(赤石晋一郎:ジャーナリスト

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 尹美香(ユン・ミヒャン)議員が9月14日、詐欺や業務上横領の罪で在宅起訴された。尹氏は挺対協(現・日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯、通称「正義連」)の元理事長であり、慰安婦問題における最大のキーマンだった人物だ。

 韓国検察の発表によれば、元慰安婦の海外渡航費や弔慰金の名目で集めた寄付金を私的流用するなど、合わせて約1億ウォンを横領した疑いが持たれている、という。

「通常は起訴発表のとき、部長検事の名前で発表をしますが、今回はソウル西部地検長(女性)の名前でメディアに尹美香起訴のリリースを出しています。これは地検長が陣頭指揮を執るということを意味しており、検察の立件への決意は固いのではないかと言われています」(韓国人ジャーナリスト

 検察が起訴したのは詐欺などの8件の容疑についてだが、その大部分がカネにまつわる問題だ。

「いまの挺対協は金儲け一途の団体でしかありません。全てはカネ・カネ・カネ。いずれお金に敷かれて彼女らは死ぬわ」

 2019年に私は金文淑氏にインタビューをした。およそ1年前、金文淑氏は挺対協が金銭問題で危機に陥ることを予言していた。

私財投じて慰安婦支援施設を運営する“重鎮”

 金文淑氏は長らく慰安婦問題に取組み、韓国内では“慰安婦問題の重鎮”と評される人物だ。

 彼女は釜山市内で私財を投入して設立した「日本軍慰安婦のための民族と女性の歴史館」を運営している。90歳を超えたいまなお、歴史館で教育活動等を精力的にこなし、講演活動に勤しむ。

 韓国映画『Herstory』は、釜山従軍慰安婦・女子勤労挺身隊公式謝罪請求訴訟(通称・関釜裁判)を起こし、日本政府の責任を追及した金文淑氏の物語がモデルとなっている。釜山市の名士として、今でも多くの人から敬意を払われている。

世間が挺対協の欺瞞に気づいていない時から尹美香の本質を喝破

 2019年当時、韓国内には「挺対協がカネとウソにまみれた団体である」という認識は全くなかった。

 私が金文淑氏にインタビューをしたのは、釜山市で行われた慰安婦問題についてのシンポジウムを取材した後だった。彼女は開口一番、流暢な日本語でこう語り始めた。

「今日のイベントに挺対協の尹美香が来ていた。私は彼女が来るならイベントには出席したくないと釜山市に言っていたのよ。それでも市からどうしてもとお願いされたから出席はしたけど、本当に気に食わないわ」

 慰安婦問題では敵対的であると思われてもおかしくない日本人記者である私の前で、最初に出てきたのが挺対協、そして尹美香氏への不満だった。尹美香氏は当時、挺対協の女性代表であり、慰安婦問題では韓国内で最も影響力があるとされる人物だった。

 さらに金文淑氏は厳しい口調でこう続けた。

「そもそも挺対協は尹貞玉(挺対協の初代代表)先輩と私で始めた団体だったのよ。そのときはキリスト教ベースとした、女性の集まりだったのよ。尹美香はそのときは、入りたての使い走りよ!」

 金文淑氏は挺対協の創設メンバーだった。後に彼女は釜山挺対協を設立、独立した形で慰安婦問題に取組んでいくことになる。

 金文淑氏は慰安婦問題に取組むようになったきっかけについて、こう語る。

スタートは、戦後のキーセン観光への疑問だったの。その反対活動から私たちの運動はスタートしたの。1990年代に、いわゆる買春ツアーに来る人達に対して、プラカードを掲げて阻止したりもした。

 でも、ある時、観光客にこう言われたの。

『戦時中、私はお金がなかったから、貧しくて身売りされた慰安婦の人にお金をあげられなかった。いまはお金をあげられるようになってキーセンに来ている。なぜ反対するのか?』

 私はそこで慰安婦問題を知ったの。それから、元慰安婦おばあさんを助ける活動を始めました。元慰安婦は戦後、みな貧しい境遇にいた。彼女たちに薬を配り、お小遣いをあげる活動をしました。全て自費で行動をした。慰安婦問題に取組むようになったのは、愛国心から。私に愛国心がなかったら慰安婦問題に取組むこともなかったでしょう」

 キーセン観光とは、1970年代日本人観光客で流行したとされる、いわゆる“買春ツアー”である。弱者や女性問題への関心が深かった金文淑氏は、何か導かれるように慰安婦問題への取組みを始めることになる。

純粋な思いから始まった慰安婦支援運動が

 金文氏は日本でも『朝鮮人軍隊慰安婦 韓国女性からの告発』(明石書店、92年刊行)という本を出版している。同書では、彼女が掘り起こした元慰安婦たちの証言が綴られている。

 彼女が見聞きしてきた元慰安婦の物語を紹介したい。警察の手先に騙され、台湾で慰安婦になったという李玉粉(仮名)の証言を同書から引用する。

<私の地獄はその日から始まりました。

 学校を思わせる建物の板の間の上に畳をのせ、カーテンで仕切りをした慰安所の前に軍人が並びました。

 軍人たちはキップを持って来ました。土曜日は特に大勢きました。何十人もの軍人を機械的に受け入れ、死んだように寝ころがっている女たちは、彼らの共同便所でした。枕元には、ちり紙が花と咲きました。月に一度検診を受け、六〇六号注射をされました。性病(梅毒)予防注射だとか――。ほとんどの人が子宮はボロボロになっていきました>

 女衒に騙された女性、12歳で慰安所に送られた者――多くの痛みと苦しみの物語が『朝鮮人軍隊慰安婦』には綴られている。

 金文淑氏は同書のあとがきで、こう記している。

植民地の女であるが故に犠牲にされ、男尊女卑世代の女であるが故に差別され、家父長的時代の女であるが故に泣かされた歴史は、私たちの世代でもう終わりにして、洋の東西、男女の性別、民族・文化の違い、経済発展の度合い、皮ふの色の違いを乗りこえて、支配と被支配から解放された、すべての人が人間らしく平和に平等に生きる社会を、次の世代に譲り渡すことこそ、今度の「歴史掘りおこし運動」の真の意義だと思います>

 当時の慰安婦支援が、純粋な思いから行われていた活動であったことが、平和や平等という言葉遣いからも読み取れる。

 元慰安婦を支えた続けた半生から見えてきたものとは何なのか。金文淑氏は日本政府への不満も口にするが、それ以上に強く批判を続けたのが挺対協の変質についてだった。

安倍首相は(日韓合意により和解・癒やし財団の設立で)10億円を支払うというが、私は元慰安婦おばあさんは大きいお金を貰うべきではないと思っています。

 ただそれは、挺対協がハルモニ(元慰安婦)に『お金を貰うな』という意味とは全然違います。挺対協は『日本からお金を貰うな』と言いながら、慰安婦のために寄付されたお金を自分達で自由に使ってしまっている。本当に許せないことです。

 元慰安婦を変えてしまったのも挺対協です。

 よくマスコミに出てくるある元慰安婦がいます。でも、私に言わせれば彼女はお金ばっかり、になってしまっている。

 それは挺対協が元慰安婦を金づるにしていたからでそうなってしまった部分があって、元慰安婦もカネのことばかりを言うようになってしまった。あの人たちはね、慰安婦を商売道具にしているの。それは尹美香がそうさせたわけ。そうさせたのよ! だからもう、あのもう、ソウルの連中(挺対協本部はソウルにある)とかが私は大嫌いなの。

 挺対協は水曜集会でお金をかき集め、世界中の人から寄付を募っている。いまの挺対協もナヌムの家も、金儲け一途の団体でしかありません。全てはカネ・カネ・カネ。何が正義(挺対協は『日本軍性奴隷制問題解決の為の正義記憶連帯』と名前を変えた)なのと思う。

 挺対協は行くつくところまで行き着いてしまった。口ばかりで金儲けばかり。本当は慰安婦問題の詳細な記録や証拠を残す仕事をしなければいけないのに、それらを疎かにしている。これ以上、慰安婦問題をおかしなものにしてはいけないと思う」

 金文淑氏は90歳を超える高齢とは思えない、情熱的な口ぶりで語り続けた。そこには彼女が人生を賭して取り組んで来た慰安婦問題が変質してしまったことに対する強い憤りを感じた。

 2019年夏に金文淑氏が語った「お金に敷かれて彼女らは死ぬわ」という予言は、検察の尹美香氏起訴という形で1年後に現実となった。元代表が起訴されたという事実は、人権団体を標榜していた挺対協にとっては死活問題となる。

 金文淑氏が毛嫌いした挺対協の変節、その中心人物となっていたのが尹美香氏だった。

 慰安婦問題を食い物にしてきた罪は限りなく重い――。

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