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「慢性的な腰痛の多くは、脳で痛みを感じていることが原因です!」

そう話すのは、医学博士で痛み専門医の河合隆志先生。河合先生は、自身も大学生のころからつらい肩こりに悩んできた経験を持つ。整形外科、鍼灸、カイロプラクティックとあらゆる治療法を試し、ついには自身が痛みを治療する専門医になった。

そんな河合先生がたどり着いた痛みの原因が「脳の酸素不足」だ。でも、どうして?

「痛みを訴えて当院に治療に来られる患者さんのなかでも、腰痛は特に多い悩みです。しかし、レントゲンやMRIなどで調べても、腰そのものには異常がない方が現実にいる。その理由をたどったときに、脳が痛みを感じていることに気がついたのです」

言うまでもなく、私たち人間の体を支配している脳。「動き」をコントロールするだけではなく、たとえばクリーミーなデザートを食べたときに、なめらかな舌触りを感じるのも、すべて「脳」の働きによるものだ。

「腰痛に関していえば、腰を強く打って痛みを感じても、腰そのものが『痛い!』と感じるわけではありませんよね。腰に受けたダメージは神経を通って、脳に信号として届けられることで、私たちは初めて腰の痛みを感じるのです。つまり、痛みを感じるのは腰ではなく、脳。事故や病気で手足を失ってしまった方が、存在しないはずの手足に痛みを感じる症状を『幻肢痛』といいますが、これはまさに脳の仕業です。そして、そうした思い込みが生まれる原因は、脳の暴走にあるといわれています」

痛みの信号は最終的に脳の「扁桃体」という部位に到着するため、この「扁桃体」の暴走が、幻の痛みの原因になるという。

「ではなぜこの扁桃体が暴走するのかというと、その大きな理由はストレスです。扁桃体は『感情』もつかさどっており、不安や恐怖、苦しい、悲しいといった感情が強いと興奮してしまい、痛みに対しても敏感になるのです。そして、脳は精神的・肉体的ストレスを感じると、そのストレスを体に逃がそうとします。その代表的なものが胃潰瘍や過敏性腸症候群なのですが、じつはこのストレスは首や腰といった背骨沿いにも出やすいことが知られており、腰痛はとくに多いのです。肉体的にも精神的にもストレスがたまりやすい、40〜50代の働き盛りの方に多いという点も特徴ですね」

その治療法の第一歩として河合先生が提唱するのが、「酸素たっぷり呼吸法」だ。

「アメリカのノースウェスタン大学の研究で、慢性腰痛の人は脳の血流が全体にわたって少なくなっていることがわかっています。これは血流が不足すれば、当然、血液によって運ばれる酸素の供給量も減っている、ということ。脳は全身の酸素供給量の20%を必要としていますので、脳は血流不足、すなわち酸素不足の影響を受けやすいと言えるでしょう。この酸素不足を解決するためにぴったりなのが、私がおすすめする呼吸法なのです」

■脳の誤作動を防ぐ「酸素たっぷり呼吸法」

【1】基本の姿勢

背筋を軽く伸ばしてイスに座る(背もたれがある場合は寄りかからない)。親指を腰側にして両手で左右の腰を軽くつかみ、目を閉じる。

【2】鼻から8秒吐く

目を閉じたまま鼻からゆっくりと息を吐きだす。体を少しだけ反らしながら、マッサージをするように親指に力を入れる。

【3】鼻から4秒吸う

目を閉じたまま鼻からゆっくり息を吸い込む。体を元に戻しながら、おなかと腰が膨らむイメージで親指の力を緩める。※【2】【3】を5分間繰り返す。

この呼吸法ではあえて腰をつかんで反らせているが、これも脳の思い込みを修正するため。

「腰そのものには異常がないのに、痛みがある人は、怖がって腰を動かせずにいます。ですから意識的に腰を動かし『ほら、大丈夫!』と脳を再教育しましょう」

さらに深い呼吸は、扁桃体の興奮を和らげ腰痛のもとであるストレスも軽減してくれる。息を大きく吸い込んだら、腰痛の原因となる「思い込み」といっしょに吐き出そう!

「女性自身」2020年10月13日号 掲載