうなっていくのか」と質問する。

 青子守歌さんは「本人が発信されたことは一番信頼できる一方で、ちょっと偏る。自分のことを悪くはなかなか言いづらい。中立的な観点という記事の品質があって、それを守るために“本人が直接編集するのは避けてください”というのが基本的なスタンスだ。その変わり、例えば今日皆さんがお話しされたことが出典となってWikipediaが更新されることはあると思う」と難しさをあげた。

 これらを踏まえ、青子守歌さんWikipediaは「全く信用できない」と話す。「これは私の意見だが、おそらくWikipedia中の人に聞くと、ほとんどが『信用できない』と言うと思う。一生懸命やっているが(自信をもって信用できると言えるには)全然及ばない」。

 また、信頼性が今後上がっていくのかも疑問だとし、「100年かかるか、1000年かかるか正直わからない。皆さんや私が生きている間にWikipediaが信頼できるようになっていくかというと、ちょっと疑問かなと思うところはある」との見方を示した。

 これに対し若新氏は、「ひろゆきさんは良心的なシステム管理者だと思っている。2ちゃんねるはページがいつまでも壺でダサくて、ページ全体も安っぽかった。あの安っぽさとエロ広告が貼ってあることによって、“ここは信じちゃいけないよ”と思わせるすごく親切なサービスだったと思っている。でもWikipediaには“本当のことが書いてあるのかな”みたいな上品さがあって、そこはミスマッチがある」とした。
 

■“荒らし行為”も存在するが「現状は善意が優位」

 Wikipediaには“荒らし”行為も存在する。例えば、「高輪ゲートウェイ駅」が発表された直後、約30分で59回も編集され、「高輪ゲートボール駅」「高輪ハードゲイ駅」などに変える荒らし行為が行われた。

 管理者に24時間体制、スタッフの割り振りなどはなく、「管理者の人もやりたいこととやりたくないことがある。“今日ちょっと削除する気分じゃない”という時は、削除がいっぱい溜まることもある」という。

 善意と悪意。青子守歌さんは現状、善意が優位だとし、「荒れて全然使えないということはない。信頼性も確かにないと言ったが、使い方によっては今でも役に立つ。Wikipediaを信用するのではなくて、出典を信用するという使い方をする」と話す。

 では、名誉毀損等で訴えられるようなことはないのか。「それがあるので、今日(顔を)隠しているというのもある。特に荒らしを差し戻すと、荒らしが怒って訴えてくることがある。私ではないが、日本語版で実際になりかけたこともあった。そういうこともあって、ほとんどの管理者の方は顔を隠すなどして、なるべくリアル(の生活)に支障がないようにしている」。

 ひろゆき氏は「Wikipediaなんとかして直したいというものがあった時、日本の裁判所を使っても直せないということなのか。管理者が顔を隠しているし、身元もわからない」と尋ねる。

 青子守歌さんは「本当に何か困ったことがあったら、ウィキメディア財団が最終的に法律のことなどは守る。そのために財団をわざわざリアルに置いてあるので、最初に相談して欲しい。相談すると『こういうの来ている』『困っている』と財団から我々の方に通達されるはず。それを受けて我々の方で対応する。もしかすると『それは向こうが悪いので受け入れられない』となるかもしれないが、どうしても困っていることがあれば財団に送るのもひとつの手だと思う」とした。
 

■管理者が勧める“Wikipediaの楽しい使い方2選”

 最後に、青子守歌さんが勧める“Wikipediaの楽しい使い方2選”を紹介する。

(1)紙の百科事典には載っていない!珍項目(「5秒ルール」「お姫様だっこ」「スタッフが美味しくいただきました」「パリ症候群」「遅刻する食パン少女」など)
→報道とかでそういう話がいっぱいされると、それを元に記事が書ける。パリ症候群って皆さんが言えば言うほど、パリ症候群についての見識が深まって、記事が大きくなって正確になっていく。「珍項目」と検索すると一覧が出てくる(青子守歌さん

(2)Wikipediaメインページの多彩なコンテンツ(選り抜き記事、新着記事、今日は何の日、など)
Wikipediaにはメインページがきちんと用意されていて、ここには秀逸な記事や良質な記事、「今日は何の日」「最近書かれた項目」などが載っている。これを毎日眺めているだけで、全然知らない単語がこんなにあるんだとなる。Wikipediaを楽しむなら、ぜひメインページをご覧になった方がいい(同)

 “秀逸・良質な記事”とは、Wikipedia日本語版の中でも高品質で、選考を通過したもの。日本語120万以上の記事のうち、秀逸な記事は91本、良質な記事は1622本ある(9月18日現在)。

 青子守歌さんは「信頼できる情報源に基づいているか、中立的な観点であるか、独自研究でないか、の基準が全部定まっている。それが満たされていて、分量もたくさんある、関連するものも全部ある、というほぼ完璧な記事のことを秀逸な記事と呼ぶ」と説明した。
ABEMA/『ABEMA Prime』より)
 
「内容は全く信用できない」「ウィキと略さないで」 Wikipedia日本語版管理者に聞く、使い方&楽しみ方のそもそも