7年8か月ぶりとなる新しい首相が誕生した。菅義偉首相率いる新内閣の経済政策は、株式市場にどんなインパクトをもたらすのか。“スガノミクス相場”の可能性について取材した。

麻生太郎財務・金融相、茂木敏充外相ら8人が留任、新官房長官には加藤勝信氏が横滑りでサプライズなし。人事は無難な船出だ 写真/朝日新聞

◆株価は「長期政権の可能性が認められるかどうかにかかっている」
 総裁選で圧倒的な支持を集めて発足した菅義偉新内閣。新味はないが実績重視の閣僚人事で、報道各社の世論調査でも高い支持率を得る好スタートを切った。安倍前首相の退任表明で一時下落した日経平均株価も、その後は底堅く推移している。

 株式市場はひとまず“スガノミクス”を好感したわけだが、かつてのアベノミクスのように株価を強力に押し上げる力はあるのか。楽天証券経済研究所の窪田真之チーフ・ストラテジストは「長期政権の可能性が認められるかどうかにかかっている」と話す。

「日本株の売買シェアの過半を握る外国人投資家は、強いリーダーが率いる長期政権を好みます。これまでも安倍前首相や小泉元首相が率いて圧勝した解散総選挙の前後には、日経平均株価は大きく上昇しました」

 菅首相もピンチヒッターのままでは短命政権とみなされるおそれもあるが、解散総選挙で国民の信任を得れば内外から長期政権を築ける強いリーダーと認められることになる。そうなれば、外国人投資家は日本株買いに転じる可能性が高いという。

注:解散総選挙の投票日の1営業日前の日経平均の値を100として指数化。横軸の0(ゼロ)は、解散総選挙実施日直前の営業日。▲28は、その28営業日前、58は58営業日後を表す。実施年の右横に、解散総選挙の結果、成立した内閣を記載。楽天証券経済研究所が作成

◆携帯料金引き下げでMVNOが恩恵か
 総裁選には安倍政権の踏襲を前面に打ち出して臨んだ新首相だが、今後は独自色を強めそうだ。その一丁目一番地となるのが、’21年に発足を予定しているデジタル庁だ。窪田氏はこう解説する。

「安倍政権が強力に推し進めた『官邸主導』も、実行したのは官房長官だった菅氏です。横浜市会議員の時代から、ケンカしてでも規制緩和に熱心に取り組んできた。新政権でも強いリーダーシップを発揮していくと考えられます」

 DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進によって、オンライン診療や自動運転、マイナンバー活用などは、今後も有望な投資テーマになりそうだという。

 そしてもうひとつ、新首相が並々ならぬ執念を燃やしているのが、総務大臣のときに達成できなかった携帯電話料金の引き下げだ。マーケットアナリストの藤本誠之氏はこう解説する。

「大手3社の販売奨励金やSIMロックといった仕組みに菅首相は長年にわたり疑問を呈し、格安スマホ参入による価格競争を促してきた。携帯料金を下げれば多くの国民が恩恵を受ける」

 収益が悪化する携帯大手3社にはネガティブ要因だが、藤本氏は格安スマホ事業者であるMVNOは有望な投資先になると期待する。

MVNOデータ通信料を安く提供する半面、大手の音声通話の回線使用料が高いままだったため、かけ放題サービスを提供できなかった。しかし今年になって総務省NTTドコモに値下げを求めたことで、日本通信が念願のかけ放題プランを発表。今後この動きが他社に広がる可能性もあります」

◆地方創生、国土強靭化、不妊治療・少子化はどうなる?
 地方創生も、菅内閣の注力課題のひとつだ。ふるさと納税や「Go To トラベル」関連に加え、「在宅勤務拡大を機に、オフィスの地方分散化にも取り組むのではないか」と窪田氏は分析する。

 さらに、財政政策による「国土強靭化」も期待のテーマだ。

アベノミクスでは防災に関する政策の多くがやり残したまま。現状はコロナ禍で工事が遅れていますが、自然災害の脅威が増していることを考えても、いずれ力を入れていくはず」(窪田氏)

 菅新首相は不妊治療の保険適用化についても言及しており、少子高齢化関連にも妙味はありそうだ。

 現状はコロナ禍で景気は低迷しているが、株式投資はどのようなスタンスで臨むべきか。窪田氏は「こうした時期は買い場」と話す。

「当たり前の話ですが、景気は循環することを忘れてはいけません。100年に一度の危機といわれた’08年リーマンショックに襲われても翌年4月には世界経済が回復に向かった。現在、コロナ禍によって実体経済は大きな打撃を受けていますが、私は’21年から景気は回復期に入ると予想します。ここで菅内閣が強いリーダーシップを発揮できれば、株式市場の力強い上昇を後押しするはずです」

 一方、藤本氏も「どんなに景気が悪くても、世界的な金融緩和でマネーは株に向かうしかない」と指摘する。

コロナ禍による景気後退の傷は、バブルでしか癒やされません。長期政権が視野に入れば、日経平均株価は2万8000円もあり得る」

◆スガノミクス関連の5大テーマ
▼携帯料金引き下げ

菅新内閣で総務相に任命された武田良太氏は「1割程度では改革にならない」と早速発言するなど、携帯大手に対する値下げ圧力は強まりそうだ。「NTTドコモKDDIソフトバンクの大手3社にはネガティブですが、格安スマホの事業者であるMVNOには大恩恵。注目は日本通信(9424)です」(藤本氏)。また携帯料金の値下げは低所得者層、若年層の消費を喚起するのに有利な施策という。

▼国土強靭化

公共事業による財政出動はアベノミクスの矢の一つ。防災・減災の強化とともに老朽化したインフラの補修・整備も急がれており、菅政権でも踏襲するとみられる。「アベノミクス初期には建設会社が人気化しましたが、補修箇所が見えるスケルトン防災塗装技術を持つエムビーエス(1401)や、ドローンによるインフラ点検ビジネスを展開する自律制御システム研究所(6232)などにも注目」(藤本氏)。

▼地方創生

「総裁選では菅氏の地方票は石破茂氏の倍以上。在宅ワークも定着しつつある今、秋田出身の菅氏のもとで地方創生はさらに脚光を浴びる」(窪田氏)。地方の優良企業を中心にM&Aが進むと藤本氏は予想し、「買収に積極的なヨシムラフードホールディングス2884)や前田工繊(7821)に注目。地方企業と首都圏の人材の副業マッチングビジネスを手がけるみらいワークス(6563)にも期待」と話す。

▼不妊治療・少子化

菅内閣の初めての閣議で定めた基本方針では、「喫緊の課題である少子化に対処し不妊治療への保険適用を実現する。保育サービスの拡充で待機児童問題を終わらせる」と言及しており、少子化対策は引き続き“国策”だ。「婚外子への抵抗が強い日本では、少子化対策は非婚対策でもあります。婚活サービスのIBJ(6071)、パートナーエージェント(6181)が有望でしょう」(藤本氏)。

▼DX

’21年秋までに行政のデジタル化を推進する「デジタル庁」新設を発表。窪田氏は「コロナ禍で露呈した非効率な縦割り行政の打破に期待が高まっている」と話す。注目銘柄は多岐にわたるが、藤本氏は「AIソリューションのヘッドウォータース(4011)をはじめ数多くの有力IT企業に出資するベクトル6058)、企業向けデジタルマーケティングのオーケストラホールディングス(6533)が面白い」と分析。

【窪田真之氏】
楽天証券経済研究所チーフ・ストラテジスト。住友銀行、住銀バンカース投資顧問、大和住銀投信投資顧問を経て’14年より現職。日本株ファンドマネジャー歴25年のスペシャリストとして活躍する。

【藤本誠之氏】
マーケットアナリスト。日興證券、マネックス証券、SBI証券などを経て、現在は財産ネットの企業調査部長。「相場の福の神」と呼ばれ、テレビラジオなどメディア出演多数。

<取材・文/森田悦子 図版/ミューズグラフィック

※週刊SPA!9月29日発売号より

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