臨時休館が続いた根津美術館では、企画展『モノクロームの冒険—日本近世の水墨と白描—』が9月19日(土)よりスタートし、11月3日(火・祝)まで開催されている。
同展は、墨の可能性を追求してきた「水墨画」と「白描画」の魅力を、桃山時代から江戸時代にかけての作品を例に紹介するもの。
そもそも水墨画は、8世紀の中国で墨をはね散らしながら絵を描く人々が登場したことに始まり、墨の広がりや濃淡のグラデーションなどの表現が山水画として発展。やがて花鳥画や人物画でも用いられていくようになった。
日本には平安時代末期以降、中国から多くの水墨作品がもたらされ、やがて雪舟、狩野派により独自のスタイルを確立していく。
会場では、俵屋宗達が「たらしこみ」の技法を用いた《老子図》をはじめ、曾我宗庵によるメリハリの効いた水墨が目を引く《鷲鷹図屏風》、長沢芦雪が巨大な画面に中国の詩人が長江の名勝で遊ぶ様子を描いた《赤壁図屏風》など、独自の技法を駆使した個性的な水墨画を見ることができる。
一方、白描は墨の線のみで描くもので、水墨が多用する「にじみ」や「ぼかし」は用いられない。その発生は水墨画より古く、中国・漢時代にすでに描かれ、その後、洗練が加えられていった。日本には奈良時代にもたらされ、平安から鎌倉時代にかけて仏像図像、物語絵巻に優れた成果を残している。
江戸時代のやまと絵の画家たちも、『源氏物語』や『伊勢物語』を題材に白描画に取り組んだ。近世の日本では金、墨の濃淡や抑揚のある線なども導入して、表現の幅を広げていった。
白描画のコーナーでは、『源氏物語』や『伊勢物語』を描いた屏風や画帖に加え、復古やまと絵派の画家・冷泉などによる逸品が並ぶ。
「水墨」と「白描」のそれぞれで、墨の可能性を追求してきた近世の日本画家たち。彼らがモノクロームの美の世界に切り開いた新しい地平を目撃することができる。
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