2015年8月に乃木坂46の妹分として結成され、2016年4月の1stシングル「サイレントマジョリティー」で鮮烈なデビューを飾った欅坂46が、2020年10月13日(火)に無観客の代々木第一体育館にて、“欅坂”としてのラストライブを行った。

5年間の活動にピリオドを打つ最後のライブというと、“メンバー大号泣”という絵を想像しがちだが、実際はそうではなかったように感じた。新しいグループ名となって生まれ変わることを発表した7月のオンラインライブ「KEYAKIZAKA46 Live Online, but with YOU !」の方が不安や葛藤、恐れや不満など、割り切れない思いが混在した複雑な心境でいたと思う。改名発表から3ヵ月後の本公演は、過去に引きずられるよりも、未来に目を向けているメンバーの方が多かったのではないか。もしくは、「エキセントリック」や「不協和音」、「大人は信じてくれない」や「黒い羊」といった純粋さ故の痛々しい心が激情といった形で放出される、“欅坂”らしい楽曲をパフォーマンスした前日(10月12日)の公演で振り切れたのかもしれない。すべては想像でしかないが、実に楽しそうに見えた。思い切りパフォーマンスすること自体に集中し、喜びを感じているように見えたのだ。もちろん、涙を流しているメンバーもいたが、後悔や悲しみを振り切って、前に進んでいくんだという強さが伝わってくるライブだった。

21人のメンバーは、ツタが絡まった豪奢な鉄門を開けてフロアの後方から登場し、メインステージへと真っ直ぐに歩みを進めた。小林由依のっけから「ラストー! ブチ上がれー!!」と画面越しの観客を鼓舞。<渋谷で生まれ変われ!>と歌うタオル回し曲「危なっかしい計画」を笑顔で賑やかに歌い、踊り、騒ぎ、2期生のムードメイカー、松田里奈の音頭に合わせて、全員で「欅坂46が大好き!」と声をあげた。「手を繋いで帰ろうか」では、キャプテンの菅井友香と副キャプテンの守屋 茜がフロアの床に線が引かれた抽象的な街のセットをカートなどを使って縦横無尽に走り回り、喧嘩と追いかけっこをチャーミングに演じた。グループからの卒業を発表している佐藤詩織の目には涙が浮かんでいたが、この2曲から伝わってきたのは、笑顔と楽しさだった。

一期生と二期生がペアを組んだ「二人セゾン」ではセンターを務めた小池美波がしなやかで力強いソロダンスを披露。ドキュメント映画を通して、彼女がこの曲を一人で踊ることに不安を感じていたことを知っていたこともあってか、どこか肝が据わった表情に見えた。チャット欄でも彼女の変化に触れる方が多かったが、彼女は再出発という転機をプラスに変えられる人だと確信した瞬間でもあった。菅井が「ひらがなけやきのメンバーと一緒に歌い始めた曲です。二期生、新二期生も加えて、みんなで届けたいと思います」と涙を浮かべ語った「太陽は見上げる人を選ばない」では、田村保乃の涙も映し出されるなか、新二期生の6名が大きな円に加わり、総勢27名で坂道マークを作った。

進路の悩みをテーマにした「制服と太陽」では、学業のために一時活動を休止していた原田 葵を中心に、小池と森田ひかると3人で放課後の教室を思わせる風景を表現。グループをダンスで牽引してきた佐藤と齋藤冬優花はカメラに向かって2人でハートマークを作り、歌詞の通り、ステージ後方から全力疾走してきた守屋から土生瑞穂へ、松田から菅井へと愛を伝播させた「世界には愛しかない」では実に晴れやかな表情を見せながら、視聴者の心にも真っ直ぐにメッセージを届けてくれた。

ここからは、ファンからは「幻の9thシングルに収録される予定だったカップリング曲」と呼ばれ、欅坂46最後のベストアルバム『永遠より長い一瞬 ~あの頃、確かに存在した私たち~』の初回仕様限定盤に収録されていた未発表曲のコーナーへ。尾関梨香、小池、齋藤、松平璃子、山崎 天の5人によるダンスポップ「コンセントレーション」は無機質で近未来的な空間の中で踊ると、小池のウィンクも飛び出した。このまま立ち止まらずに歩き続けるんだという決意を込めたアンセム「Deadline」は渡邉理佐をセンターに、菅井、守屋、田村、松田という5人で高揚感たっぷりのドラマチックに披露。2期生9人が外向きで円陣を組み、手を繋ぎ、森田と田村の二人で歌い始めた「10月のプールに飛び込んだ」では、フロアに噴水が吹き上がる中で森田が一人でダンスを繰り広げると、藤吉夏鈴を皮切りに1期生も一人一人その輪に加わっていき、最後は田村も参加し、全員で“欅坂”らしい水しぶきをあげてみせた。そして、会場中にスモークが焚かれる中で「砂塵」では、蜃気楼ではなく、はっきりと未来が見えてきたと高らかに歌い上げた。
※「山崎 天」の「崎」は、たつさきが正式表記

光の噴水ショウを挟み、いよいよ終盤へと向かう。ファンキーなニューディスコ「風に吹かれても」では冒頭で枯れ葉を飛ばした小林のフライングがあり、ビートに合わせたカラフルな照明とレーザー光線が飛び交った「アンビバレント」では小池が不敵な笑みを浮かべて視聴者のハートを射抜くと、そんな彼女のパフォーマンスを目で追う森田の表情と楽しそうな齋藤の笑顔が映し出された。

小林が一人赤いジャケットを羽織った「ガラスを割れ!」では炎が立ち上がる中で、全身黒づくめでキャップを被った集団との激しいバトルを展開。「危なっかしい計画」「手を繋いで帰ろうか」とは正反対の表現ではあるが、社会や大人に対する苛立ちや怒りの表出の方ばかりがクローズアップされてきたが、この多面性、この幅の広さこそが“欅坂”なのだ。守屋を中心に全員で手を繋いで歌ったラストシングル「誰がその鐘を鳴らすのか?」、そして、“欅坂”としてのラストナンバーとなるデビュー曲「サイレントマジョリティー」を歌う前に菅井は感極まりながら、涙ながらにこう語った。

「改めて、今、欅坂で良かったなと思ってます。この5年間でいつの間にか当たり前の存在になっていて、人生の一部となっていた欅坂46と本当についにお別れすることになるんだなって思ってます。永遠ってないのかなって改めて思って。でもだからこそ、欅坂がいかにかけがえのない存在だったか、このチームの皆さん、応援してくださる皆さん、そしてメンバーのみんながどれだけ大切だったのかなていうのを改めて感じています」
「欅坂がなくなっても、皆さんの心の中で、楽曲や作品が生き続けてくれたら嬉しいです。どんなときも、キラキラの緑のペンライトで道を作ってくださり、ありがとうございました。そして、欅坂に出会ってくださって、応援してくださって、本当にありがとうございました

深々とお辞儀をし、「5年間、支えてくださったすべての皆さまに、応援してくださった皆様に、感謝の気持ちを込めて、精一杯届けたいと思います。私たち欅坂46はこの曲で幕を閉じます」と語ったあと、菅井の顔は一変した。この転換だ。一気に楽曲の世界へと引き込んでいく吸引力に衝撃を受けたことを再確認した思いがした。フロアにはMVを再現したかのように工事現場が組まれ、ステージ上のスクリーンにはかつての渋谷の風景が映し出されていた。しかし、5年前の渋谷はもうどこにもない。渋谷PARCOは再開し、渋谷ストリーム渋谷スクランブルスクエアが開業し、銀座線を始めとした駅校舎もリニューアルされ、宮下公園の再整備も終わった。若者の街・渋谷は「オトナの街」へと変貌を遂げている。

ライブは菅井の「欅坂46が大好きです。皆さんとの5年間は宝物です。本当にありがとうございました」という感謝の言葉で締め括られたが、場内が暗転してから約5分後、スクリーンに「櫻坂46」という文字が映し出されると、真っ白な衣装に身を包んだ14人のメンバーが登場。森田ひかるをセンターに1stシングル「Nobody’s fault」を初披露した。ラテンビートクラップブラスがフィーチャーされた楽曲で、<いつのまにか大人になっちまったんだ>というフレーズが耳に残っている。まだ見ぬ社会や大人への不満や反抗を歌ってきた彼女たちは、大人のグループとしての新たな一歩を踏み出したのだ。

取材・文 / 永堀アツオ 撮影 / 上山陽介

◆「欅坂46 THE LAST LIVE」

10月12日セットリスト
SE:OVERTURE
M1:サイレントマジョリティー
M2:大人は信じてくれない
M3:エキセントリック
M4:語るなら未来を…
M5:月曜日の朝、スカートを切られた
M6:Student Dance
M7:カレイドスコープ
M8:渋谷川
M9:I’m out
M10:Nobody
M11:東京タワーはどこから見える?
M12:避雷針
M13:不協和音
M14:キミガイナイ
M15:君をもう探さない
M16:もう森へ帰ろうか?
M17:黒い羊
ENDING

10月13日セットリスト
SE:OVERTURE
M1:危なっかしい計画
M2:手を繋いで帰ろうか
M3:二人セゾン
M4:太陽は見上げる人を選ばない
M5:制服と太陽
M6:世界には愛しかない
M7:コンセントレーション
M8:Deadline
M9:10月のプールに飛び込んだ
M10:砂塵
M11:風に吹かれても
M12:アンビバレン
M13:ガラスを割れ!
M14:誰がその鐘を鳴らすのか?
M15:サイレントマジョリティー
ENDING
M16: Nobody’s fault(櫻坂46 新曲)

欅坂46 「THE LAST LIVE」レポート。これは、終わりではなく、はじまり。は、WHAT's IN? tokyoへ。
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掲載:M-ON! Press