韓国と北朝鮮との海洋境界線であるNLL(北方限界線)付近で、韓国男性が北朝鮮軍によって射殺され、遺体が焼却されるという衝撃的な事件が発生した。韓国国防部の発表と韓国メディアの報道を総合して事件の全貌と韓国政府の動きを時系列でまとめると次のようになる。

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銃撃、そしてガソリンを撒いて遺体焼却

<21日>
午前11時30分頃 西海上のNLL以南に13キロ離れた海で業務遂行中だった漁業指導船の船員たちは、海洋水産部所属の公務員Aさん(47)が行方不明になった事実を確認。

午後0時51分頃 同僚がAさんの失踪届を出す。その後、海軍と海洋警察などは20隻余りの船舶と2機の航空機を動員して精密捜索を行ったが、A氏を見つけることができず。

<22日>
・午後3時30分頃 韓国軍は監視装置を通じて北朝鮮の船舶がA氏を発見したという状況を把握した。当時、A氏は救命胴衣を着て浮遊物に乗っていた。

・午後4時40分頃 北朝鮮船舶の乗組員がA氏から漂流の経緯を確認し、「越北」との陳述を聞いたものと推定。この時、A氏は海に浮かんだまま審問を受けた模様。

・午後6時36分頃 文大統領に書面でA氏事件を最初に報告。

・午後9時頃 北朝鮮の上部から銃撃指示が下されたことを韓国軍が把握。

・午後9時40分頃 北朝鮮の取締艇、海に浮かんでいるA氏を銃撃。

・午後10時頃 北朝鮮軍、防毒マスクと防護服を着用したまま遺体に接近、ガソリンを撒いて遺体を焼却。

・午後10時30分頃 大統領府に「射殺」情報が入る。

午後11時頃 徐旭(ソ・ウク)国防部長官および大統領府危機管理センターが緊急会議を開く。

大統領府に射殺情報届いた後に、大統領が「終戦宣言」演説

<23日>
午前1時~2時30分 大統領府で関係長官会議が召集される。徐薫(ソ・フン)大統領府安保室長、朴智元(パク・チウォン)国情院長、李仁栄(イ・インヨン)統一部長官、徐旭(ソ・ウク)国防部長官などが出席。

午前1時26分頃 文大統領、第75回の国連総会にて事前録画のビデオによる基調演説。
朝鮮半島で戦争は完全に、そして永久的に終息しなければならない。その始まりは、平和に対する互いの意志が確認できる韓半島終戦宣言だ」

・午前8時30分頃 北朝鮮軍による韓国人射殺事件を文大統領に対面報告。

・午後1時30分頃 国防部が初めてA氏の失踪事件をマスコミに公開。ただし、A氏の生存可否については確認が必要だと説明。

<24日>
・午前8時頃 大統領が府関係長官会議を招集。

・午前9時頃 安保室長と秘書室長が文大統領に対面報告。

午前11時頃、国防部が初の立場文を発表。
北朝鮮の蛮行を強く糾弾し、これに対する北朝鮮の釈明と責任者処罰を強く求める」

午後0時 徐薫室長の主催で大統領NSC(国家安保会議)召集。会議後、「北朝鮮軍の行為は国際法と人道主義に反する行動であり、強く糾弾する」という声明発表。

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 国防部がA氏の位置を把握していながらも、6時間後に彼が銃殺されて燃やされるまで韓国政府や国防部が手をこまねいて見ていたことに、韓国世論は激しく憤った。政府当局はそれぞれ、「北朝鮮側海域で起きた事件」「射殺して燃やすとは想像できなかった」(国防部)、「北朝鮮との連絡チャンネルが切れた状態」「北朝鮮側と連絡する手段がない」(統一部)などと釈明したが、これがかえって国民の怒りに油を注いだ。

 大統領府の対応も疑問視されている。特に文大統領が最初に報告を受けたのが22日の午後6時35分で、その4時間後の10時30分には「射殺情報」も受けながらも、23日未明の国連総会で「終戦宣言」を訴える演説を行ったことに批判が殺到しているのだ。

 これに対して大統領府は、「演説は事前に録画されたもので内容を修正することはできなかった」と説明した。

 しかし、演説終了後の23日午前の時点になっても、文在寅大統領は自身のツイートで国連総会の記事をリツイートしつつ、「終戦宣言を通じて和解と繁栄の時代に前進できるよう国連と国際社会が力を集めてほしい」という内容の書き込みを相次いで掲載。その日の午後に行われた軍将官の進級申告式でも「平和の時代はまっすぐ進む道ではない。進展があったが、時には後退もあり、時には停止し、時には道が閉ざされたようにも見える」と述べ、一日中、やたらと平和を強調していたのだ。

 文大統領がようやくこの不幸な事件に対する立場を明らかにしたのは、射殺情報を入手してから43時間後の24日午後4時ごろだ。「衝撃的な事件で非常に残念だ。いかなる理由であれ容認できない」というメッセージを出したが、遅すぎる大統領のメッセージは韓国国民の胸に届いたとはとても言えなかった。

大統領府関係者、遺体焼却を「火葬」と表現

 大統領府のブリーフィング過程でも記者たちとの衝突があった。

 大統領府関係者が、北朝鮮軍が遺体を燃やしたことを「火葬」と表現すると、記者から「火葬は文字通り葬儀手続き」「火葬と遺体の損傷、どちらの状況だと認識しているのか」という指摘があった。慌てた大統領府の関係者は「損傷と見なした」と言葉を訂正した。

 それでも終戦宣言に対する立場は変わらないかという質問には、「『事故』があったが、南北関係は持続し、堅持されなければならない関係だ」と述べた。そこでまた記者が「事故」というワーディングを指摘すると、「ただの事故ではなく、反人倫的な行為があった」と訂正するような始末だった。

 野党と一部のメディアは、事件を認知してから2日も過ぎてマスコミに公開した点を挙げ、「隠蔽疑惑」を提起している。23日の文大統領の国連演説が台無しにならないよう、政府が事件の公開時期を調整したという主張だ。24日の午前、国防部による背景事情説明のためのブリーフィングに出席した記者らも隠ぺいの疑惑を提起し、強く反発した。

「昨日(A氏の失踪事件に対する国防部の発表後)、数回にわたってブリーフィングを要求したが、会見するものがないと要求を断られた。ところが、夕べ、国会から関連内容が出た。国防部のコメントも、国会記者を通じて国防部記者たちに届いた。国防部の発表文の決裁ラインに与党議員が含まれているという疑いがある」

 これまで文在寅政権は、南北関係の改善という政権の「レガシー」のため、度重なる北朝鮮の挑発にただただ耐えてきた。17回のミサイル挑発、韓国人の税金170億ウォンが投入された南北連絡事務所の爆破、そして韓国の民間人を射殺および火刑した今回の事件があっても、「9・19南北軍事合意違反ではない」という立場をオウムのように繰り返している。こうした文在寅政権の「対北朝鮮屈従外交」に、韓国国民はいつまで忍耐することができるだろうか。

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