これまで、脚本家・演出家として創作を共にし、傑作舞台を残してきた少年社中の毛利亘宏とInnocent Sphereの西森英行。そんな彼らの新プロジェクト「HELI-X(ヘリックス)」がこの冬に始動する。
その第1弾となる舞台「HELI-X」が、12月3日(木)から12月9日(水)まで紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAにて上演、その後、大阪公演が12月12日(土)から12月13日(日)までメルパルクホールにて公演される。
今作はW主演で、玉城裕規、菊池修司が記念すべきシリーズ第1弾の先頭を走る。そのほか、宇野結也、輝馬、後藤 大、立道梨緒奈、松田昇大、塩田康平、星元裕月、笠原紳司、服部武雄、北村 海、久世星佳、西岡徳馬といった多くの手練れが揃う。
そこで、玉城裕規、菊池修司にインタビュー。ふたりの今作にかける熱い意気込みを聞いてほしい。

取材・文 / 竹下力 撮影 / 冨田望

◆オリジナルの舞台制作に参加できるのは、俳優として幸せなこと

ーー 脚本・毛利亘宏さん、演出・西森英行さんのタッグが仕掛ける新プロジェクト「HELI-X」は、発表当時から話題になっていますね。

玉城裕規 】 いつものことですが、おふたりのタッグからはすごい熱量を感じますし、そこから生まれる新シリーズに参加できるのは光栄です。オリジナルの舞台制作に参加できるのも俳優として幸せなことで、カンパニーみんなが納得できる作品をお客様に届けたいです。

【 菊池修司 】 昨年の舞台『メサイア―黎明乃刻―』で西森さんと毛利さんとご一緒した経験を経て、今作でもう一度声をかけていただけるのは俳優として嬉しくて(笑)。毛利さんの脚本と西森さんの演出がとても好きで、ご一緒できるのが楽しみですし、この1年で成長した自分をおふたりにお見せしたいと思います。

ーー 脚本を読ませていただきましたが、毛利さんがホームページ上で「社会的な問題に鋭く食い込んだ作品」とおっしゃっているように、今の世界状況を反映している気がしました。

【 菊池 】 普通の人間にない能力を持つ人々がいる世界のお話で、内容はハードでカッコいいので、どなたがご覧になっても心を抉られる脚本になっています。なおかつ、現代の社会問題といった今日的な事象が加わることで、見たことのない化学反応が起きている気がして。この脚本が舞台でどのように表現されるのか、世界観をどうやってお客様に届けて共感してもらえるのか、稽古に入って消化していきたいと思います。

【 玉城 】 盛りだくさんの内容ですね(笑)。具体的にどんな形になるのかは稽古に入って決まると思います。稽古になれば、自然と脚本の持つ世界観が膨れ上がるので。なるべくフラットな状態で臨んで、舞台にどうやって落とし込もうか考えていこうと思います。稽古場で、僕たちキャストの想いと相まって、今作がどんな色に染まるのか楽しみですね。

ーー おふたりは普段、脚本の段階でどこまで役づくりをされるものですか。

【 菊池 】 脚本の段階では、自分の役よりも世界観や設定を読み込むことを大切にします。あえて役を作らない状態にして、役づくりでやるべきことを稽古場に持ち込んで作り上げるというか。自分の演じる役はどの現場でもそうですが、今作では演出の西森さんと作っていく。演じる役は、演出家と俳優、ふたりでひとつに仕上げるものだと思います。稽古場で生まれた反応を大切にしながら、西森さんの想いも混ぜ合わせながら役を作っていきたいです。

【 玉城 】 基本的に脚本の段階では役を作り込まずフラットにいることを心がけるけど、作品にもよるよね?

【 菊池 】 そうですね。

【 玉城 】 脚本を読んで役をある程度作り込んで稽古場に持ち込もうとする現場もあるし、役を作って行かないほうが良いときもあって。それでも、僕は初読の第一印象だけは心に残していきますね。その感触を元にしながら稽古で役を完成させていきます。

ーー なるほど。HELI-Xと呼ばれる特殊能力が備わった人物を玉城さん、国を守る軍人を菊池さんが演じます。

【 菊池 】 僕の役は正義感が強くてまっすぐな性格です。ファンタジックな世界で個性豊かなキャラクターに周りを囲まれているのですが、今風の男性の風情があるせいか、存在が作品の中で浮き立つのが魅力です。彼は特殊能力がない人間で、能力者へ特別な感情を抱いているので、物語の中でどんな変化をしていくのか、それが今作では重要だと思います。

【 玉城 】 僕の役は復讐心ゆえに特殊能力者になるのですが、彼の心の変化の過程を大事にしたいです。複雑な環境に置かれた人物なので、かなり情報量がある役ですが、心の根本はシンプルにしないと上手に演じることができないと思っています。

◆ふたりの空気感は、稽古で出来上がる

ーー 今作はおふたりが極限状態の中で出会い、共に冒険をする“バディもの”の要素がある気がしましたが、いかがでしょう。

【 菊池 】 いい質問ですね(笑)。たしかにそういった見方もできると思います。玉城さんとは「改竄・熱海殺人事件」(2020)で違うチームだったのですが、ご一緒したときに仲良くさせていただいたので、コンビを組む不安はないです。どうやって“バディ”になるのか気にせずに、自然と相棒になっていたら嬉しいです。これから稽古を積み重ねて、“ニコイチ”の存在になっていきたいと思います。

【 玉城 】 修ちゃん(菊池修司)が言ったことが正解だと思います。ふたりの空気感は稽古で出来上がると思うので、今のところ不安もないし、どんな“バディ”になって作品に携われるのか楽しみです。

ーー ここまでヘビーで深いテーマを扱った作品はなかなかないですよね。

【 菊池 】 僕はおっしゃるようなタイプの作品にずっと出演したいと思っていました。ストレートプレイでも、テーマが重くて、社会とリンクしている舞台。そんな作品に出演できることが本当に嬉しくて、繊細な感情の変化で、それが“人間味”としてお客様に共感してもらえるよう演じたいと思います。

【 玉城 】 今作のような重厚な作品は、演じる側がストーリーやメッセージをしっかり理解していないとまったく伝わらなくなってしまうので、それを大事にしながら丁寧に演じたいです。ひとつの役でも別の俳優になれば抱く感情が変わりますから、あくまで僕の感情の流れに任せながら、物語の大切な部分を伝えたいと思います。

ーー おふたりともご一緒したことのある演出の西森さんの印象はいかがでしょう。

【 玉城 】 西森さんはどんな作品になっても変わらない母体を持つ、しっかりされた方ですが、舞台に対する考えや取り組み方は、作品が異なれば柔軟に変えていく方で。今回、西森さんがどんな空気感の舞台を作るのか待ち遠しいですし、信頼をしている方なのでディスカッションをしながら作っていきたいです。

【 菊池 】 これほど俳優の目線に立って喋ってくれる演出家はいらっしゃらないと思います。本当に親身に僕らの役に向き合い、役者を信頼してくださるんです。舞台『メサイア―黎明乃刻―』でも自由に演じることができたし、僕の意見を聞いてくれるぶん期待に応えたくて頑張らないといけないなと思ったので、今作も西森さんと共にみんなで良い舞台にしたいです。

ーー 西森さんとの思い出に残るエピソードはありますか。

【 菊池 】 千秋楽の打ち上げのときに、役者ひとりひとりに“大入袋”が配られるじゃないですか。

【 玉城 】 うん。

【 菊池 】 そのときに、僕が自分の役について西森さんに熱く語っていたことが印象に残っているとおっしゃってくださって。西森さんとディスカッションしていたときに、何気なくこぼれた些細な言葉だと思うんですけど、それを覚えていらっしゃったので驚きましたね。

【 玉城 】 僕らの全部を受け入れてくださるのが印象的で。いつも丁寧に「力を貸してください」とおっしゃられるんです。だから、甘えまくりですね(笑)。本当に全力でぶつかっても良い方なので尊敬していて、西森さんの存在の柔らかさが印象に残っています。

千秋楽まで駆け抜けたかった「改竄・熱海殺人事件

ーー おふたり、それぞれの印象はいかがですか。

【 菊池 】 「改竄・熱海殺人事件」でご一緒したのですが、そのときの第一印象は、すぐに脚本を手から離して、あの膨大な台詞量をこなしながら、立ち稽古をしていたことに驚いて!(笑)

【 玉城 】 あはは。

【 菊池 】 とても僕にはマネできないと思いました。「熱海殺人事件」は、台詞を覚えても覚えても次々に出てくるわけで。

【 玉城 】 すごかったよね。

【 菊池 】 それが第一印象で、稽古場で誰よりも一歩前に出ている感じがカッコよかったんです。

【 玉城 】 ありがとう。「モンテカルロイリュージョン」チームの多和田ちゃん(多和田任益)みたいに、修ちゃんはスマートですよね。けれど、彼らにはダンスや歌もあったので、稽古風景を見ていたらギャップに驚いて。スマートな印象を壊して、凄まじいお芝居ができるので、僕から何も言うことはないかな(笑)。

【 菊池 】 (笑)。ありがとうございます。

ーー おふたりは、バージョンは違いますが、今年、「改竄・熱海殺人事件」でご一緒していて、公演中にコロナの影響を受けたんですよね。

【 菊池 】 やっぱり、悔しかったですね。誰が悪いというわけではないのですが、「熱海殺人事件」という歴史ある作品に出演させていただけただけで嬉しかったですし、ひとりでも多くのお客様を感動させたい気持ちで臨んでいたので、千秋楽まで駆け抜けたかったです。最後まで公演できなかったのは残念でしたが、それでも東京公演は何公演か上演することができたし、そんな状況でもお客様がいて拍手をくださった。スタッフやお客様の助けもあって、ちゃんと完全燃焼したという気持ちになりました。

【 玉城 】 「熱海殺人事件」の上演中は、他の公演が“全公演中止”を決め始めている状況でした。そのなかで上演すると決めたときは、ものすごい決断が必要だったと思いますし、僕は「正しい選択だった」と思っています。東京公演も数公演になってしまい、悔しい思いがありながら、お客様を感染させてしまうことは、エンターテインメントとして絶対にあってはならないと考えたり……いろいろ葛藤しましたね。上演している段階は自粛期間前だったので、コロナウイルスがどういうものかもわからない状況で、危機感ばかりが募ることもあったのですが、今では数公演だけでも上演できたことを誇りに思います。

ーー 自粛期間を経験することで、俳優としてモチベーションの変化はありましたか。

【 菊池 】 「熱海殺人事件」が終わると、そのあとの舞台は軒並み中止となり、自粛期間は考える時間が増えて、お芝居や僕の人生を見つめ直す機会に恵まれました。僕はお芝居が大好きだし、舞台に立ちたい想いは変わらないことを確認できました。それを経たから余計に、今作に対する想いはこれまでの舞台よりも強くなっていると思います。新たなスタートを切る作品として、今作に出演させていただけるのはありがたい気持ちでいっぱいです。

【 玉城 】 俳優として自分自身を振り返るよりも、感染を拡大しないことを意識して不要不急の外出を控えるとか、これまでは普通のことが当たり前じゃなくなった世界で、当たり前のことをしようと心がけていました。そこから少しずつ自分自身を振り返って、配信演劇という新しい舞台に触れたり、そのなかで俳優として何ができるのかを考えましたね。そこから、ようやくエンターテインメントの世界が動き出しましたが、これからどうしていくのかということを今でも考え続けています。

ーー たしかに、まだ収束の見通しは立っていないですね。

【 玉城 】 僕はどの作品に対しても、身体が壊れようが精一杯やってきたので、舞台に対する接し方は変わらないけれど、心の中に、もっと演じることを大事にしようという意識が芽生えたと思います。自粛期間は、演劇やエンターテインメントのことだけでなく、日本のことも考えるようになって。お仕事ができること、今を生きていることに喜びを見出すようになりました。まずは今作を上演できることに感謝して、千秋楽まで無事に公演して、お客様に素敵な作品を届けたいです。

◆初めて舞台を観るような気持ちになって

ーー それでは、最後に見どころをお願いいたします。

【 菊池 】 舞台「HELI-X」は、みんなでイチから作り上げるまったく新しい作品なので、お客様も初めて舞台を観るような気持ちになって欲しいです。いろいろな感情に心が揺さぶられる作品になっているので、ぜひ劇場にいらしてください。

【 玉城 】 毛利さんと西森さんの新しいシリーズの第一歩を温かく見守って応援してください。そのために素敵な作品を届けますので、劇場に足を運んでいただければ嬉しいです。

玉城裕規&菊池修司が演劇界に活気を取り戻す。新プロジェクト第1弾の舞台「HELI-X」に駆ける熱き想いは、WHAT's IN? tokyoへ。
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掲載:M-ON! Press