『機動戦士ガンダム』をはじめとしたガンダムシリーズにおいて、名艦長と名高い人物が、ブライト・ノアガンダムシリーズには欠かせないキャラクターだが、当たり前の話、主人公ではないので、スポットライトがなかなか当たらず、いわば縁の下の力持ち的な存在としてファンも認知していることと思う。

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 だが、とうとう、そんな彼にスポットライトの当たるときがきたのである。コミカライズという形ではあるものの、一冊丸っとブライトづくし。そのタイトルは『機動戦士ガンダムUC 虹にのれなかった男』(福井晴敏・葛木ヒヨン/角川書店)だ。シナリオは、『終戦のローレライ』『亡国のイージス』『人類資金』、そして『機動戦士ガンダムUC』の作者、福井晴敏が担当している。これが期待せずにいられるだろうか。いったいぜんたい、どのような内容になっているかとページをめくれば、いきなりブライトが連邦政府の高官に呼ばれて聴聞にかけられているところからスタートしているだと……。

 物語の時系列は『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の直後で、ブライトには国家騒乱罪の嫌疑がかけられているのだ。彼に容疑をかけるとは連邦政府の腐敗、ここに極まれりといったところ。ブライトは連邦政府の高官たちの質問を受けながら回想する。出会ってきたニュータイプの少年たちのこと、そして彼らと駆け抜けた戦乱の時間を……。そう、この作品には、初代ガンダム、Z、ZZ、逆襲のシャアといった数々の戦争の裏側でブライトが何を思っていたのかが描かれているのである。たとえば初代ガンダムでの名セリフ「親父にもぶたれたことないのに!」が生まれたシーンアムロ・レイを叩いた後にブライトは一喝する。「それが甘ったれなんだ! 殴られもせずに一人前になったやつがどこにいるか!」と。しかしその後彼は、廊下でひとり、壁を叩きながら「余裕がなかった 艦を守るのに必死で」と述懐する。そう、総人口の半分を失った一年戦争では、どこも常に人手不足。ブライト自身も軍に入ってわずか6カ月の、19才になる士官候補生にすぎなかったのだ。いわば“ひよっ子”である。それにも関わらず前線に駆り出され、果ては艦長という役職に就かされてしまう。ゆえに必死だったのだろう。艦のクルーだけでなく、視聴者にとっても頼れる存在に映っていた彼は、じつはというか、やはりというか、裏では苦悩するひとりの人間だったのである。

 『機動戦士Zガンダム』の主人公カミーユ・ビダンガンダムMk-IIにはじめて乗ったにも関わらず操縦してみせた彼は「アムロ・レイの再来」と称されていたのだが、ブライトはこうも思っていたという。「エキセントリックな少年」、そして「正直扱いあぐねていた」「深く関わるのを避けていた」と。そんな思いを抱いてしまったこと、そしてカミーユを大人として導いてやれなかった自分を恨んでいると、ブライトは思い返すのだ。あの衝撃的なラストシーンの裏側で、ブライトは自身の不甲斐なさを後悔していたのだ。

 そんなどん底まで落ち込んだ気持ちを救ってくれた人物がいた。それが『機動戦士ガンダムZZ』の主人公ジュドー・アーシタとその仲間たちである。たしかに、作品自体の雰囲気も『機動戦士Zガンダム』のシリアスなものとは一変し、『機動戦士ガンダムZZ』ではコミカルなものとなり、お茶目なブライトの姿が多々見られた。そのとき、ブライトジュドーとその仲間に対して「その明るさにはオレもずいぶんと助けられた…いや 振り回されたといったほうが正確か」と思っていたという。うん、やっぱり振り回されていたんだねブライト視聴者の目から見ても、それは明らかだったよ。しかも自覚していたんだね。

 そして、時は進み『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』において、ブライトは艦長という、クルーたちの父親役としての自分ではなく、本当の意味での父親である自分と向き合うことになる。彼の息子であるハサウェイ・ノア戦闘中に姿を消し、戦闘が終わった後に半壊したモビルスーツの中で発見されたのである。回収されたハサウェイは口を聞ける状態ではなかったらしく、それをブライトは「よほど怖い思いをしたのか」と捉えてしまう。クルーたちもそんなハサウェイに同情的で、一般人が軍のモビルスーツに乗り込むという犯罪行為を記録には残さなかった。しかし、視聴者は知っている。ハサウェイクェス・パラヤの戦場での邂逅を。そして、クェスを撃墜した味方、チェーン・アギに銃を向け、モビルスーツもろとも撃ち殺したことを。物語は冒頭のシーンへと巻き戻る。連邦政府の高官たちがブライトに提示した条件のひとつというのが、ハサウェイの処遇であった。そう、記録には残されていなかったのにも関わらず、バレていたのである。取引の条件として提示されるまで、そのことを失念していたブライトは「実の子の父親役も果たせなかった無能者だ」と苦々しげな表情を浮かべて思う。しかし、後の彼の選択でハサウェイは罪に問われることはなくなった。ブライトは父親としての役目を果たせたのだろうか。だが、その後の物語である『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』で起こる一連の出来事を見る限りでは、それもまた一時のものにすぎなかったということがわかり、読者を非情にやりきれない気分にさせてくれる。

 ブライトを、「左舷の弾幕が薄いのを怒る人」と認識しているのならばぜひ『機動戦士ガンダムUC 虹にのれなかった男』を読んでほしい。読後は、その哀愁漂う姿にメロメロになっているはずだ。

文=オンダヒロ

『機動戦士ガンダムUC 虹にのれなかった男』(福井晴敏・葛木ヒヨン/角川書店)