「所持金が300円しかない……」

「働いていたキャバクラ店の休業で収入が途絶えて、家賃を滞納してしまった」

「派遣切りに遭ってしまい、来週には寮を出ないといけないと言われた」

ネカフェで寝泊まりしながらテレホンオペレーターをしていたが、仕事を切られて行き場がない」

 新型コロナウイルスの影響で、生活が苦しくなってしまった人が急増している。毎週土曜日、東京新宿の都庁下の路上で行われている食料品配布と相談会の支援活動に、筆者はメンバーとして関わっているが、上記のような悲痛な声を数多く耳にした。

コロナ禍で困り果てて相談に訪れている

 仕事がなくなり収入が激減した人、貯金も底をついて家賃が払えなくなった人、日雇いで稼いでネットカフェに寝泊まりしていた生活が破綻した人、居場所を失って野宿やそれに近い状態になった人……そういった方々が、困り果てて相談に訪れているからだ(上記の内容は個人が特定されうる情報をはぶき、いくつかの相談内容を組み合わせている)。

 4月の初めは120名ほどだった参加者が、緊急事態宣言後には一気に150名を超えて、6月には一時180名を超える日もあった。4月~8月で平均すると毎週150160名の人が、食料品配布と相談を求めて訪れていた。コロナ以前の昨年の今頃は、食料品配布の活動に集まる人は毎回約60~70人だったので、2.5倍以上の人が支援を求めて都庁下に足を運んでいることになる。

 相談会で生活や住まいの相談をした後、この活動を必要としなくなる人、公的支援の利用に繋がる人もいるので、それを考えると、新たに困窮して相談に訪れている人がどんどん増えていると言えるだろう。これは都庁下での支援活動だけではなく、同様の活動を行っている全国の多くの地域で共通して起きている現象だ。

強いストレスや不安という精神的な負荷も

 経済活動も徐々に再開されているなかで、収入が回復したり、新たな仕事を見つけることができた幸運な人もいる。しかしながら、働いていた店舗が閉店になってしまったり、人員整理で解雇されたりと、生活困窮に陥る人が今も後を絶たない。

 コロナという新しい敵との戦いは、先が見えない。3か月後に、6か月後に、1年後にどのような社会になっているのか、経済状況がどうなっているのか、予測するのは困難だ。

 先の見通しが立たない社会状況での収入減や失業は、多くの人を経済的に崖っぷちまで追い詰めるだけではなく、強いストレスや不安という精神的な負荷もかけてくる。人生に絶望してしまう人も、少なからず出てくるだろう。そのような経済的に大きなダメージを受けた方には、まず公的な支援の利用を考えてほしい。

貸付制度の申請者はリーマンショック時の80倍

 休業補償や持続化給付金などの仕事の減少や休業にともなう支援以外にも、生活保護制度をはじめ、住居確保給付金緊急小口資金貸付や総合支援資金貸付などの生活を支援するための施策が、セーフティネットとして整備されている。新型コロナウイルスの影響を鑑みて、要件を緩和する特例措置がとられるなど、現在その利用の促進が行われている。

 返済不要の住居確保給付金は、収入減などにより生活が苦しくなった人へ家賃支援を行うものだが、4月~6月で、全国での申請件数が81,572件(決定件数61,589件)となり、支給済額は約44億円にのぼった。都内だけでも申請件数26,341件(決定件数19,294件)、支給済額は約18億円と過去最多の支給実績を記録している(厚労省「住まい支援の連携強化のための連絡協議会」第1回資料より)。

 また、緊急小口資金貸付と総合支援資金貸付は、利用者が激増し、7月25日時点で緊急小口資金貸付の申請件数は 63.8 万件(決定件数62.8 万件、貸付済額1,132.6 億円)、総合支援資金貸付の申請件数 24.7 万件(決定件数21.1 万件、貸付済額1,099億円)に及ぶ(貸付実務をになう全国社会福祉協議会HPより)。

 共同通信の報道によれば、これらの貸付制度を申請した人はリーマンショック時の80倍という前代未聞の膨大な数にのぼっているという。償還時に生活再建がなされていない場合などは免除されるといった規定はあるが、60万人以上の人が生活苦からお金を借りる選択(公的な貸付ではあるが)をしたことになる。

1か月分の生活費が厳しいなら生活保護

 緊急小口資金貸付は基本1か月分で最大20万円、総合支援資金貸付は原則3か月分で最大月20万円の生活資金の貸付で、現在、総合支援資金貸付に関しては3か月の貸付期間の延長が決まっており、それらを利用すると最大7か月分の生活資金を「借りる」ことができる。

 もちろん、その期間に生活再建が順調に進めばいいが、うまくいかない場合は100万円以上の借金を背負う可能性があるのだ。また、生活再建がなされたとしても、1年以内に返済を開始し、2年以内に24回以内で返済しなければならない。

 最長9か月間の延長ができる住居確保給付金の給付は、4月から開始した人の場合、来年2021年の1月には終了してしまう。借りていた貸付の返済も始まってくると、生活が追い詰められる人が相当数現れるのは間違いないと思われる。

 そして、その中で生活保護に繋がる以外の方法では暮らしていけなくなる人が現れることが残念ながら想定されるが、もし1か月分の生活費をまかなうことが難しそうだという状況になったら、遠慮なく生活保護を申請すればよいと筆者は考えている。

生活保護の利用は恥じらうことではない

 生活保護制度は、働いている人でも健康な人でも、収入と資産が生活保護基準を下回っていれば利用できる制度である。生活保護基準は年齢や世帯人数、住んでいる地域などによっても異なるが、都内だと単身で生活費分と住宅費分を合わせて約12万円。その金額に収入が満たない場合には、足りない分の支給を受けることができる。

 生活保護制度は、収入減などで一時的に利用し、収入が生活保護基準を上回って必要なくなったら利用をやめるといったことも可能だし、自分には無関係という方でも、身近な人がこういった経済状況であったらぜひ紹介してほしい。

 生活保護制度も貸付制度も、自分の必要に応じて、必要な範囲で利用してほしい。新型コロナウイルスの影響で多くの人が、生活に困っている。そんな状況での公的支援の利用は、恥じらったり、ためらったりすることではない。制度の詳細に関しては以下のページも参考にしていただきたい。

厚労省:生活を支えるための支援のご案内
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000622924.pdf

首相官邸:くらしとしごとの支援策
https://www.kantei.go.jp/jp/pages/coronavirus_shien.html

新型コロナウイルス】いま知っておきたい「生活保護」(大西連) - Y!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/byline/ohnishiren/20200317-00168160/

生活保護への偏見を漫画が解いてくれる

 とはいえ、生活保護に対しては制度に対する様々な偏見がある。ネットSNSなどで「生活保護」と検索すると、利用者へのひどいバッシングや、真偽がわからない風評ばかりを目にしてしまうだろう。

 その結果、生活保護制度を利用しないほうがいいと思ったり、周囲の人には絶対に知られたくないといった理由で、制度を利用できるほどの困窮状態に陥ってるのに申請をしない人が数多くいる。

 生活保護という制度について知らない人はほとんどいない一方で、制度が実際はどのように運用されているか、その現場がどのようなものか、正しく知って理解している人は決して多くはない。残念ながら、いろいろな「イメージ」で語られてしまう制度なのだ。

 では、その「真の姿」について知りたいと思った時にどうすれば良いのだろうか。生活保護について書かれた本はたくさんあるものの、学術的な本が多く、ハードルを感じてしまう人も多いと思う。そんな時に筆者がオススメしたい漫画が『健康で文化的な最低限度の生活』(柏木ハルコ・著/「週刊ビッグコミックスピリッツ」連載中)である。

 この作品は、これまで生活保護についてまったく知らなかった主人公の新人公務員・義経えみるの目線を通して、生活保護について知ることができる。

 漫画の作中では、生活保護にまつわるさまざまなテーマが取りあげられているが、たとえば「扶養照会」。扶養義務のある親族に対して利用者の援助ができないか、福祉事務所が確認の問い合わせをするのだが、これを嫌がって生保受給をやめる人も多い。こういった生活保護をとりまく様々なテーマについて、マンガを読みながら学ぶことができるのが、大きな魅力だ。

なぜ筆者はこの作品を読んでほしいのか

 生活保護制度は、私たちの生活を支えるための公的な仕組みでありながら、さまざまな誤解や偏見により、その役割の価値や意義について、語られることが少ない制度でもある。

 現に、200万人以上の人の生活を支え、高齢や病気や障がいなどで働くことが難しくなってしまった人や、失業して求職活動をしている人などを支える大切な制度である。

健康で文化的な最低限度の生活』という生活保護テーマにした稀有な作品に触れれば、公務員として、生活保護利用者を支援することになる主人公を通じて、生活保護制度の実態、利用者のいるリアルな現場を見ることができる。

 この作品に登場する人々は、もちろんフィクションではあるものの、支援の現場に身を置く筆者からしても、非常に丁寧な取材に基づいた、とても生々しいもので、そのリアリティは圧倒的だ。

 新型コロナウイルスの影響で、多くの人の生活が脅かされ、生活の不安を抱える人が増加している。多くの人が「貧困」に陥ってしまうリスクを抱えるなかで、「自己責任」ではなく、「社会で支えあう仕組み」がもっと評価されてもいいと、筆者は考えている。

 6人に1人が「貧困」と言われるこの現代日本で、私たちの身近なところに、生活が苦しい人はたくさんいる。新型コロナウイルスの影響で、その生活の不安定さはいっそう増してきている。

 生活保護について知るためにも、ウィズコロナポストコロナを考える上でも、『健康で文化的な最低限度の生活』は、いま読んでおくべき一冊だ。ぜひ未読の方は手にとってみてほしい。

『健康で文化的な最低限度の生活』(柏木ハルコ著)は、2014年週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)にて連載開始して、現在第9巻まで刊行されている。新人ケースワーカー・義経えみる主人公に、様々な生活保護にまつわるテーマを扱っているが、「アルコール依存症編」「子どもの貧困編」に続いて、現在「貧困ビジネス編」を連載中。

生活保護のお仕事――『健康で文化的な最低限度の生活』第1話 へ続く

(大西 連)