中川大志清原果耶が声優を務めるアニメ映画ジョゼと虎と魚たち』が、12月25日(金)に公開となる。原作は、芥川賞作家である田辺聖子の同名小説で、妻夫木聡と池脇千鶴を主演に迎えた実写映画も熱狂的に支持されただけに、アニメ映画版にも熱い視線が寄せられている。主演を務める中川と清原を直撃し、作品の完成を前に、フレッシュなアフレコ収録秘話を聞いた。

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ある日、車椅子に乗って坂道を暴走してきたジョゼ(清原)を、慌てて助けた大学生の鈴川恒夫(中川)。足の不自由なジョゼは、自分が好きなフランソワーズ・サガンの小説「一年ののち」の登場人物にちなみ、「ジョゼ」と名乗る。そんな2人が前に進んでいく姿を、大阪を舞台に綴られていく。監督は『おおかみこどもの雨と雪』(12)の助監督や、テレビアニメ「ノラガミ」シリーズの監督を務めたタムラコータローで、本作がアニメーション映画での初監督作となる。

中川は、恒夫役について「恒夫はジョゼの世界観に引っ張られていく感じなので、今回は基本的に受け手として、お客さんと同じ立ち位置で演じようと思いました」と最初は捉えたそうだが、監督からは「恒夫には恒夫の世界観があってほしい」とリクエストされたようだ。

ダイビングショップでバイトをしている恒夫は海が大好きで、大学でも海洋生物学を勉強していて、確かに彼特有の世界観も劇中で展開される。

「監督に言われてからは、ジョゼのペースに引っ張られすぎないようにしました。恒夫は、好きなことになると、周りが見えなくなるところもあるので、そういう熱量を大事にして演じていきました。また、2人がかみ合ってないところも出したいということで、ちょっとした鈍感さや天然ぶりもキャラクターに乗せました」。

清原はジョゼ役について「気が強い。でも臆病な部分をもっている女性」と捉えた。

ジョゼは感情の起伏がすごくある人なので、それを声色だけで表すのが大変でした。関西弁できつい言葉を使うけど、そのままのトーンで行けば、ただの嫌な女の子になってしまう。でも、声のトーンを上げすぎると、監督が私に求めてくださっているリアリティが欠けてしまうかもしれないので、そこは気をつけました。また、ジョゼは24歳ですが、監督からは『小学生ぐらいの幼い子に声を当てるような気持ちでやってほしい』と言われたので、どうすれば幼く見えるのかを考えながらやっていきました」。

■「実写版とアニメ版はまったく別物だと聞いたので、脚本と映像に沿って声を当てました」(中川)

2人は実写版の恒夫とジョゼをどのくらい意識したのだろうか。中川は「作品のタイトルはよく知っていましたが、どういうストーリーなのかという点は、今回、この映画に携わってから初めて知りました。実写版とアニメ版はまったく別物だと聞いたので、特に意識していないというか、僕は脚本といただいた映像素材に沿って、声を当てていきました」と言う。

清原は、実写版を観てからアフレコに臨んだという。「私は、マネージャーさんや知り合いの俳優さんから『ジョゼと虎と魚たち』という映画は本当にすばらしいから観たほうがいいと勧められていて。本作のオーディションを受ける前に、観ていたんです。確かに今回のアニメーション版は、実写版とまったく違いますし、ジョゼ像も1から10まですべて一緒ではないので、私も別物として考えてはいました」。

2人ともアニメのアフレコは経験済みだ。中川においては、映画『ソニック・ザ・ムービー』の日本語吹替版でも主人公の声を務め、同作のイベントで、ベテラン声優の山寺宏一からもお墨付きをもらっていた。ただ、『ジョゼと虎と魚たち』においては、少し勝手が違ったようだ。

「僕は、日本語吹替えとアニメのアフレコを合わせて4回目でしたが、作品によって求められるものは違うなと改めて実感しました。今回、声優ではない僕らに求められたのは、声優さんにしかできない技術ではなく、キャラクターを作りすぎないナチュラルさで、そこのラインを探っていきました。また、技術的なことで言えば、今回、水中でしゃべっている感じの台詞があったので、実際にマイクの前でシュノーケルを付けて話しました。初めてでしたが、おもしろかったです」。

清原は、女優デビューして間もないころに挑んだ劇場アニメ『台風のノルダ』(15)のアフレコ時を思い返しつつ、「全部、難しかったです」と告白。

「当時も声優さんの仕事については右も左も分からなくて、声優さんならではの技術を学ぶ場所もなく、どうしたらいいんだろうと思いながら収録しました。今回もとりあえず監督の話をちゃんと聞いて、それを表現できるようにしようと努めた感じです。また、私は大阪出身なので、関西弁についてのみ、自分の意見を言わせていただきました」。

■中川さんこそ、ストイックな方です」(清原)

俳優ではなく、声優として共演をしてみた感想を2人に聞いてみると、中川は清原に対して「ストイック」だと絶賛する。

ジョゼ役はとても難しいです。やろうと思えば、とことんキャラクターっぽくできるし、アニメらしい表現をした方がわかりやすいインパクトを生みだせますが、やりすぎると、画と声のギャップが生まれすぎてしまう。清原さんは、そこの絶妙なラインを狙ってやっているのが、すごいなと思いました。以前、共演させていただいた時から、ストイックだと思っていましたが、とにかく負けず嫌いなんだろうなと」。

清原は「え?そこ、出ていました?」とドギマギする。中川は笑いながら「彼女は妥協しないんです。僕もとことんやるタイプなので、そこはすごくわかります。収録は2人でずっとやっていましたが、ウエイトが大きいシーンは、何回も繰り返してやっていて、すごいなと思いました」と清原をリスペクトする。

清原は「違うんです。中川さんこそ、ストイックな方です」と恐縮し「柔軟な思考を持って表現する能力がすごく高い。自分の出番じゃない時は、ずっと中川さんがやっている背中を見ながら、『わあ、すごいな』と思っていました」と互いに称え合う。

さらに「中川さんは気遣いもすばらしく、常に『大丈夫ですか?』と声を掛けてくださいます。別の現場でご一緒した時も思いましたが、今回は朝から晩までずっと一緒に録っていたので、とてつもなく周りを見ている方だなと感心しました。今回は中川さんが引っ張っていってくれました」と言うと、中川は「なにをおっしゃいます」とおどけながら「ありがとうございます」とハニカミ笑顔を見せた。

2人で収録できたことも功を奏したようで、中川は「掛け合いが多いので、2人でやるに越したことはない。ありがたかったです」と言うと、清原も「恒夫とジョゼの距離感は、リアルな空気で感じないとわからなかったので、一緒に収録できて良かったです」とうなずいた。

最後に、本作から受け取ったメッセージについても聞いた。中川は「大人になると見えなくなってくるもの、見え方が変わってくるもの、忘れてしまうものを、ジョゼというキャラクターが見せてくれるような感覚がありました。普段は見落としがちな何気ない日常が描かれている点が、僕の好きなポイントでした」とコメント。

清原は、「アニメ映画版はまったく別物になっていました」と結末の違いに驚きつつ「恒夫とジョゼの距離感や、ほかのキャラクター像が、アニメならではの表現で描かれているのではないかと。その鮮やかさやきらめきなどが、どう仕上がってくるのか、とても楽しみです」と締めくくった。

取材・文/山崎伸子

『ジョゼと虎と魚たち』の声優を務めた中川大志と清原果耶/[c]2020 Seiko Tanabe/ KADOKAWA/ Josee Project