既報の通り、テック業界を代表する4大企業のGAFAは独占禁止法違反の疑いでアメリカ司法当局から厳しい視線が向けられている。こうしたなか、アメリカ下院反トラスト小委員会はGAFAに関する長大なレポートを提出した。そのレポートの内容は、GAFAによるプラットフォーム支配体制に変更を求めるものであった。
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・450ページもの長大な文書を提出
テック系メディア『Ars Technica』は8日、アメリカ下院反トラスト小委員会が作成したGAFAに関するレポートの解説記事を公開した。インターネットから閲覧できる同レポートは450ページにもおよぶPDFファイルとなっており、作成に際しては関係者への7回のヒアリング、130万件を超える内部文書の調査、そして240件以上のインタビューが行われた。
同レポートでは、GAFAに属する各社がそれぞれの基幹業務において市場を独占し、なおかつ市場への新規参入をコントロールしていたことが報告されている。例えば、Amazonはアメリカのオンラインショッピング市場の50%を支配しており、同社のショッピングサイトに参加している企業の1/3強が同サイトからの収入に大きく依存している。こうした「Amazon頼み」の企業は、交渉において非常に不利な立場に置かれている。
Appleに関しては、スマホ市場において独占的なシェアを占めていないものも、App Storeの運営に関して独占的な立場にあり、「通常以上の利益」を生み出していると指摘されている。FacebookとGoogleに関しては、オンライン広告市場を寡占して競争を阻害していると報告された。
以上のようなGAFAによる市場独占とその弊害の対策として、同レポートはプラットフォーム運営事業と自社製品の販売事業を分割することを勧告している。もっとも、同レポートを作成した反トラスト小委員会には、事業分割を命令する権限はない。その権限があるのは、連邦取引委員会とアメリカ司法省である。
・フォートナイトの乱は「少しワイルドな」展開に?
GAFAの独占禁止法違反を認定したとも見てとれる反トラスト小委員会作成のレポートは、今後のテック業界の動向に大きな影響を与える可能性がある。影響を受ける事案のひとつには、AppleのApp Store運営に関して独占禁止法違反の疑いで争っている”フォートナイトの乱”がある。ゲームメディア『Eurogamer』は7日、同レポートのフォートナイトの乱への影響を考察した記事を公開した。
Eurogamerの記事では、テクノロジー関連の法律案件に精通している弁護士のRichard Hoeg氏のツイートを紹介している。そのツイートによれば、同レポートは今後GAFAの「頭に数発打ち込まれる」かも知れないことを示唆しており、Apple優勢となったフォートナイトの乱に関しても決着する前に「少しワイルドになる」だろう、とのこと。「少しワイルドになる」という表現は、Epic優勢に形勢が逆転することを表していると考えられる。
Hoeg氏は同レポートの内容を「これから訪れる激動の時代の前兆」のようだとツイートで評して、今後テック業界が大きく再編される可能性があると見ている。
・さらなる進展はアメリカ大統領選挙の結果次第
反トラスト小委員会作成のレポートにもとづいて何らかの法的措置が下されるかどうかは、実のところ、アメリカの今後の政治情勢に左右される。ブルームバーグが8日に公開した記事は、同レポート提出後の展開について解説している。
同レポートの作成過程において注目すべきなのは、民主党主導で行われたことである。つまり、同レポートの内容は民主党のテクノロジー政策の一部を代弁していると見れるのだ。それゆえ、同レポートにもとづいた法的措置がくだされるかどうかは、11月3日に行われるアメリカ大統領選挙の結果に左右される。民主党のバイデン氏が次期アメリカ大統領に就任した場合、GAFAの事業分割が命令される可能性が高くなるだろう。
同レポートの作成には、共和党議員も関わっている。そんな共和党議員のJim Jordan氏は、同レポートの内容を「極左の視点」から独占禁止法を改変しようとするもの、と批判している。同氏の批判が、共和党のテクノロジー政策を代弁するものと見なすことは直ちにできない。しかしながら、共和党のトランプ大統領が再選した場合、同レポートの勧告は無視されるかも知れない。
以上のようにアメリカ大統領選挙の結果は、GAFAの動向ひいては世界のテック業界に大きな影響を及ぼす。次期アメリカ大統領就任時には、GAFA関連の発言にも注目すべきであろう。
(吉本幸記)
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