国連食糧農業機関(FAO)は、大惨事の後に設立されました。75年後、その使命は、今回の新たな世界的惨事を受けて、全世界への重要性を一層増しています。

(C) FAO Giuseppe Carotenuto
昨年、国連食糧農業機関(FAO)の事務局長に就任したとき、私は自分の感情の窮まりを抑え込むことがほとんどできませんでした。FAOの設立は国際連合設立に、ほんの数日先んじています。中国の小農家出身の私が、そのような由緒ある機関を率いるようになるとは、畏敬の念すら抱かせるほどでした。

けれども、私が全く予想していなかったのは、就任後ほぼ時を置かずに、第二次世界大戦終結以来の大規模な挑戦に、世界が直面させられたことでした。新型コロナウイルス感染症COVID-19)のパンデミックは、人命と健康に大打撃を与えただけでなく、世界中の何億もの人々の暮らしを脅かしています。裕福な国に住む多くの人々にとって、食料安全保障というのは、最近まで自分達とはかけ離れた概念でしたが、それが突然世界中のニュースの見出しを独占し、数多くの世界的会合やイベントでの議題となってしまったのです。

まずは、FAOが設立された1945年当時に戻って考えてみましょう。第二次世界大戦では、犠牲者の3分の1が栄養不良とそれに関連する疾病で亡くなりました。飢饉は過去数十年にわたって人口を減らしていました。そんな中で各国が集まり、1945年10月16日にFAOが設立されました。その創設者達は、世界の再建を助け、農業を拡大させ、飢餓に永遠の終止符を打つ、という世界の願望を体現する新たな機関に投資したのです。

今日の危機は、見える限りにおいては世紀末的ではないかもしれません。しかし、その数値は私たちを愕然とさせます。新型コロナウイルス感染症が大流行する前でさえ、7億人近くの人々が栄養不足でした。パンデミックに関連して起こる経済的混乱は、さらに約1億3000万人を栄養不足に陥らす可能性があります。パンデミックの初期段階で、食料品棚が空になり、作物収穫の担い手がいなくなり、そして市場が沈黙してから、私たちは初めて、これらのサービスと食料を提供してくれている人々を当然のことと思っている、ということに気づかされました。安全に、持続的に、そしてすべての人の尊厳を守りつつ世界を養うという道徳的要請は、終戦後の時と同じくらいに、今まさに緊急なことなのです。

私がこの稿を草する間にも、1945年当時との類似性はここまでしか通じえないことは分かっています。当時、危機は生産における問題に過ぎませんでした。FAO創設後、最初の数年間は、主に農場における増産、収量増加、機械化と灌漑計画の支援に重点が置かれていました。その後の数十年で、このビジョンは非常に複雑化し、環境と持続可能性への懸念が一層深まりました。開発についてのより包括的な理解も含まれるようになりました。2010年代半ばまで、世界は飢餓削減において目覚ましい進歩を遂げていました。しかし、それ以降、飢餓の数値は再び上昇しています。紛争や異常な気象現象は、原因の一部となっています。

私たちに今必要なのは、食料を必要とする人々に届け、ある人々には改善するための、賢明で体系的な行動です。効率的なサプライチェーンの欠如から生じる、畑での作物の腐敗を防ぐ行動。収穫への脅威を予測し、農作物への保険を自動的に発動し、気候的リスクを削減するために、デジタル化と人工知能の活用を強化するための行動。絶え間ない侵食から生物多様性を救うための行動。都市を明日の農場に変える行動。健康的な食生活をより身近なものにするための政府による政策実施行動。私たちが行っているような、イノベーションの力を十二分に活用するために研究機関と民間セクターの連携を促し、いわばシンクタンク(考える機関)とアクションタンク(行動する機関)を結びつける行動。

したがって、75周年を迎えるFAOですが、日没に向かって去っていくという考えはほど遠いものです。私たちは空想にふけってもいません。新型コロナウイルス感染症は、私たちの使命が、1945年私たちの創設者がFAOを創り上げたときと同じくらい重要性があることを明らかにしています。このような大変動は、刷新に拍車をかけます。パンデミックは、食料安全保障と栄養バランスの整った食事が、すべての人にとって重要であることを、私たち皆に思い起こさせてくれました。

これが、FAOが今日、目的意識も新たにして次の章に進み出している理由です。組織構造の面では、よりフラットなリーダーシップ構造とモジュール式のアプローチで、危機が発生したときのより迅速な対応を可能にします。包括的な「COVID-19対応・回復プログラム」は、パンデミックの社会経済的影響に積極的かつ持続的に対処し、緊急性を緩和すると同時に、フードシステムと生計の長期的なレジリエンスを強化します。私たちの「ハンド・イン・ハンド」イニシアチブは、そのマッチメイキングを通して貧困と飢餓の割合が最も高い国々で、農業の変革と持続可能な農村開発を加速させます。これは、すでに膨大な量の食料安全保障関連データを集約しているオープンソースの公共財として設計された地理空間情報プラットフォームによって支えられています。チーフ・サイエンティストの新設は、知識の生成を研ぎ澄まし、持続可能な開発目標(SDGs)に向けた科学分野でのパートナーシップを推進するためです。このように、新たに改革されたFAOは、より包括的で効率的かつダイナミックであり、私たちが「より良い4つ」と定めたもの、つまり、より良い生産、より良い栄養、より良い環境、より良い生活に、焦点を当てています。

未来は、私たち自身、パートナー、そして市民社会による意思表示から成り立つもの、と強く信じています。 ゼロハンガーを達成するには膨大な数が必要です。そうです、私たち全員が関わらなければならないのです。

国連食糧農業機関(FAO)事務局長 屈冬玉
http://www.fao.org/japan/about-fao/organization/director-general/en/

配信元企業:国際連合食糧農業機関(FAO) 駐日連絡事務所

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