ディー・エヌ・エーは、9月18日にゲームクリエイター向けの勉強会「Game Developers Meeting Vol.41 Online」を開催。今回は、「コロナ禍はゲーム会社とゲーム制作をどう変えるのか ~ゲームの未来一問一答~」をテーマに、元スクウェア・エニックスCEOの和田洋一氏を招き、オンライン上でセッションが行われた。

 いつもの講演会とは異なり、Zoomを使ったオンラインイベントということもあり、ややフランクな雰囲気で行われた今回のイベント。和田氏からは、大きく分けて3つのテーマが語られた。

 ひとつ目は「デジタル/フィジカル」と「密」の正体だ。デジタルとフィジカルが交錯することが多くなってきた現在、デジタルの意味と密の正体について紹介された。ふたつ目のテーマは、ゲーム業界の働き方改革である。現在のリモートワークが定着して、ここからどうゲーム業界はどのような展開をしていくのだろうか。3つのテーマは、アップルとEpic Gamesの論争を中心に、業界全体に関する話題に触れられた。本稿ではその模様をレポートする。

取材・文/高島おしゃむ


デジタルだけでは密ではなくなる

 コロナ禍の影響で、フィジカルの世界に閉じこもっていた人たちもデジタルの世界に引き込まれてしまった。これまで、デジタルとフィジカルが別の世界だと思っていたものが、そうではなくなってしまった。そして、それが世界中でコンセンサスになってきた。

 こうしたものに接してこなかった人たちにとっては、新しいモノばかりで画期的に見えたり恐ろしく見えたりする。しかし、デジタルの世界から見た場合、想定していたよりも物事が早く進むように、あるいは広く普及するようになった。
 逆に、デジタルの世界では足りないことも、今回のコロナ禍で浮き彫りになってきたのだ。ゲームやITの関係者は、こちらに注目すべきだと和田氏はいう。

 現在、Epic Gamesはアップルと全面戦争の真っ最中だ。同社の人気バトロワゲームフォートナイトに独自の支払経路を組み込んでいたことで、App Storeから閉め出されてしまったのがきっかけだ。

 この『フォートナイト』については、大人だけではなく子どもたちの間で流行していたこともあり、様々なビジネスセッションなどで取り上げられることが多かった。あつまれ どうぶつの森(以下、あつ森)もそうだが、一般の人たちがこうしたデジタルの世界の議論に入ってくるようになったのは大きなことである。

(画像はNintendo Switch|ダウンロード購入|あつまれ どうぶつの森より)

 だが、ネットワークゲームで生まれる独自のコミュニケーションは、1990年代に誕生したMMORPGの時代からすでにあるものだ。子供が遊ぶレベルで一般層にまで普及したという意味ではすごいが、ゲーム関係者にとっては、これらは決して新しい話題とはいえない。

 それでは、デジタルとフィジカルが交錯するなかで、なにがデジタルだけでは足りないのだろうか? リモートで会議をしていても、足りないことがたくさんある。デジタルだけでは、密ではなくなるのだ。この、「なにが密でなくなるか」がポイントなのである。

『モンスターハンター』の情報量の多さこそが、“密”の正体

 『あつ森』以前で、異なる層まで巻き込んで流行ったタイトルがモンスターハンターだ。オンラインゲームでありながら、面と向かって一緒にプレイするときに、会話や表情、身のこなし方などが伝わり、その情報量も多かった。また、感情の共有も行えた。そうしたこともあり、爆発的なヒット作となったのだ。そして、これこそが“密”だと和田氏はいう。

 とある裕福な夫婦が、部屋を繋げてオープンな環境で暮らしていた。しかし、コロナの影響で同じスペースで働くようになってからは、部屋が10畳ほどと広いにもかかわらず相手のまなざしを感じるようになってしまったのだという。こうしたことはデジタルでは絶対に起こりえないことで、デジタルの中では気づかなかったことのひとつでもある。

(画像はモンスターハンターポータブル 2nd G | カプコン 製品・サービス情報 | CAPCOMより)

 また、デジタルとフィジカルは、コンビネーションで出来ていたことも浮き彫りとなった。たとえば、イベントなどチケット決済サービスを行っている企業は、今回のコロナ禍の影響で全滅状態になってしまった。だが、この5月ぐらいから人が戻ってきたところと、戻ってこないところに分かれてきた。

 人が戻ってきたのは、ウェビナーや大学系だ。これまで無理矢理フィジカルでやってきたことを、デジタルのほうが便利だということに気付いたのが理由である。移動も不要で、くしゃみをしても問題ない。人と人との関係も気にする必要がなくなったのだ。こうした便利軸のサービスについては、以前よりも良い状態になってきている。

 その一方で、まったく人が戻ってこなかったのがエンタメ系だ。元々デジタルだったゲームはまだいいが、ライブや演劇などは惨憺たる状況である。その理由は、それらの分野ではデジタルとフィジカルがコンビネーションになっていたからだ。

 ライブでは、実際に会場に向かうまでにチケットをネットで買うなど、デジタルでかなりの準備を行っている。デジタルな日常があって、フィジカルな非日常を楽しむというわけだ。このように、デジタルとフィジカルの間には、日常と祝祭のような関係があり、フィジカルの祝祭をデジタルにしたところで、発散することができないのである。

 ただし、ゲームはすべてデジタルだからいいのかというと、そういうわけでもない。ゲームでは、ユーザー同士のオフ会やオフラインイベントも行われており、盛り上がっていたからだ。コロナ禍でデジタルなものが進んでいったが、むしろそれよりも、デジタルだけでは何が足りないかということにも気付かされた。デジタルの世界で完結させるには、“空気の密”をどう演出するかが重要な課題となるのだ。

 デジタルとフィジカルは、コンビネーションで完結しているということを自覚したときに、どのようなサービスやコンテンツを考えることができるか。それが和田氏の発見であったという。

女性向けコンテンツでは、以前からデジタルとフィジカルのコンビネーションを実践していた

 和田氏がスクウェア・エニックスにいたころ、女性向けの漫画やアニメのファンイベントなどが行われており、演劇などがかなりウケていたそうだ。もちろんグッズが売れるなどの話もあるが、そうしたイベントに参加している人数自体はそれほど多いわけではない。しかし、それが微妙にユーザー間に伝わっていき、漫画の売り上げなどにも繋がっていったのだ。

 女性向けゲームも同様のセグメントになっており、同じようなことが起きていた。こうした女性ファンをターゲットにしたものでは、経験則からデジタルとフィジカルのコンビネーションがウケるとわかっており、以前から実践されていたのだ。また、今回のコロナ禍でそのコンビネーションが崩れたことで、逆説的にその重要性も判明したのである。

ゲーム業界の働き方改革ではリモートワークが定着する可能性がある

 現在は、普段リモートで働いている人がほとんどという状況だ。しかも、このリモートワークという働き方は業界に定着する可能性がある。それはよく例に挙げられるコスト面だけではなく、「参加の仕方を変える」可能性があるからだ。

 コロナ禍で変わったことはふたつあると、和田氏はいう。ひとつは、遠方の人と一緒に開発が行えたりディスカッションができたりということが可能になったこと。だが、物理的に密にすることで成立していた、あうんの呼吸をどう実現するかという課題は残る。

 和田氏が過去にファイナルファンタジーシリーズのテストプレイをしたときに、1台のテレビを40人ほどに囲まれた中で行われたことがあった。だが、ある程度成果物が出来た段階では、このようなテストプレイはリモートで行った方が効率的だ。それと似たような話は、ほかにもたくさんある。

 ゲームはチームで開発を行うため、初期段階の議論をリモートだけで行うのは難しい。雑談の中から生まれるアイデアも多いが、そうしたものをリモートで望むことはできない。また、残念ながら甘えている人が多いのが現状だ。「なんとなくいい感じにやって」という風に、部下にたいしてしっかりと指示が出来ていないのである。四六時中見ているわけにはいかないので、人の管理が難しくなってくる。

 ふたつ目は、会社と個人との関係の面で、兼業・副業がやりやすくなったというところ。そこで重要となるのが、これからの作り方をどう変えていくかということだ。リモートだからできることをしっかりと考えないと、単に不便で終わってしまう。

 現実的には、会社側はクリエイターに逃げられたくないため、兼業や副業をあまり認めないかもしれない。また、兼業をしようとしたときに、会社の上司から「会社の秘密を漏らすだろう」と脅されることも障害となる。しかし、仮にNDA(秘密保持契約)を結んでいたとしても、外に情報が漏れたときにそれを証明するのは大変なことだ。とはいえ実際には、そのように脅されたとしてもたいしたことはないのだが、「そこまでのリスクを負って兼業することはないかな」と考えてしまう人が多いかもしれない、と和田氏はいう。

アップルとEpic Gamesの論争は手数料よりもクロスプラットフォームをどう実現するかが重要

 ゲーム産業やIT産業はオーバーラップしてきている。ユーザー同士のコミュニケーションの場を提供するのがゲームだ。そして、それを支えるのがプラットフォームである。

 先ほども話題に出た『フォートナイト』で議論になっているのは、プラットフォームが徴収する手数料の話だ。たしかにアップルに支払う30パーセントは高いが、それ以外に払う必要はない。だが、ファミコンの時代はマスクROM代や工賃、在庫リスクを抱えながら、卸すときにも手数料が掛かった。また、小売りに行くときも手数料が必要だった。
 それらをすべて差し引くと、何十パーセントなんてものでは済まないぐらい、手数料が掛かっていたのである。そうした時代と比べると、一発で30パーセント引かれるだけで済むため、それほど無茶な要求をしているわけではない、と和田氏はいう。

(画像はNintendo Switch|ダウンロード購入|フォートナイト バトルロイヤルより)

 また、プラットフォーム内にプラットフォームを作って怒られるのは当たり前で、これに関してはアップルが正しい。それでは、大義は何にあるのだろうか?

 これからはインフラやデバイスよりも、人と人とのコミュニティがベースになる。それを、いかに簡単に作ることができるかが重要になると和田氏は指摘する。つまり、手数料の問題よりも「クロスプラットフォームをどう実現するか」ということのために戦うことのほうが重要なのだ。

 複数のプラットフォーム間でオンラインゲームを提供する場合、それぞれでセキュリティポリシーが違い、プロセスも異なる。だが、いちいち各社からOKを取ってからパッチを当てるなどといった手間が掛かってしまうと、ゲームを運営することすら難しくなる。

 今回のアップルとEpic Gamesとの論争には、セキュリティ面も問題に挙げられていた。プラットフォーム側からすれば、変なモノがひとつ混じることですべてがダメになってしまう危険性があるからだ。だが、このセキュリティポリシーをまたがないと、本当の意味でのクロスプラットフォームは実現することができない。

 ものすごく難易度が高いのだが、これをEpic Gamesが勝ち取ることができればかなり大きな成果となる。「Epic Games CEOのティム・スウィーニー氏は賢い人物だ。手数料のために戦うというのもいいが、それよりもこのクロスプラットフォームのほうを実現するほうが、ものすごく世の中のためになる」と和田氏は力説する。

 『フォートナイト』では、プラットフォームのレイヤーが変化する。ゲーム業界では、この「プラットフォーム」という単語はかれこれ40年ほど使われ定着しているが、これはほかの産業から見れば新しい言葉だ。そのため、ビジネスモデルの作り方という面でもゲーム業界は進んでいるという。

フォートナイト』の主要な課金モデルは、アバターのスキンだ。ゲームメカニクスや効果を及ぼすアイテムなどは、Unreal Engineでなくてもその劣化版で実現することができる。だが、アバターのスキンには3Dの描画エンジンが不可欠だ。つまりこれは、クロスプラットフォームのためのOS的な位置づけになる可能性があるということを指している。ハードとインフラの次にくるソフトは何かと言われたときに、「3Dのスキンを制御するエンジンである」という定義はあり得るのだ。

 「ゲームエンジンなんて簡単に乗り換えられるでしょ?」というようなイメージもあるが、オンラインゲームは1度乗ったら2度と乗り換えることはできない。そのため、「どのような結果になったとしても、話題作りに成功したEpic Gamesは成功する」と和田氏は語り、セッションを締めくくった。

「Game Developers Meeting」公式サイトはこちら

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