ウェブトゥーン(縦スクロールマンガ)作品や「小説家になろう」から派生した作品など、ウェブ媒体/プラットフォーム発の話題作をご紹介する本連載。

今月は日本のアニメ制作会社MAPPAが制作し、アメリカの配信サービス・クランチロールオリジナルアニメとして全世界に配信中の『THE GOD OF HIGH SCHOOL ゴッド・オブ・ハイスクール』、その原作者である韓国在住のウェブトゥーン作家、パク・ヨンジェ(Dragon&dragon)氏へのインタビューをお送りする。

取材・文 / 飯田一史

◆ジャンプマンガやあだち 充が大好き

ーー 日本の読者に向けて、パク・ヨンジェさんのプロフィールを教えてください。

はじめまして。韓国でウェブトゥーンを描いているパク・ヨンジェ(Dragon&dragon)といいます。
2008年に韓国のNAVER WEBTOONでデビューし、それ以来ですから『ゴッド・オブ・ハイスクール』(以下、『GOH』)の連載はかれこれもう10年目になります。
ウェブトゥーンを描く前はゲーム会社でゲームの原画家およびデザイナーとして1年くらい働いていました。その後、自分が本当にやりたいのはストーリーを描くことだと気づき、マンガの道に入ろうと決意しました。趣味はマンガを読むこと、ランニング(7kmくらい)、たっぷり寝ることです(笑)。

ーー 影響を受けた作家・作品があれば教えてください。

韓国にマンガ、アニメ、J-POP、ゲームなど日本の文化がたくさん入ってきた90年代にちょうど思春期・学生時代を過ごしていた僕は、日本の文化をとても楽しんでいました。
ドラゴンボール』『スラムダンク』『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』『ベルセルク』『タッチ』『H2』などは今でも大好きなマンガです。
魅力的なキャラクターの設定や、感情を表現する演出などにおいて、特に影響を受けたと思います。
日本のポップカルチャーは大好きです。
マンガはもちろん、ゲームからもかなり影響を受けたと思っています。

テコンドーを軸にしたアクションマンガを魅力的にするために

ーー 『GOH』を描くにあたって特にどんなところに力を入れていますか。

「どうすればこの局面が面白くなるか」――読者の方々にまるでジェットコースターに乗っているときのようなカタルシスを感じさせることです。
『GOH』で一番力を入れているのは、やはりアクションです。
韓国のウェブトゥーンでは多少マイナーなジャンルかもしれないです。でもだからこそ、様々な作家の方々と競争する中で自分自身を一番アピールできると信じ、アクションの演出に最善を尽くしています。

ーー どんな風に制作を進めるのですか?

思いついたアイデアはとりあえずたくさん描いてみます。普段から、連載分の3倍ほどのネームを作り、必要なものだけ切り取る方法で構想していきます。あれこれ考えずとりあえず描いてみた後でゆっくりと要らないものをとっていくやり方です。

ーー 作品の序盤でテコンドーをモチーフにウェブトゥーンを描くにあたって、工夫した点はありますか。ほかの格闘技と比べてマンガにしやすいと感じますか、それとも難しいと感じますか?

テコンドーをモチーフに描く時は、どれくらいリアルに描くかよりも、どれくらいかっこよく描くかに力を入れています。テコンドーは日本の格闘ゲームでもよく登場し、華麗な技(スキル)がかっこよく登場していた反面、韓国ではまだ日本のようにこの格闘技がうまく描かれていませんでした。
「それなら自分で描いてみよう! できるだけかっこよく!」と思いペンを握りました。
「他の格闘技より表現が難しいか」を答えるには、もうすでにこの作品が能力バトルものにジャンルが変わってしまっているので……判断が難しいです。
ただ、やはり足技がメインのイメージが強いため、足技以外のスキルが使われる時に、果たして読者の方々はこれをテコンドーと認めてくれるだろうか? もし認めてもらえない場合はどう表現したらテコンドーとして見えるだろうか? という点が一番難しかったかもしれません。

◆キャラクターはピンではなく群で考え、選択を迫ると自然と「立つ」

ーー 『GOH』のキャラクターたちは主人公チームの3人をはじめ、みな外見的な特徴や性格付けがハッキリしていて覚えやすいです。それだけでなく、それぞれのバックグラウンドストーリーが徐々に明かされていき、深みを増していきます。パク・ヨンジェさんはどんなふうにキャラクターづくりをしているのでしょうか。

キャラクターを作り上げるときには深く考えるよりも、瞬間的なひらめきを大切にしています。

あとはそのキャラクターごとにまわりの登場人物を固めていくといいますか……破天荒な主人公の“ジン・モリ”であるなら、彼を止めてくれるキャラクターや、その彼らの間で適度に雰囲気をゆるめることができるキャラクターなどを思い浮かべます。
それぞれのキャラクターが大体出来上がった状態で、彼らを「強制的に選択を強いられる状況」に置いてみます。彼らがどのような選択をするのか考え、その答えがでた時こそ1人のキャラクターが本当に完成する瞬間であると思います。

たとえば、友人の命を助けるためにGOHの大会に出場した“ハン・デイ”は果たして仲間になったばかりの“ユ・ミラ”を倒してしまうのか? それとも普段の性格通り、わざと負けてしまうのか?
こんなふうに強制的な選択を迫られる瞬間に、“ハン・デイ”に一瞬の迷いもなく友の命を選ばせることで「ああ……このキャラはこういうやつなんだな……」と読者にはっきりと伝えます。こういう状況をたくさん作っていくことで、ストーリーは自然と出来上がっていきます。

ーー 韓国で『GOH』の中での人気の高いエピソードやキャラクターについて教えてください。

一番人気があるエピソードは、今ちょうどアニメで放送されている「全国大会編」、あとは原作で連載された「ラグナロク編」の2つが反応が良かったです。
「全国大会編」ではサブキャラだった“パク・イルピョ”、メインの悪役“ジェガルテク”この2人が人気を得ました。

特に“パク・イルピョ”は主人公チームよりも人気が出てしまい、どうにかして主人公の“ジン・モリ”に話を集中させるのにかなり苦労した記憶があります。

ーー イルピョは良いキャラですよね!

◆『GOH』特有の戦闘描写が生まれた背景とは?

ーー ウェブトゥーンのアクション描写では上下の運動、重力に合わせた表現(たとえばかかと落としや剣を振り下ろすような動き)が一般的ですが、『GOH』ではこのような表現はそれほど目立ちません。向かい合わせで戦っている人間同士を、片方は背中を向けている状態で、片方は読者のほうを向いている状態の絵を描く、という構図がよく用いられています。
ほかのウェブトゥーンと比べても日本のマンガと比べても、このような奥行きを活かした戦闘描写は『GOH』に特徴的な表現だと感じます。パク・ヨンジェさんがこうした表現を用いる(好む)理由は何でしょうか?

質問を受けた時、正直ちょっとドキッとしました。
韓国のウェブトゥーンの制作過程は、作家の自律性や個性などを最大限尊重するという点から、日本のシステムとは少し違うのかなと思います。ですので、実際に自分自身の演出方法について客観的に把握することは難しいです。
僕はそのような演出でよく描いているのかと、逆に質問を受けながら気づきました。

自分の演出について強いて説明するならば、 縦読みのウェブトゥーンは、左右に読む見開きのマンガとは違い、 一種の「紙芝居」のように見えてしまうのではないかと考えています。
見開きマンガの場合、ページを開いた時にたくさんのコマやセリフなど情報が一度に目に入るため、それに伴ったコマの構図が必要となります。それに対しウェブトゥーン ひとコマひとコマがスクロール形式で並べられるので、できるだけ「紙芝居」のような印象を与えないように注意していました。なので、読者の方々がキャラクター間の空間をはっきりと感じとれるように、ご説明いただいたような構図をよく使っているのかもしれません。

◆日本で『GOH』のアニメ&マンガに親しむファンへのメッセージ

ーー 今回のアニメ化にあたり、パク・ヨンジェさんから監督やプロデューサーに何かお願いしたことはありますか。

監督が制作された別の作品を拝見して「あぁ……この監督であれば全面的に信頼できる!」と思いました。ですから、僕からお願いした部分は特にないんです。
ただ監督と僕の年齢が近かったため、「な、仲良くしてください」というお願いはしました(笑)。ありがたいことに監督もそのお願いを聞き入れてくれて、今では仲良く連絡を取りあっています。アニメが終わり、機会があればぜひ日本に遊びに行って監督をはじめとするアニメのスタッフ、そしてプロデューサーにドーンと奢りたいです!

ーー 最後に、日本の『GOH』読者/視聴者に向けてひと言メッセージをお願いします。

改めてご挨拶させてください。
ゴッド・オブ・ハイスクール』のパク・ヨンジェ(Dragon&dragon)です。
小さい頃から日本のマンガを読み、たくさんの夢をもらい、想像力を培ってきました。
そんな僕がマンガ家になれたことがまだ夢みたいな話ですが、僕が描いたマンガが日本の読者の皆様に渡り、アニメ化までされているなんて……本当に想像すらできなかったことです。
アニメが放送されている今でもあまりにも嬉しすぎて「前世できっと何かいいことたくさんしたんだろうな。偉いぞ! 前世の俺!」と本気で考えています。
表現や完成度の面では、まだ足りない部分もあるかもしれません。でも作品に含まれた僕の熱意や気持ちだけは「本気」ですので、僕の気持ちが皆さんに伝わることを願っています。
ありがとうございました。

世界が注目するアクション表現はこうして生まれた! アニメ『THE GOD OF HIGH SCHOOL ゴッド・オブ・ハイスクール』原作者、パク・ヨンジェ(Dragondragon)インタビューは、WHAT's IN? tokyoへ。
(WHAT's IN? tokyo)

掲載:M-ON! Press