報道・ドキュメンタリー番組「報道特集」(毎週土曜昼5:30-夜6:50、TBS系)が、2020年10月、放送40年を迎えた。1980年10月に「JNN報道特集」として放送を開始して以来、『調査報道』にこだわり、当事者の証言を得て、真実を伝えることを使命としてきた同番組。2016年4月より金平茂紀、日下部正樹両キャスターと共に「報道特集」を担当する膳場貴子キャスターに、番組や携わるスタッフへの思いをインタビューした。

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――まずは、膳場キャスターが子どもの頃に見ていた「報道特集」の記憶を教えてください。

とてもおぼろげですが、「報道特集」といえば、料治直矢さん(1997年まで「JNN報道特集」キャスターを務めた)が思い浮かびます。外見も声も迫力があり、社会問題に切り込んで事実を明らかにしていく姿を、子ども心に「カッコいい」と思っていました。

おかしなことには声を上げ、力ある者に対してもひるまない。大人とはこうあるべきだ、と子どもながら感じていた気がします。大人の番組といえば「報道特集」、そんなイメージを抱いていました。

――その番組に携わることになった時、どんな思いを抱きましたか?

うれしかったです。それまで10年近くTBS「NEWS23」で仕事をしていたので、フロアの同じ「報道特集」にどんなスタッフがいて、どれだけ熱量がある番組であるかは分かっていました。このチームで仕事ができるのは、階段を一つ上らせていただくようで、とても光栄なことだと思ったのを覚えています。

――それから4年半、番組ではどんなことを心掛けていますか?

報道特集」は、ディレクターとキャスターが取材したVTRを基軸とする番組なので、なるべく取材に出るよう心掛けています。それ以前は、スタジオを回し、生放送のスタジオでゲストから話を聞き出す役割を長く担っていたので、そこは大きく意識を切り替えました。

キャスターの金平さん、日下部さんは現場取材のエキスパートで、キャリアはとてもかないませんが、私にも果たせる役割があるように思います。お二人とも海外支局長を歴任しているので、外信ニュースはお二人のテリトリー。国内ニュースは3人全員で取り組み、中でも私は、教育関係や社会保障、医療や福祉に関心があるので、そこを担っていこうと思っています。

■ 「報道特集」の財産、武器とは?

――継続して取材をなさっていることはありますか?

東日本大震災の際は「NEWS23」を担当していたのですが、オンエアの有無にかかわらず、毎週のように現地に足を運んで多くの方にお会いしてきました。それは継続したいと思い、「報道特集」でも毎年気仙沼などを訪れ、地域の皆さんの歩みや復興の様子を取材しています。来年で震災から10年ですが、節目を過ぎても継続して行きたいです。

――スタートから40年続く「報道特集」の財産、武器は何ですか?

キャリアのあるディレクターが多いことでしょうか。記者として政治や経済、社会部の第一線で実績を上げてきた人や、海外支局勤務を経験した人、長年取材をしてきたテーマを持っている人も多く、強みは彼らの専門性です。みんなで知恵やネットワークを持ち寄って独自目線で番組を作っていけるのは大きな武器ですね。

ウイークリーであることも強みになるのかもしれません。デイリーニュースではどうしても時間の制約が厳しくなりますが、週1回の番組なので、比較的じっくりと時間をかけて制作することができます。そうしたことが番組の力になっていると思います。

そして、当事者の言葉を大事にし、調査報道に取り組むこと。これが番組の本質で一番の武器です。

――ベテランが大活躍する中、若いスタッフはどんな仕事ぶりなのでしょう?

志のある若いスタッフが多く、ベテランに一生懸命食らいついています。キャスターと二人三脚で現場取材をする中からも、多くのことを学んでもらえていると思います。

取材のバックアップ体制があることや、放送するまでの議論の回数、プレビューの回数を考えると、若手がしっかりと育っていく番組。報道特集を離れても、彼らはテレビのドキュメンタリーや調査報道を担っていってくれると思います。

■ 金平茂紀・日下部正樹両キャスターのこと

――ベテランといえば、金平さん、日下部さんもベテランです。お二人のお話を聞かせてください。ユニークなところなども。

毎週火曜の定例会議を最近はリモートで行っているのですが、毎回、日下部さんはジョギングしながら参加していますし、金平さんの後ろからはスポーツジムにいるような音がよく聞こえてきます(笑)。お二人とも精力的に取材に飛び回るので、そのための体力づくりをしていらっしゃるのだと尊敬します。が、会議の雰囲気が和んで、ちょっと可笑しいですね。

金平さんからは、テレビは自由に振る舞ってもいいんだということを学んでいます。1対マスとのコミュニケーションメディアなので、どうしても全方位を見てバランスをとったり、言葉を丸くしたりしがちですけど、金平さんにはそういうところがあまりないですよね。

言いたいことをおっしゃるので、こちらが驚くこともある。でも、無難なだけでは議論も起こらない。共感するにせよ反発するにせよ、ああいうとがった言葉を投げ掛ける人がいるのはとても価値があると思います。そうでないと世の中は息苦しくなる。金平さんが、堂々と発言をなさることには大きな意味があると思います。

日下部さんは常に冷静で、読書家で、物知り。スタッフとのプレビューの際にも、新しい視点を提示してくれます。スタッフも日下部さんから学んでいることは多いと思います。自分もこういうキャスターになりたいなと思う存在です。

お二人と仕事をしていると、テレビの知性はまだまだ信頼できますよ!と言いたくなります。

さまざまなメディアが増え、テレビに対する期待感が昔に比べて下がっているのかもしれませんが、「報道特集」はテレビの良識を担える番組だと思っています。

――そんなお二人に挟まれて、どうスタンスを取ろうと意識されていますか?

番組の間口を広げていろんな方に見ていただくことを意識しています。取材に基づきながら、是々非々のスタンスで臨むよう心掛けています。

また、子育て中の40代女性としての生活実感も大事にしようと思っています。

今回の政権交代では、安倍政権の負の遺産に対する怒りや疑問を口にした放送が何度かありましたが、私の中から自然に出てきた言葉です。国民から問題視されてきたことを、リセットして無かったことにするのはおかしいと思いましたから。

これからも、取材や生活実感に裏打ちされた視点を提示していきたいと思っています。

■ 膳場キャスターがこの先、番組で取り組みたいこと

――以前のインタビューで、今後取り組みたいテーマに「女性の活躍」を挙げられていました。どんなことを考えられていますか?

働き方改革や、男性の育休取得、女性の管理職を増やす動きなどについて、女性だけの話ではなく、男性も当事者であるというアプローチで、取材していきたいと考えています。ジェンダーギャップが世界121位というのは、将来世代に積み残したくない課題だと思っています。

――そうしたテーマと直面することになる現代の若者をどう見ていますか?

自分の若い頃を顧みると、今の若い世代は、社会貢献の意識を若い時から持っていることに驚かされるし、そこにとても期待を寄せています。

政治の劣化を感じるのと対照的に、若い世代を見ていると、成熟社会というのはこういうことなんだろうなと思わされることが多くあります。

――政治への不信感は強いように見受けられます。

コロナ施策で翻弄(ほんろう)される中、個人的には、政治への不信感を募らせるだけではなく、自分で判断して行動することの重要性も再認識させられました。

ただ、政治の役割は社会的な弱者を救済することですので、為政者が権力をどのように使っているか、厳しい目で見ていかなければという思いは強く持っています。

――そうした思いをもって、今後も番組でメスを入れていくわけですね。

政治に限らず、おかしなことは見逃さず、当事者の声に耳を傾け、現場を歩いて行きたいですね。40年の歴史に恥じないよう、これからも、大人としての良識を感じていただける、信頼の置ける番組を届けていきたいです。(ザテレビジョン

膳場貴子キャスター(TBS「報道特集」)