真夜中の繁華街から少しずれたところ、前方にポツンと人が立ち手を挙げている。覇気のない手の挙げ方……。案の定、ドアを開け乗り込んできた瞬間何か嫌な感じがする。

千葉県木更津市に行ってください」

 行き先を聞いたとたんに不安な気持ちが吹っ飛びウキウキ気分でハンドルを握りいざ出発!夜中にお客を乗せると日中よりもロングの確率は高い。売上げが悪いときに神様のお召しと思うのも無理がない。

 しばらく車を走らせると徐々に人気も街灯のない真っ暗な道へと進んでいく。後部座席が気になり、ルームミラーを覗くと俯く無言の乗客。

 再び不安な気持ちになってくる……。そんなときに頭によぎるものが2つある。

「もしや、幽霊……」か「もしやタクシー強盗……」

 ほとんどの場合は思い過ごしで何事もないのだが、いろいろ想像をして肝を冷やしドライバーも多いはずだ。幽霊の話だと笑い話で済むかもしれないが(中には済まない人もいるが)強盗となるとそうも言っていられない。

タクシーの不十分な防犯対策

 ここ最近も2件のタクシー連続強盗事件が起こりメディアを賑わせた。犯人は逮捕されそれ以上の被害はなかったが、だからと言って安心はできない。タクシー強盗は、昔からあり、過去には殺人事件までなったものもある。

 このような事件が起こったとしても、気をつけようにも気をつけられない。

 人相が悪いから、服装が怖そうだから、怪しそうだからという理由で断ることは無論できない(乗車拒否になってしまう)。それに人相が悪いから、服装が怖そうだからといって悪い人とは言い切れない。逆にそう見える人に限って礼も義も人当たりもいいことが多い(ギャップの差が大きい為印象に残っているかもしれないが)。対策といっても、ドライブレコーダーの映像を見せ、「気を付けましょう」の一言で終わってしまう。

 ドライバーは前を向いて運転しているので、後ろの様子など常に気にすることができない、完全無防備なのである。

 防犯対策の防犯版も柔なプラスチックでできており簡単に破壊できて意味がないし、今はコロナ感染予防の為にシートで仕切りがある車両も多いが、これも所詮ビニール、全く意味がない。なぜきっちり運転席と後部座席を隔離した空間にしないのかと思う。海外のタクシーみたいにしっかりと隔離していれば安心して営業できると思うのだが……。

 タクシーアプリの開発に勤しみ利用者が便利になるのもいいが、ドライバーにも目を向けてもらいたいものだ。いつも後回しになるのがドライバーの安全である。

◆赤く点滅したらSOSサイン

 タクシー強盗をはじめ、車内でいろいろな事件が発生する。よくあるのが、酔っ払いによる暴行や無賃乗車、いわゆる乗り逃げである。

 タクシーの車内は、犯罪しやすい状況が揃っている。密室、無防備、そして誰にも知られることなく実行できる。車内の装備がしっかりと防犯対策をしていない以上、犯罪を未然に防ぐことしかない。そうなるとドライバーは、直観を頼らざるを得なくなる。もちろん、やってはいけない行為であるが、「気付かなかったふり」や「直前に回送」をしたりとすることもある。しかし、そんな当てにならない直観もあたるはずもない。

 車内で事件が起こったとしても外から車内の様子は伺えないしわからない。車は走っているのだから当たり前のことであるが、では、万が一の時にタクシードライバーはどうやって助けを求めるのか。それは、「行灯を赤点滅させる」ことである。

 ほとんどのタクシーには行灯が付いている。行灯とは、車体の天井にある球体や四角、提灯の形をしたものをさし、会社名や無線番号が記してある。その行灯は夜になると明かりを灯すが、緊急時に赤く点滅する。

SOSサインの認知が最大の防犯

 因みに行灯は、空車時は明かりを灯し、実車や回送の時は、明かりが消える。夜間など空車のタクシーを探している場合など手掛かりとなる(千葉県など東京以外の所属するタクシーは、空車でも実車でも行灯の灯りが付いているタクシーがある)。

 また、会社や車種によっては、スーパーサインにも「SOS」や「助けて」、「緊急」の文字が掲示されるタクシーもある。これは路線バスも同じ方式だ。補足だが、スーパーサインとは「空車」や「回送」、「迎車」など表示される電光版のことをいう。

 万が一、タクシーの行灯が赤点滅になっているかスーパーサインSOSになっている車両を発見したら、タクシードライバーからのSOSサインであるので、躊躇せずに110番通報をしてもらいたい。

「あのタクシー珍しいね。天井の明かりが赤く点滅している」

と、やり過ごされることが減ることを祈るばかりである。世間にタクシードライバーSOSを周知してもらうことが、最大の防犯対策である。

二階堂運人】
物流ライターライター業の傍らタクシードライバーとして東京23区内を走り回り、さまざまな人との出会いの中から、世の中の動向や世間のつぶやきなど情報収集し発信する。また、最大手宅配会社に長年宅配ドライバーとして勤務した経験とネットワークを活かし、大手経済誌のWEB版などで宅配関連の記事も執筆する。タクシー・宅配業界の現場視点から、「物」・「人」・「運ぶ」・「届ける」をそれぞれハード(荷物・人)だけではなく、ソフト(心と気持ち)の面を中心に記事を執筆中。ブログ「吾は巷のインタビュアー!」

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