アニメ『銀魂.』のOP主題歌「カゲロウ」などを収録した1stアルバム『19.(ナインティーンピリオド)』をリリースしたのが2017年5月だから、もう約3年半が経ったのか。全曲のソングライティングを手がけるRyoko(Vo,G)、そしてFumiha(B, Cho)、Aika(Dr, Cho)の3人は、この期間にЯeaLというバンドと正面から向き合い、自分の心の奥底を見つめ直し、お互いに全てを曝け出す覚悟で意見を交わしてきた。メンバーの脱退もあったし、ワンマンツアーや対バンツアーも経験し、22歳を迎える年齢となった。そして、ついに発売された2ndアルバム『ライトアップアンビバレンツ』は、常に完璧を目指す明るい“りょこたん”の“陽”の部分だけではなく、“陰”の部分にも焦点を当てたコンセプチュアルな作品となった。影が濃くなればなるほど、光の明度も上がり、深みも増した。バンドとして新たな側面を見せたアルバムをリリースしたばかりの彼女たちにその真意を聞いた。

取材・文 / 永堀アツオ

◆自分たちには色がないことも個性だし、赤と緑、白と黒、真反対のものを含めてできるのがЯeaLであると思ってて。それを一番わかりやすく表したのが「光と影」(Ryoko)

ーー アルバム全体の話から始めたいと思いますが、2枚目のアルバムはどんな作品にしようと思ってました?

Ryoko 】 1枚目を作り終えた瞬間からどういうアルバムを作りたいかを考えてて。メンバーにはずっと「統一感のあるアルバムを出したい」「光と影にフォーカスしたアルバムを作りたい」って言ってて。

Aika 】 次のアルバムどうする?っていう話のときに、ひたすらに「光と影がいい」って言ってて。

Fumiha 】 ほんまにずーっと言ってた。わかりやすいテーマやし、前のアルバムはガッシャガッシャンやってたので、どうなるかは不安だったんですよ。でも、光と影だけじゃなく、相反する矛盾した言葉もテーマになってて。すごく面白いし、これ最高だなっていうアルバムになったので良かったと思います。

ーー タイトルに“アンビバレンツ”とあるように、光と影、明と暗、善意と悪意、好意と嫌悪、リアルとヴァーチャルという相反する感情や事柄の間で揺れる葛藤をそのまま同時に描いてますよね。どうして「光と影」というテーマに行き着きました?

Ryoko 】 ずっと自分たちに色がないっていうことに悩んでいたんですよ。

◆いろいろと悩んだからこそ、ЯeaLが何を大事にしていて、何を伝えたいかっていう指針が伝わるようなアルバムができたんじゃないかなと思います(Ryoko)

ーー 前回のインタビューでも、ロックバンドなのに、こんなにポップでキャッチーで王道すぎていいのかってことに悩んでるっておっしゃってました。

Ryoko 】 それをコンプレックスに感じていたからこそ、1曲1曲のカラーはすごく強かったんですね。赤、ピンク、紫、真っ青とか。ただ、それを集めると統一感がなくて。結局、バンドとして見たときに、やっぱり色がないよねっていうことになっちゃってたんですけど、自分たちには色がないことも個性だし、赤と緑、白と黒、真反対のものを含めてできるのがЯeaLであると思ってて。それを一番わかりやすく表したのが「光と影」で、どこにでもありふれてるようなわかりやすいテーマやからこそ、いかにЯeaLらしく染められるかが大事やと思ったんですね。だから、2018年の年末にメンバーを集めて、「2019年の1年間で、ЯeaLとしてのバンドのカラーがつかなかったら、もうバンドはやめどきや」っていう深刻な話をして。

Aika 】 バンドと向き合った年やった。

Fumiha 】 いっぱい話したな。ただ、いっつも話すときは感情的になりすぎて、全部、忘れんねん。そういうタイプなんですよ。お酒を飲んで、バンってならないと言わないので。なんか言ってました?

Ryoko 】 あはははは。前向きやったよ。わかりやすく言うと、3人でお酒を飲みながら、肩を組みながら進めたんですね。それまでは、全員、感情的にならないし、バンドに対して思ってることがあっても、流れに身を任せてっていう姿勢だったんですけど、3人でお酒を飲んで、ああだこうだ言い合って。結論は出ないんですけど、その時間が大事というか。バンドにめちゃめちゃ向き合ってきたから、考えることも増えるし。それが深みにつながったし。いろいろと悩んだからこそ、ЯeaLが何を大事にしていて、何を伝えたいかっていう指針が伝わるようなアルバムができたんじゃないかなと思います。

ーー そのバンドとしての指針が色濃く出てる曲を挙げるとすると?

Fumiha 】 1曲目のSEに続く、「Dead or Alive」かな。しょっぱなから喧嘩を売ってるというか。殴りたい感じっていう昔からあるバンドの良さは残しつつ、歌詞は「光と影」というテーマにそって新しくなってる。今までは「イェイ! イェイ!」っていう感じだったのに、この曲は突き放して、突き放して、最後にしゅって助けるような歌詞になってるんですよね。

Ryoko 】 歌詞に関しては、「未来コネクション」のときからずっと悩んでて。今までは、キラキラした部分だけを描こうと思ってて。でも、もともとそんな人間ではないんですよ。外見だけキラキラさせてても、内面はぐちゃぐちゃのドロンドロンやから(笑)、今回は全部、ぶち壊そうと思って。

ーー この曲ではSNSについて描いてますよね。

Ryoko 】 そうですね。SNSは正義も悪もはびこってるから、人の意見に流されて。自分が思ってることもかき消されてしまって、自分がわからなくなってしまうこともあると思うんですよ。いいねやリツイートの数で正しいが決まっていく世の中は私はクソやと思うので、そういうことを打ち壊すことを描こうと思ってえぐり出した歌詞だったんですね。

◆綺麗事を並べた歌詞を歌うよりは、誰も救ってくれんよ、でも、自分で選ぶこともできるんやから、一緒に生きていこうよって言う方が自分の性に合ってるなと思った(Ryoko)

ーー Fumihaさんが「突き放す」って言ってたように、最初は誰も救ってくれないよと問いかけてて。

Ryoko 】 本当はそんなこと言われたくないですよね。救いを求めたいし、救ってくれると信じたいし、誰かが救ってくれるよって歌うべきやと思うんですけど、事実、自分のことは自分で救わないといけないと思うんですね。誰かに委ねるんじゃなくて、自分で選択していかないといけない。そんな風に散々突き放した後に、「でも、私も一緒やけどね」って手を差し伸べてる。綺麗事を並べた歌詞を歌うよりは、誰も救ってくれんよ、でも、自分で選ぶこともできるんやから、一緒に生きていこうよって言う方が自分の性に合ってるなと思ったし、誹謗中傷されて思い悩んでる人たちがこの曲に出会ってくれたらいいなと思う。もちろん、社会は一人二人が声をあげても変わらないけど、そういうことも含めて、自分が歌っていくから、みんなも生き抜いてほしいなっていう思いがこもってる曲になったし、サウンド面では殴りかかるようなスピード感は健在なので、新しくもあり、懐かしくもあり、ЯeaLらしさが一番出てるのかなと思いますね。

ーー この曲の最後で<僕が代わりに歌い続けるよ>と歌っているんですが、11曲目「強がりLOSER」では不器用だし、迷ってばかりだけど<声が枯れるまで戦うから>とあり、12曲目、アルバムの最後の曲「光になれない」では、光にもなれないし、強くもなれないけど、<大切な君のために歌うよ>と歌ってますね。

Ryoko 】 1曲1曲に真摯に向き合ったら、つながりができました。あえてではないですね。

ーー Aikaさんはどう思います?

Aika 】 私は「Unchain My Heart」かな。インディーズの頃の曲に似てるなって思ってて。「背中合わせ」のサビで<嘘と真実はいつも背中合わせ>って歌ってて。ちょっと通ずるものがあるし、Ryokoっぽいなと思ってて。

Ryoko 】 インディーズの頃は、純粋に素朴に自分の言いたかったことを曲にしてたんですよ。でも、メジャーになって、みんなが求める“りょこたん”を作るようになってしまって。当時はそれが正しいことやと思ってやってたんですけど、もともとは相反するものが中に渦巻いているようなごちゃごちゃした人間なんですね。でも、メジャーに出てからの4年間はずっと避けてきた。いかに華やかに、いかにメジャーっぽくりょこたんするかしか考えてなかったんですけど、メンバーが抜けたことだったり、「光になれない」をかけたことで、ちょっとずつポロポロ剥がれていって。実は「Ryokoの芯を出す」っていう裏テーマがあったんです。周りから見たRyoko像じゃなくて、ちゃんと自分が思ってること、負の感情も素直に受け入れて書くのが自分の中のテーマだったので、それがちゃんとできたんじゃないかなと思います。

ーー 「光になれない」はいつ書いた曲ですか。「売れるからついてきな」って言ってメンバーを誘ったRyokoさんが、自分に自信がないし、自分を愛せないって本音をさらけ出してますよね。

Aika 】 Ryokoの感情が出てる曲やな。

Fumiha 】 確か、ちょうどメンバーが抜けた瞬間に書いた曲やんな。

Ryoko 】 O-WESTで4人で最後のワンマンライブがあった日の夜、やめたメンバーの目の前で書きました。辞めるまでは不安があったんですけど、O-WESTでファイナルを迎えたときに、「あ、大丈夫や。これでいいんだ」って思えたんですね。一人抜けるから全員がボロボロやったんですけど、自分たちを受け入れてくれたフロアがあったから、大丈夫やなって思ったし、もう完璧じゃなくていいなって思った。そのときの感情でバーって書きましたしね。元メンバーが寝てる顔を見ながら書きました。

◆「Discord」が自分の人間性の一番深い部分なんじゃないかなって思います(Ryoko)

ーー 伝説みたいな話ですね。この曲は「Discord」とも繋がってますよね。5曲目の「Discord」の<居場所なんてあるわけない>という吐き出してたけど、「光になれない」で<居場所なんてどこにもなかったけど 君が居たから僕はここにいるよ>と歌ってて。

Ryoko 】 そうですね。「Discord」が自分の人間性の一番深い部分なんじゃないかなって思います。ЯeaLになると、攻撃性が外に向かうんですけど、個人として、単体としての自分はヘイトが内に向くんですね。なんで自分はこんなに何もできないんだろうとか、自分の居場所ってどこにあるんだろうとか、日々、考えてる。でも、ЯeaLのRyokoになるとそれが外に向かって、自分たちが悪いのではなく、SNSや世の中が悪いっていう捌け口になる。ЯeaLのRyokoが考えた本質ではなく、ほんとに素朴な私の素、本質、一番深いとこを書いたなと思う。

◆バンドでやらない曲なのに、歌詞に<real>って入ってるんですよね。こいつ、やりおるなって思いました(Fumiha)

ーー サウンド的にはボカロPのようなアプローチになってますよね。

Aika 】 この曲は別名義なんですよ。ЯeaLではなく、Ryokoのソロプロジェクトみたいな。

Ryoko 】 最近、名無(Namu)っていう私のソロをはじめて。もともとボカロPとして活動していたことがあって。今回、ソロとしてはじめて、この曲になったんですけど。

Fumiha 】 バンドでやらない曲なのに、歌詞に<real>って入ってるんですよね。こいつ、やりおるなって思いました。

Ryoko 】 あははは。

Fumiha 】 人間味がないような歌なんですよね。ЯeaLでは絶対に人間味を出さなければいけない。だけど、人間味を消したいから、ソロ名義でやるっていう。

Ryoko 】 私、人間味がめちゃめちゃ嫌いなんですよ。人間味のある人間のくせに、自分の人間味が嫌いで。例えば、ご飯を食べてるのも、眠くなるのも、嫌いなんですよ。感情論も嫌いやし、感情的になるのも嫌いなのに、一番、感情的なんですよ。めちゃめちゃ情深いし、めちゃめちゃ揺らぎやすいし、人のひと言でめちゃめちゃ傷つくんですけど、すごい無機質で、全てを切り捨てられるくらいの感情もあるんですよ。もう、パニックじゃないですか(笑)。でも、そういうのが私らしさであって。

◆いいと思うよ。今の若者は達観視した人も多いから、この曲はすごく刺さると思う(Aika

ーー Ryokoさん自身がアンビバレンツなんですね。

Fumiha 】 あはははは。ほんまや。

Ryoko 】 自分、やばいんですよ。でも、1個の自分としての人間をいろんな角度から切り取ったらこういうアルバムになるし、「Discord」はいちばん真ん中にある核の部分。感情的な自分と、人間味を消したい自分。どっちもある自分が嫌で出したくなかったんですけど、全部、出しました。

Aika 】 でも、いいと思うよ。今の若者は達観視した人も多いから、この曲はすごく刺さると思う。

Fumiha 】 名無(Namu)っていう名義がないと、Ryokoのそういう部分も見れなかったからね。

ーー もう1曲、9曲目の「サイレンサー」についても聞いていいですか。<泣けないだけの僕に誰か気付いてよ>という歌詞が、「強がりLOSER」の<ただ気付いてほしかったんだ 一人きり泣いてたあの頃の僕に>に繋がってるので。

Ryoko 】 上京したときに書いた曲ですね。いろんな人が目的を持って渋谷や新宿に来てるはずやのに、誰もが目的を見失ってるような気がして。そういうのってすごい悲しいなと思ったし、自分も目的を見失ってるような気がしたんですよ。しかも、電車に乗ると、いっぱい人がいるじゃないですか。その一人一人に人生や物語があるって考えたら、訳が分からなくなって、気持ち悪くなってきて。たくさんの人がいる分、たくさんの傷があって、たくさんの孤独があってって思うと、一体世界中にはどれだけあるんだろうって考えてるときに描いたのが「サイレンサー」ですね。

Fumiha 】 推しです。歌詞云々もそういう話なんですけど、「歌が歌えたんや」っていう。うまくなったとか、下手になったとかではなく、こんな感情的に歌えたんやっていう。私が聞いた中で、こんなに感情的に歌ったのが初めてでした。歌が何よりよくなったなっていうので大好きです。

ーー この曲、歌も演奏もエモいですよね。

Ryoko 】 そうなんですね。私は感情的に歌ってるはずやのに、Fumihaには昔から「もっとエモく歌え」ってずっと言われてて。私は何を言ってるか分からなくて。

Fumiha 】 人間じゃない感じやった。

Ryoko 】 それも曲に気持ちが乗ってないというか、自分の綺麗なところだけをみせようとしてた副産物だと思う。今回はエグったからこそ、「Dead or Alive」も割と感情的やし。感情の幅が広がったんじゃないかなと思います。自分では実感がないんですけどね。

Aika 】 レコーディングでも、この曲と「36.8」はピアノを実際に弾いてくれてて。生やとこんなにすごいのかって感じたし、ドラムもプロデューサーの方に「もっとエモく」って言われて。

Fumiha 】 そう、演奏をエモくって言われたな。なんやねんって思ってたんですけど、やっと意味がわかりました。

◆一つの物語、一つのライブ、一つの作品として聴いてもらえたら(Ryoko)

ーー (笑)「36.8」「サイレンサー」からの畳み掛けがすごいですよね。アルバムの流れとしてはどう考えてましたか。

Ryoko 】 ほんとに物語のようになっているし、頭から最後まで全て繋がってるので、シャッフルせずに、一つの物語、一つのライブ、一つの作品として聴いてもらえたらいいなと思ってて。「光と影」というテーマはあったんですけど、そこまでつなげようと思ってないのにこうなってるのは、心を描いたから、芯を食ったからこうなったんやなと思うんですね。過去に書いた曲、新しく書いた曲の違和感もあるだろうし、いろんなところにアンビバレンツは含まれてる。救ってほしいと言いながら、救われないって言ったり、変わってほしいって言ってるけど、変わったらあかんって言ってるし。それを含めて楽しんでほしいというか、アルバムを通して、いい意味で悪い意味でもブッ刺さるものになってるというか……。今までは百均のおもちゃのナイフのノリやったのが、ガチのナイフになったなって思うんですね。だからこそ、このアルバムを聴いて傷付いたり、感情的になってわからなくなったりする人もいるかもしれないけど、それもそれでいいと思う。誰かの感情や心の深いところに触れれるような作品を作れたし、自分でもえぐり取れたからこそ、何かを感じてもらえたらいいなと思いますね。

ЯeaL 「いい意味で悪い意味でもブッ刺さるものになってる」という意味とは?“光と影”をテーマに描いた、約3年半ぶりのニューアルバムについて訊く。は、WHAT's IN? tokyoへ。
(WHAT's IN? tokyo)

掲載:M-ON! Press