今日では、大麻の安全性を示す科学的なデータが多数発表されています。(参考:「進む大麻の非犯罪化。北米の市場規模は140億ドルに」)科学的根拠がありながら、なぜ日本では世界の潮流に反していまだこれほど厳しく大麻が規制されているのか、その歴史的経緯について考察したいと思います。

◆大麻利用の歴史
 大麻草は古くから人間とともにあり、人間が栽培した最古の農作物であるとも言われています。そして昔から、産業、医療、向精神剤として利用されてきたことがわかっています。

産業利用:中国では、少なくとも紀元前6000年から大麻の種子とオイルが食物として利用された記録があり、紀元前4000年頃に大麻草から作られた布も中国とトルキスタン地方で発見されています。

向精神剤として:昨年6月、大麻がドラッグとして使われていたことを示す証拠が中国西部の2500年前の共同墓地から発見されました。また今年に入って、紀元前8世紀のイスラエルの神殿で儀礼に使われた痕跡が見つかっています。

医療利用:薬として大麻を利用したという文字による記録は、古代中国の伝承に登場する炎帝神農(えんていしんのう)の名をとった中国最古の薬物学書『神農本草経』に「麻賁」と「麻子」の両名が「上品」(養命薬であり、無毒で長期服用が可能なもの)として収載されていますし、古代エジプトでも医療用に使用されていたことがエーベルス・パピルス(紀元前1550年頃に書かれたエジプト医学パピルス)に書き残されています。ギリシャインドでも古代から医療利用されていたことが知られています。

 近代以降、18紀中盤から20世紀初期までは、ヨーロッパでもアメリカでも、大麻製剤が製造され、医師によって処方されていました。

 日本ではどうでしょう。

 縄文時代の遺跡から麻の実が発見されていますし、昔から麻は布地やロープを作るのに使われてきました。七味唐辛子に麻の実が入っているのはご存知のとおりです。

 宗教においても重要な役割があり、神道では豊穣と純潔さの象徴として大麻(おおぬさ)や御幣(ごへい)、あるいは注連縄や神殿に吊るしてある鈴の縄として今でも利用されていますし、仏教では、お盆のときに迎え火送り火として麻の茎の芯(おがら)を燃やすという慣習があります。

 また医療用としても、第2次世界対戦の前までは、大麻草チンキ、大麻煙草として販売されていました。

◆世界における大麻規制の始まり
 こうして何千年も昔からさまざまに利用されてきた大麻草が法的に取り締まられるようになったのは、20世紀に入ってからのことです。阿片、コカインなどの麻薬を規制する世界的な動きが始まり、そこに大麻草が加えられていきます。

 アメリカでは17世紀以降、植民地での大麻栽培が盛んでした。大麻栽培を義務付けられていた植民地さえあったほどです。ところが 1911年メキシコで革命が起こり、続いてアメリカに流入した多くのメキシコ人移民には、大麻(マリファナ)を嗜好目的で吸うカルチャーがありました。安い労働力を提供するメキシコ人に対する人種差別的な反感と、ある政治的な背景が、大麻を次第に悪者にしていきます。

 1930年、Federal Bureau of Narcotics(連邦麻薬局)が創設され、初代局長にハリー・アンスリンガーが就任しました。彼は酒類取締局(歳入庁の一部門)の副総監でしたが、1933年に禁酒法(1920〜1933年)が廃止され、別の取締対象が必要になりました。加えて、当時の取締局内の腐敗を粛清する必要性の中で若いアンスリンガーに出世の機会が生まれます。

 それまで大麻については「害がない」と発言していたアンスリンガーはこの機を捉えて反・マリファナに転じました。そして1937年、マリファナ課税法の成立で、事実上大麻の栽培・使用・販売がアメリカで禁止されます。

 実は大麻を禁じたのはアメリカが最初ではなく、カナダではそれより早く、1923年に大麻が非合法化されています。1857年にブリティッシュコロンビアで金が発見されて中国人移民が多数流入し、また Trans Pacific Railway の建設でも低賃金で働いていましたが、ゴールドラッシュが終わり鉄道が完成すると中国人が邪魔になり、1923年に中国人排斥法が制定されました。このとき、彼らが習慣として持ち込んだ阿片とともに大麻草も禁止されたのです。

 大麻が危険薬物として取り締まられるようになった背景には、人種差別的な偏見と政治的思惑があったことが見て取れます。そして、何千年もの間ただの「植物」として人間にさまざまに利用されてきた大麻草が「危険な薬物」の一つとして規制されるようになったのは、たかだかこの 100年ほどのことなのです。

GHQの指示で突如大麻栽培が禁止に
 日本で大麻が禁止されたのは第2次世界大戦後のことです。1945年10月12日マッカーサー元帥に率いられた連合国軍最高司令本部が日本政府宛てに発行した「メモランダム(覚書)」には、

「麻薬の種子および草木の作付け、栽培、生産を禁ずる。現在、作付け、栽培あるいは生産されている麻薬の種子および草木は、ただちに処理し、遺棄すること。処理された量、日付、処理の方法、場所、その耕地あるいはその地域の土地の所有者は、30日以内に連合国軍最高司令部へ届け出されなければならない」

とあり、麻薬の定義として

「麻薬とは、あへん、コカインモルヒネヘロイン、大麻(Cannabis Sativa L.)、それらの種子と草木、いかなる形であれそれらから派生したあらゆる薬物、あらゆる化合物あるいは製剤を含む。」

とあります。

 日本政府は驚きました。当時、麻は日本の主要農作物の一つであり、麻の農家が何万人もいたからです。(厚生労働省の資料によれば、1954年には 3万7313軒の麻栽培農家がいたということですから、戦前はおそらくもっといたことでしょう。)

 麻栽培農家からの猛反発もあり、日本政府は必死で連合国軍最高司令本部に交渉し、その結果、1948年に成立した「大麻取締法」では、取り締まり対象から麻の成熟した茎と種子が除外されました。

 大麻取締法が「アメリカに押し付けられた」法律であることは、制定の過程を見れば明らかです。ではなぜアメリカが日本に大麻の非合法化を強要したのかについては諸説ありますが、その根拠を示す公的な文書は残っておらず、はっきりしたことはわかりません。

 その後、1961年国際連合によって採択された「麻薬に関する単一条約(Single Convention on Narcotic Drugs)」は、主に麻薬の乱用を防止するため、医療や研究などの特定の目的について許可された場合を除き、これらの生産および供給を禁止するための国際条約です。この規制物質に大麻も含まれており、これが現在も、世界各国の政府が大麻を禁じる根拠となっています。日本は1964年にこの条約を批准しています。

 ちなみに、この条約には「医療や研究などの特定の目的について許可された場合を除き」とあるにもかかわらず、大麻取締法ではそれさえ禁じられていること、また、2018年WHO が大麻草の成分の一つ CBD を規制対象外とし、国際連合に対して条約内容の改正を求めていることを注記しておきます。

◆War on Drugs と無視され続ける科学的データ
 日本に大麻取締法を押し付けたアメリカで今、急速に大麻合法化が進行しているのは皮肉なことですが、そこには長い闘いの歴史があります。

 1937年のマリファナ課税法制定以降、アメリカでは猛烈な反マリファナキャンペーンが政府によって繰り広げられ、マリファナを吸うと幻覚を見たり精神に異常をきたしたりし、凶暴になって犯罪を犯す、というプロパガンダが大々的に展開されました。

 1971年、ニクソン大統領は「War on Drug(麻薬撲滅戦争)」を宣言し、レーガン大統領時代には、ナンシー夫人が先頭に立って「Just Say No(とにかく No と言おう)」キャンペーンが始まりました。(日本の「ダメ、絶対」はここから着想を得ているのかもしれませんね。)

 その一方で、メキシココロンビアからの大麻の密輸が途切れることはなく、アメリカでは大麻の入手は比較的容易であり続けました。1950年代にはビートニクスと呼ばれるインテリ層がマリファナを擁護し、1960年代に入るとマリファナは白人中産階級の若者に広く普及し、やがてベトナム反戦運動と深くつながり、反体制の若者のたちが掲げる価値観の象徴ともなっていきました。

 マリファナを違法薬物にしておくために科学的な根拠を意図的に無視する姿勢は、現代の日本に始まったことではありません。アメリカでも、1944年の「ラ・ガーディア報告書」、1972年の「シェイファー委員会」による報告書、1976年1980年の国立薬物乱用研究所(NIDA)による報告書、1982年の米国科学アカデミーによる報告書、1988年の麻薬取締局(DEA)判事による判決など、政府の依頼で科学者が行った数々の調査の報告書が一様に、大麻は人体に害を及ぼさないばかりか医療効果があり、さらなる研究が行われるべきであると結論しています。ところがその一つとして政府は耳を貸さず、科学者の忠告が受け入れられることはありませんでした。

 それではなぜアメリカでは現在 33州で医療大麻が、うち 11州では嗜好大麻も合法化されているのでしょうか。

◆経験・世論・直接立法型住民投票が推進するアメリカの大麻合法化
 大麻が人体にどのような仕組みで作用するのかについての科学的研究が本格化したのは 1990年代になってからのことです。1960年代には、大麻の喫煙が人間をハイにするのは THC という含有成分のせいであるということがかろうじてわかっていたにすぎませんでした。

 それでも、大麻がさまざまな疾患の症状の緩和に効くことを、人々は大昔から経験として知っており、それが民間医療として古代から世界中で大麻が使われてきた理由です。

 1930年代に使用が禁止されてからも比較的多くの人が大麻を使い続けていたアメリカ2017年に行われた世論調査では、18歳以上のアメリカ人の 52%が過去に大麻を使用したことがありました)では、ベトナム帰還兵の PTSD、抗癌剤治療による激しい吐き気の軽減、1980年代に突如として流行したエイズによる消耗症候群などの改善に大麻が効くということを経験的に知っている人が多く、彼らが声をあげたことが合法化活動を押し進めました。

 アメリカの多くの州には住民投票制度があります。発案、評決などいくつかの形がありますが、イニシアチブと呼ばれる発案の制度とは、「住民が署名を収集して請求を行い、助言的意見、議案、法律案または憲法修正案を提案し、その賛否を問うために住民による投票を行う」直接立法型住民投票です。

 イニシアチブを住民投票にかけるために必要な署名の数はその州の人口や登録有権者などいくつかの要素で決まりますが、たとえば今年カリフォルニア州でイニシアチブを住民投票にかけようとすれば 99万7139人の署名が必要です。決して簡単なことではありませんが、住民投票の結果その法案が可決すれば、法律が成立するのです。

 現在、アメリカで嗜好大麻が合法化されている11州のうち、9つの州では住民投票によって合法化が決まっています。最初に合法化されたのは 2012年ワシントン州とコロラド州です。筆者は 2015年にコロラド州の大麻合法化の状況を視察し、管轄省庁の職員や大学の研究者の話を聞く機会がありましたが、「民意(住民投票)によって医療・嗜好大麻が合法化され、州の管轄下に置かれることになったものの、その円滑な運用に必要な研究やデータ収集が事前に行われていない、また現在もそれを行うのが難しいという状況に困惑している」という言葉が印象的でした。

 つまりアメリカでは、大麻の使用経験と日々更新される科学的知見がまずは世論を動かし、民意が大麻に Yes と言い、政治がそれを追いかけているのです。最新の調査では、アメリカ人の66%、3人に2人が大麻の合法化に賛成しています。

 翻って我が国ではどうでしょう。住民投票による立法という手段を私たちは持ちませんが、仮にそれが可能であったとしても、世論の大方は大麻に対してひどく冷淡です。大麻の安全性や医療効果に関する情報はインターネットを探せば山のようにあるのに、「ダメ、絶対」の呪縛にがんじがらめになったまま、「なぜ」大麻が禁じられているのか考えてみようともしない人があまりにも多いように私には思えます。

 大麻取締法が制定された 1948年には、大麻が持つ精神作用がTHCという化合物によるものであることも、人間の体の中にエンドカンナビノイド・システムという大麻草の成分が作用する仕組みがあり、それが大麻の医療効果を発揮させる経路となっているということも、まだわかってはいませんでした。

 一方、厚生労働省が大麻を禁じる理由に挙げている、依存性がある・精神疾患を引き起こす・他の薬物使用の入口になるといった理論は、現代科学によってことごとく否定されています。

 大前提となる科学的知見が現在とはまったく違っていた72年前に外国に押し付けられた法律を、日本がなぜ後生大事に守り続ける必要があるのでしょうか。取り締まる側に、科学的知見を無視してでも守りたい何があるのか、ここで憶測することはしませんが、あるいはこれは、「ダメ・絶対」キャンペーンによって、取り締まる側も取り締まられる側も含めて日本人の思考が停止してしまっている証ではないのでしょうか。世論を形作る日本人の一人ひとりに、是非一度考えてみていただきたいと思います。

<文/三木直子>