「さびしい」は、「寂しい」か、「淋しい」か? どちらの漢字を使えばいいのか? パソコンで入力変換しようとすると、どちらも出てきますよね。

一般的な言葉なので、仕事でも日常でも使う機会は少なくないはずです。ビジネス文書ではどちらを使えばいいのか、口頭ではどうか……など、悩むこともありますよね。

今回は、「寂しい」「淋しい」の意味や使い分けについて解説します。

■「寂しい」と「淋しい」の意味はどう違う?

ここでは、「寂しい」と「淋しい」の意味を紹介します。

◇「寂しい」「淋しい」は同じ意味

「寂しい」と「淋しい」のそれぞれについて辞書を引こうとすると、単独ではなく、両方合わせて1つの言葉として意味の説明が記載されています。

さびしい【寂しい・淋しい】
本来あった活気や生気が失われて、荒凉としていると感じ、物足りなく感じる意。
(1)もとの活気が失せて荒廃した感じがする。
(2)欲しい対象が欠けていて物足りない。満たされない。
(3)孤独がひしひしと感じられる。
(4)にぎやかでない。ひっそりとして心細い。
(『広辞苑 第七版』岩波書店

「さびしい」にも、いろんな理由からの「さびしい」状態があるのだと分かりますね。

「寂しい」も「淋しい」も意味は同じで、物や人など何らかのあるべき対象が欠けたり、活気がなく荒んでいたりすることから、孤独を感じ、心が満たされない様子を表す言葉だと考えられます。

したがって、「寂しい」と「淋しい」のどちらを使っても、国語的に間違いではないといえます。

◇「寂」と「淋」ではニュアンスが異なる

とはいえ、「寂」と「淋」は違う漢字なので、もし違う意味であれば使い分けることで、ニュアンスの違いを表現でき、意味がさらに伝わりやすくなるかもしれません。

そこで、それぞれの漢字について意味を調べてみます。

【寂】さび・さび(しい)・さび(れる)・セキ・ジャク
音がなくひっそりしている。しずか。さびしい。さびれる。
(『例解新漢和辞典』三省堂)

「寂」を使った熟語に「静寂(せいじゃく)」「寂寥(せきりょう)」などがあります。

「静寂」は「人の声や物音がせず、しんとしてさびしい様子」を、「寂寥」は「ひっそりと、ものさびしい様子」を表します。

また「寂」は、「人が死ぬこと。煩悩を離れた涅槃の境地」も意味しています。

【淋】さび(しい)・リン
水が絶えずしたたる。水が注ぐ。
人けがなくひっそりしている。孤独である。とぼしい。不足。
(日本語での用法)淋しい場所。淋しい生活。ふところが淋しい。
(『例解新漢和辞典』三省堂)

一方、「淋しい」は、「自分の身の回りに在るはずの人や物、お金が欠乏して満たされない孤独感からくる心さびしさ」を表します。

このように、より深くニュアンスを表現したい場合には、漢字の意味の微妙な違いで使い分けることも考えられます。

■「寂しい」と「淋しい」の使い分け(例文付き)

常用漢字表にあるのは「寂」のみで、「淋」は常用漢字外の漢字なので、公文書やビジネス文書では「寂しい」に統一する方が無難です。

堅苦しくないメールやメッセージ、物語、詩、私信などでより深くニュアンスを表現したい場合、次のような使い分けをするといいでしょう。

◇「寂しい」を用いる時

「寂しい」は、客観的事実が与えるさびしさを表現するのに、より適しています。

静まりかえった空間や気配、寂れた景色など物理的な前提条件がある場合に使うと良いでしょう。

☆例文

・駅前の商店街はシャッター街となって久しく、寂しい

・秋風が吹く中、しまい忘れた風鈴が寂しげな音を立てていた。

◇「淋しい」を用いる時

「淋しい」は、心情面でのさびしさを表現するのに、より適しています。

あるべき人がいないことや、物・お金がないことから感じる深い孤独や、涙があふれて止まらないようなさびしさを伝えたい場合に使うと良いでしょう。

☆例文

・わずかな貯金も底を尽き、お店を手放した彼が「淋しい」と呟いた。

・信頼していた上司が異動し、部署のメンバーも散り散りになり、淋しい日々を過ごしています。

■「寂しい」「淋しい」の読み方

続いては、「寂しい」「淋しい」の読み方について解説していきます。

◇「さびしい」「さみしい」は、どちらが正しい読み方?

ここまで「寂しい」「淋しい」のいずれも「さびしい」と表していますが、もう1つ「さみしい」という読み方もあります。

もしも平仮名で書く場合、どちらが正しいのでしょうか?

結論から言うと「寂しい」「淋しい」の両方とも「さびしい」「さみしい」と読むことができますが、新聞などのメディアや公文書では「寂しい(さびしい)」に統一されています。

これは、常用漢字表にある「寂」の読みに「さび(しい)」は載っていますが、「さみ(しい)」は載っていないためです。

日常会話において口頭で伝える場合には「さびしい」でも「さみしい」でも構いませんが、公的な文書に平仮名で書きたい場合には「さびしい」が無難だといえるでしょう。

◇「さびしい」と「さみしい」のニュアンスの違い

たいていの場合、どちらを使っても問題はありませんが、もしも「さびしい」「さみしい」を使い分けたい場合には、次のように考えると良いでしょう。

古くからある表記は「さびしい」で、次の両方のニュアンスで使えます。

・「さびしい山村」「さびしい駅前」……さびしさを感じさせる前提がある。客観的。

・「さびしい日々」「夫に先立たれてさびしい」……あるはずの人・物・金がない。情緒的。

一方「さみしい」は、情緒的であったり、孤独であったりする場合に適しているので、「さみしい山村」「さみしい駅前」と表すのはあまり似合いません。

「さみしい日々」「夫に先立たれてさみしい」と表す方がより良いでしょう。

使い分けに迷ったら「意味を知り、ルールを作る」

今回は、迷いがちな「寂しい」「淋しい」の使い分けと、読み方について説明しました。

「寂しい」「淋しい」には国語的な意味の違いはありませんが、「寂」「淋」の漢字にフォーカスを当てて比べると、ニュアンスに違いが見られます。

客観的事実が与えるさびしさを表現するには「寂しい」、心情面でのさびしさを表現するには「淋しい」が、それぞれ適しているといえるでしょう。

私的な手紙やメールではどちらを使っても問題はなく、ビジネスシーンでも、日常的なメールやメッセージであれば窮屈に考える必要はないでしょう。

ただし、ホームページやビジネス文書などで使い方のルールがまちまちだと、読み手も戸惑うことがあります。

表記を統一しておくことが必要となった際のためにも、意味の違いを知っておくとなお良いでしょう。

(前田めぐる)

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