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◆支持率アップのための政策
── 森さんは、経産省出身の今井尚哉首相補佐官兼秘書官に代表される官邸官僚主導の政策決定の問題点を指摘してきました。

森功氏(以下、森): 安倍政権では、官邸主導、政治主導という言葉が強調されてきましたが、その実態は官邸官僚主導です。本来の官邸主導は、官僚ではなくて、政治家リーダーシップと決断力を発揮して政治を進めていくことです。

 ところが、安倍政権で実際に政策決定をしてきたのは首相ではなく、今井尚哉を中心とする官邸官僚だったのです。これらの官邸官僚たちが、官邸の威光を背景に霞が関を牛耳り、自分たちが実現したい政策を首相や官房長官に授けて、それを実行してきたのです。それは政治主導ではなく、官僚主導です。

 安倍首相は第一次政権時代のトラウマがあり、支持率が下がれば政権を追われるという恐怖感を強く持ってきました。そのため、官邸官僚たちは、とにかく支持率を上げ、安倍首相を守るために働いてきました。彼らは、国家、国民の利益のために働いているように見えないのです。彼らは、支持率アップを狙い、国民受けするキャッチーなフレーズを考えて、実現できもしない政策を思い付きでぶち上げてきたのです。

 例えば、「一億総活躍社会」というスローガンを作ったのも今井やそのブレーンたちです。「アベノマスクの生みの親」とされるのも、首相秘書官の佐伯耕三です。彼は、経産省の先輩官僚である今井に引き立てられ、第一次安倍政権でも、今井の下で首相秘書官補を務めていました。いわば「今井チルドレン」の筆頭格です。

 各省庁はそれぞれの専門分野に精通しています。本来は、問題点も含めて、政策を首相にきちんと説明し、それを整理した上で政策が練り上げられるべきです。ところが、官邸官僚の跋扈によって、そのプロセスがなくなってしまっているのです。

 しかも、安倍政権が打ち出した政策の結果についての検証が行われないまま、次々と新たなキャッチフレーズばかりが出されてきました。

 新型コロナウイルスの蔓延は、世界恐慌を引き起こしかねないような重大な危機をもたらしかねません。これまで安倍政権が進めた政策は、ある程度、その結果についてごまかしがききましたが、コロナに関する政策はごまかしがききません。

 もちろん、従来の官僚主導には縦割り行政の弊害がありましたが、少なくとも省庁が長い時間をかけて積み上げてきたノウハウをもとに、官僚が大臣に政策を授けてきました。自民党にはそれぞれの分野の政策に精通した族議員と呼ばれる人たちがいて、官僚と議論をしながら政策を進められるという側面があり、それがうまく機能している部分もあったわけです。ところが、官邸官僚主導は、これまでの霞が関のノウハウを無視して、自分たちの思いつきで政策を実行しています。だから、うまくいかないのです。

◆菅政権では和泉洋人が中心になる
── 菅政権になっても、官邸官僚主導は続くのでしょうか。

森: 菅官房長官は、明確に安倍路線、アベノミクスの継続を訴えているわけですから、政策は変わりません。必然的に官邸官僚たちは生き残るし、ほとんどメンバーも変わらないでしょう。

 今井も残るでしょうが(*HBOL編集部注:16日に今井氏は内閣官房参与に決定)、菅政権ではこれまでのような権力を振るえる立場ではなくなるでしょう。これからは首相補佐官の和泉洋人が中心になると思います。彼が、加計学園による獣医学部新設計画について、「総理の口からは言えないので私が代わりに言う」と発言して手続きを急ぐよう促したと言われてきたことは、国民も記憶していると思います。

 菅と和泉の付き合いは古く、菅が横浜市議を務めていた時代からだとも言われています。東京大学工学部都市工学科を卒業し、建設省に入省した和泉は、特区構想のスペシャリストと言われています。2001年に内閣に設置された都市再生本部の事務局に抜擢され、小泉政権で構造改革特区構想を手掛けるようになり、特区の専門家であることを売り物にしてきたのです。

 和泉は、沖縄の基地問題でも中心になって動いてきました。安倍政権では菅が沖縄の基地問題を担当し、沖縄県との交渉窓口は、表向きは官房副長官の杉田和博になっていますが、実際に動いてきたのは和泉だと言われています。安倍政権は沖縄県民の懐柔のために、インバウンドによる観光振興や金融特区の設置、高速道路や港湾整備などを進めてきましたが、それらを推進したのが和泉です。

 安倍政権下の官邸官僚には、三つのグループが存在しました。経産省を中心とする経済政策を担う今井グループ、観光、不動産、医療などを担う菅グループ、安全保障面を担う杉田や国家安全保障局の北村滋局長らの警察官僚グループです。菅政権では、和泉らの官邸官僚が主導権を握ることになるでしょう。

◆菅政権で強まる新自由主義路線
── 菅政権では、これまで同様、人気取り、思いつきの政策が続くということですね。

森: 菅政権がコロナに十分対応できるか、非常に疑問です。象徴的なのがGo To キャンペーンです。もともとの発案は経産省官邸官僚グループですが、その主導権を握ったのが菅です。景気対策の目玉政策として打ち出したわけですが、うまくいくとは思えません。所詮思いつきの政策です。

 菅は、第一次安倍政権時代に総務大臣として「ふるさと納税」を発案しましたが、これは本来の税制の趣旨とはほど遠く金持ち優遇制度というほかありません。ふるさと納税で本当に地方は潤うのか疑問です。地方の自立を促すことが目的ならば、こんな政策は出てこないはずです。

 菅が提唱してきた政策は、経済の足腰、地方の足腰を強くするという政策ではありません。競争原理を働かせて大企業に有利な状況を作り出しているに過ぎません。だから、「金持ちを優遇し、格差をさらに拡大させる政策だ」と批判されてきたのですが、それに対する反省もありません。菅の政策は、彼のブレーンである竹中平蔵の考え方に基づいたものなのでしょう。

 菅は、IR(統合型リゾートライフワークの一つと位置づけ、橋下徹との連携を強めてきました。また、インバウンドの拡大を推進してきましたが、現在のコロナの状況ではインバウンドに期待することはできません。インバウンドに依存した政策を再検討すべきだと思います。

── 菅政権では、安倍政権以上に竹中流の新自由主義路線が強まるということですね。

森: 第二次安倍政権が発足した時、竹中を経済財政諮問会議の議員に推したのが、菅です。ところが、麻生がそれに反対したため、竹中は産業競争力会議(現未来投資会議)の民間議員に収まり、新自由主義的政策の推進役となりました。もし、菅政権で麻生という重しがはずれれば、さらに新自由主義路線は加速するでしょうね。

メディアコントロールの強化も
── 菅官房長官は、政権の気にいらない報道に対して、クレームをつけるなど、メディアへの圧力をかけてきたと言われています。菅政権では、メディアに対するコントロールがさらに強まるのでしょうか。

森: メディアコントロールによって安倍政権の支持率は保たれてきました。菅は、メディアとの人脈を活かして、テレビ、新聞、雑誌などに対するコントロールを強めました。

 安倍首相メディアの幹部との会食を重ね、菅官房長官が報道の現場を抑える。その両輪で、メディア支配が強められたように見えます。

 政権に簡単にコントロールされてしまうメディアもだらしないと思います。最近外国メディアの取材を受けることが増えているのですが、日本では権力とメディアが蜜月関係にあって、権力に都合のいいニュースが垂れ流されていることに皆驚いていますよ。

 確かに、政権中枢からの情報はメディアにとっては有難い情報です。特に横並び意識の強い日本のメディアにおいては、他社が一斉に扱っている大きなニュースを自社だけが報道できない「特オチ」を恐れます。しかし、「特オチ」を恐れる必要はありません。安倍政権下でコントロールされてきたことを、メディアはもっと自覚すべきです。そうでなければ、菅政権でも同じことが繰り返されるでしょう。(敬称略)
(聞き手・構成 坪内隆彦)

<提供元/月刊日本2020年10月号

【月刊日本】
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