菅義偉政権(時事通信社

◆「安倍政権モドキ」になる菅新政権
―― 菅政権が誕生する見込みですが、新政権の下で改めて権力とメディアの関係が問われます。

佐高信氏(以下、佐高): 菅が「安倍路線を継承する」と言っている以上、菅政権の本質は「擬似安倍政権」です。もっと言えば、「エセ安倍政権」「安倍政権モドキ」ですね。しかし「エセ」や「モドキ」は本家に劣ると相場が決まっているから、安倍政権は終わらないどころか、より陰湿な形で継続することになるということです。

 菅はもともと陰湿な人物です。安倍や麻生にはまだ阿呆の明るさがあったが、菅にはそれもない。昔、「田中角栄結婚式の花、三木武夫は葬式の花」という風刺があったが、菅はまさに「葬式の花」という感じではないか。

 菅の陰湿さがよく表れているのが、安倍政権によるメディアコントロールです。7年8か月、菅を中心とする官邸がどれだけメディアに嫌がらせをしてきたか。菅は東京新聞望月衣塑子記者を目の敵にして、官房長官会見では質問妨害や木で鼻を括ったような回答を繰り返してきました。2015年テレビ朝日の「報道ステーション」で、コメンテーター古賀茂明が「I am not Abe」というプラカードを掲げた際、番組プロデューサーに直ちにクレームを入れたのも菅の秘書官でした。

菅義偉は岸井成格の仇だ
 その最たるものが、私の友人であった毎日新聞の岸井成格に対する個人攻撃です。岸井が安倍批判を強めていた2015年の春先、菅はいきなり岸井の私的な勉強会に顔を出して、「良い勉強になりました」と言い残して帰っていったそうです。これほど菅の陰湿さや陰険さ、嫌らしさを象徴するエピソードはない。

 同年秋に、岸井がTBSの「NEWS23」で安保法制を批判すると、ケント・ギルバートや小川榮太郎ら安倍応援団が呼びかけ人として名前を連ねた「放送法遵守を求める視聴者の会」が読売新聞産経新聞に一面広告を出して、岸井の発言は放送法の規定に対する「重大な違反行為だ」などと名指しで個人攻撃を加えました。これは実質的に安倍政権による「岸井降ろし」であり、官邸が無関係だったとは思えない。

 結局、岸井は2016年に「NEWS23」のキャスターを降板して、2018年に亡くなりました。岸井攻撃の黒幕は菅だったのではないか、岸井は菅に殺されたのではないか。昨年出版した『官房長官 菅義偉の陰謀: 新・佐高信の政経外科』(河出書房新社)は、私が岸井の仇討ちとして書いた本です。

 メディアを統制しようとする菅の体質は今に始まったことではない。菅は第一次安倍政権で総務大臣に就任した時から、放送法を改正して放送事業者に対する罰則規定を盛り込もうとしたり、総務省の下にテレビ番組の内容を監視する第三者委員会を作ろうとしたり、NHKの番組編集に介入したりしていたのです。

 菅は以前からナチスの宣伝大臣だったゲッベルスになぞらえられてきましたが、安倍政権から菅政権に変わるというのは、ヒトラー政権からゲッベルス政権に変わるようなものです。菅政権によるメディアコントロールは、これまで以上に陰湿かつ陰険なものになるに違いない。

メディアは安倍の疑惑を徹底追及せよ
―― メディアは菅政権の下でさらなる試練に直面する可能性がある。

佐高:最近、私は東京新聞の望月記者とともに『なぜ日本のジャーナリズムは崩壊したのか』(講談社+α新書)という共著を出版しました。この本の売れ行きは非常にいいのですが、それは、それだけ国民の間に「安倍政権の下で日本のジャーナリズムは崩壊した」という認識が広がっているからだということです。

 しかし一度崩壊してしまえば、そこから再生の可能性も出てくる。安倍政権の下で崩壊した日本のジャーナリズムが、菅政権の下で再生する可能性もないわけではない。菅の総裁選出馬会見では質問が打ち切られようとした時、記者たちは「逃げないでください!」などと怒号を上げたが、これはその兆候ではないか。

 そもそも菅政権は森友・加計・桜など一連の〝爆弾〟も継承することになります。安倍政権が終わったからと言って、安倍の疑惑まで終わったわけではない。これらの問題は菅政権の下でも尾を引くでしょう。菅は出馬会見で森友問題について「すでに結論が出ている」と答えていたが、近畿財務局に勤めていた赤木俊夫さんの未亡人は真相解明を訴えています。赤木さんは自ら命を絶ったというが、実際には安倍政権に殺されたに等しい。このまま安倍政権の悪事を闇に葬ることはできない。

◆「菅自身」のスキャンダル可能性も
 それに加えて、菅自身のスキャンダルも出てくる可能性もある。IRをめぐる汚職疑惑はいまだに燻っており、捜査線上では菅の名前も浮上していると言います。

 土地買収をめぐる新たな疑惑も膨らんでいる。政府は米軍の訓練移転候補地として馬毛島(鹿児島県西之表市)の買収計画を進め、昨年には官邸主導で地権者との間で合意に達していました。だが、当初45億円と見積もられていた買収金額は、実際の合意では160億円まで3倍以上も跳ね上がっていた。この点について政府は十分な説明をせず、新たな疑惑が生まれている。

 メディアはこうした安倍の疑惑、菅の疑惑を徹底追及すべきです。それができない限り、日本のジャーナリズムが再生することはない。

◆「安倍批判」以上の「菅批判」を!
―― 今後、佐高さんは菅政権をどう批判するのですか。

佐高:私が特に問題視しているのが、菅と竹中平蔵の関係です。竹中と菅は小泉政権時にそれぞれ総務大臣と総務副大臣を務めた経緯から、現在に至るまで頻繁に会う間柄です。人材派遣会社パソナの会長である竹中は安倍政権でも重用されたが、菅政権ではそれ以上に重用される可能性が高い。

 そうなれば、安倍政権の下で拡大した格差がより深刻化するでしょう。アベノミクスの本質は会社が富んで社員が貧しくなる「社富員貧」、国家が富んで国民が貧しくなる「国富民貧」にすぎなかった。菅がそのアベノミクスを継承して、そこに「若者には貧しくなる権利がある」などと放言している竹中がくっつけば、アベノミクスより有害な「スガノミクス」が生まれかねない。この点は徹底的に追及すべきです。

―― 安倍政権が終わっても、安倍政権的な政治は終わらない。

佐高:最大の問題は、安倍の手によって岸信介の亡霊が復活してしまったことです。もともと自由民主党は、吉田茂自由党岸信介民主党が合体した政党です。しかし戦時中に終戦工作をした廉で投獄された吉田茂自由党と、開戦詔書に署名してA級戦犯に指定された岸信介民主党の合流には最初から無理があった。自由民主党は結党の瞬間から矛盾を抱え込んでいたのです。

 戦後、作家の吉村昭は城山三郎との対談の中で「あの戦争、負けてよかったですね」と発言しました。問題は、あの戦争で日本の何が負けたのかということです。それは戦前の全体主義であり、官僚統制であり、軍人万歳であり、国民同士の監視密告社会でしょう。あの戦争で戦前の自由なき体制が負けて、戦後の自由な社会がもたらされた。だから、「負けてよかった」のです。

 この言葉を借りれば、吉田茂の系統は戦後の自由な社会を是として「あの戦争に負けてよかった」と考える政治勢力であり、岸信介の系統は戦前の自由なき社会を是として「負けてよかった」とは考えない政治勢力だということです。

 自民党の主導権は長らく吉田茂の系統を引く宏池会が「保守本流」として握ってきましたが、2000年代からは岸信介の系統を引く清和会が握るようになってしまった。そして岸直系の第二次安倍政権に至って、自民党は完全に清和会に乗っ取られ、宏池会は事実上滅んでしまった。その象徴が、今回の総裁選における岸田文雄の哀れな姿でしょう。戦後の自民党は長らく「あの戦争に負けてよかった」と考える政治勢力が主導してきたが、現在の自民党はそうとは考えない政治勢力に支配されてしまったということです。

 その結果、社会全体の雰囲気も変わってしまった。戦後の日本は戦争に対する深い反省の上に立ち、いわば「あの戦争に負けてよかった」と考える健全な思想が主流でした。しかし、安倍が長年総理の座に居座り続けたことで岸の亡霊が復活してしまい、それまで影に隠れていた「あの戦争に負けてよかった」とは考えない危険な思想が大手を振るい、戦前に対する憧憬と戦後に対する侮蔑が公然と語られるようになった。安倍政権の下で燃え上がったヘイトスピーチや反中嫌韓ブームなどもその表れでしょう。

 一方、菅はもともと宏池会に所属していましたが、今では清和会の安倍路線を継承しようとしている。菅は政治の師として梶山静六を尊敬しているというが、梶山の反戦平和主義は全く受け継いでいない。結局、菅も「あの戦争に負けてよくなかった」という岸的・安倍的な流れに乗って政権を運営していくはずです。

 しかし見方によっては岸の亡霊に取りつかれた安倍よりも、こういう「思想なきカメレオン」のような菅のほうが危険だとも言えます。菅政権は安倍政権以上にグロテスクな政権になり、日本の政治や社会をさらに悪化させかねない。今後は安倍批判以上に厳しい菅批判を徹底的にやらなければならないと思います。
9月3日、聞き手・構成 杉原悠人)

<提供元/月刊日本2020年10月号

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