対話集会で散々な目に遭ったトランプ氏
米大統領選挙は、両候補が同時刻に別の場所で異なる地上局ABCテレビとNBCテレビが主催するタウンミーティング(対話集会)にそれぞれ参加する異例の展開となった。
10月15日に予定されていた第2回テレビ討論会が新型コロナウイルス禍を受けて「バーチャル討論会」になったことに反発して、トランプ大統領が拒絶。
ABCはジョー・バイデン民主党候補を予定していたペンシルベニア州での対話集会に参加を要請。
NBC最高幹部は局内の反発を押し切ってフロリダ州で行う対話集会にトランプ大統領を急遽招いた。
しかもABCが中継時刻をずらすよう打診したが、これも拒否。
視聴率競争ではトランプ氏のNBCが当然勝つかと思いきや、放映直後の世論調査ではバイデン氏のABCが勝ってしまった。視聴者はもはやトランプ氏の毒舌には辟易してしまったのかもしれない。
放映前はNBCに軍配が上がると予想されていたのだが、司会をしたNBCベテラン記者、サバンナ・ギャサリー氏はトランプ氏にタフな質問を次々とぶつけて、結果的にはパンデミックへの対応のまずさを露呈させてしまった。
10月14日には、メラニア夫人が自分だけではなく、一人息子のバロン君(14)もコロナで陽性反応を示していた事実を明らかにした。
トランプ大統領夫妻が感染したのと同時期にバロン君の陽性が判明したそうだ。その後のテストで陰性が確認されたとも付け加えている。
メラニア夫人は、発表したステートメントでこうも述べている。
「彼は丈夫な10代の少年で、症状は見られなかった。家族3人が同時に感染したことで、互いの面倒を見たり一緒に時間を過ごしたりすることができて、ある意味で良かった」
トランプ大統領も10月14日に開かれた選挙集会で息子の感染についてこう触れた。
「息子は元気にしている。彼は若くて免疫機能も強く、感染している自覚すらなかったのではないか。子供たちは学校に戻るべきだ」
カリフォルニア州はじめ多くの州では、新型コロナウイルスの影響で小中高校が休校している。トランプ氏はことあるごとに学校を再開させるべきだ主張してきた。それをここでも主張した。
わが町に「Trump/Pence」のサインなし
筆者の隣人の元高校教師のL氏はこう吐き捨てるように言った。
「親子3人、揃って感染しても億万長者で大統領家族は地球上で最良の薬を飲み、治療を受けた。その一方でコロナに感染しても医者にすら診てもらえない何万、何十万の米市民がいることをどう考えているのか」
「20万人が死んでいるのに、『家族が面倒を見あった、一緒に時間を過ごせた』だと。ふざけるな、と言いたいね」
「このコメントを聞いただけでも、彼らは一般大衆のことはこれっぽちも考えていないことがよく分かるね。sympathy(思いやり)というものがない」
選挙が近づくと、全米各地の家々のフロントヤードには大統領・副大統領候補の名前が書かれたサインボードが立てられる。
筆者の住むロサンゼルス近郊のアッパーミドル居住区では「Trump/Pence」のサインはゼロだ。
前述のL氏は「トランプ氏に票を入れる有権者もサインはさすがに立てないだろうな。恥ずかしくて・・・」と「解説」してくれた。
中西部や南部の非都市圏に住む白人中産居住区では「Trump/Pence」のサインが乱立しているのだろうか。
バイデン氏、あと38人で過半数獲得
なぜ「病み上がり」のトランプ氏は激戦州遊説を続けるのか。すでに明らかになっているデータに愕然としているからだ。
まず世論調査での支持率ではバイデン氏が51.2%とトランプ氏(42.3%)を8.9ポイント、リードしている。
米大統領選ではいくら一般投票の獲得数で優っていても勝てない。各州に配分された「選挙人」数538人の半数270人を取らねば大統領にはなれない。
現在、その「選挙人数」ではバイデン氏が「優勢」「やや優勢」を合わせると222人。
これに対して、トランプ氏は115人。トランプ氏が勝つにはあと165人の「選挙人」が必要だ。
ところが「選挙人」数で比較的大口のフロリダ州(29人)でも支持率ではバイデン氏に6.4ポイント、ペンシルベニア州(20人)でも7.8ポイントリードされている。
これではトランプ氏もパニックにならざるを得ない。
最高裁判事は「トランプの置土産」?
トランプ氏のコロナ感染を「オクトーバーサプライズ第1波」とすれば、第2波は起こるのか。
ワシントンの選挙戦略家G氏は、起こるとすれば「10月22日だ」と断定する。
「この日、2つのことがある」
「一つは、米上院司法委員会が、トランプ大統領によって連邦最高裁判事に指名された保守派エイミー・バレット高裁判事の承認採決をすること」
「与党共和党が多数派を握る上院本会議の採決で、10月中に最終承認される見通しだ」
「バレット氏は、保守派とリベラル派で主張が分かれる人工妊娠中絶や同性婚をめぐっては、明確な見解を表明しなかった」
「トランプ氏が主張する大統領自身への恩赦の可否についても『態度を決めていない』と述べた。年内に就任することを狙った戦術だ」
「バレット氏は、リベラル派のルース・ベイダー・ギンズバーグ判事の死去を受けて指名された。最高裁判事は終身制で、バレット氏が最終承認されれば、定員9人の判事のうち6人を保守派が占め、今後の最高裁判断が長期間にわたり保守派に傾くことになる」
「これはたとえ再選されなくとも保守派にとってはトランプ氏の『大きな置き土産』になる。トランプ氏は『勝利宣言』をするだろう」
「逃げていた保守票が若干戻ってくるかもしれない」
15人の権威がワクチン使用可否を判定
G氏はさらに続ける。
「この日は、トランプ政権が100億ドルを投じて策定したワクチン開発国家戦略、『オペレーション・ワープ・スピード』(Operation Warp Speed=OWP)の期限切れの日だ」
「この国家プロジェクトは、かつての「マンハッタン計画」(原子爆弾開発計画)にも匹敵すると言われる」
「OWPには、厚生省傘下のCDC、FDA、国立衛生研究所(HID)、国立生物医学高等研究開発研究機構 (BARDA)、これに国防総省が参加。むろん、薬品会社、医療機関など民間薬品公衆衛生関連企業が総動員している」
「コロナウイルス診断、治療薬、ワクチンの開発、製造、患者への投与、配布手段まで“超音速で”見つけ出し、2021年1月末までに3億回分の接種量のワクチンを確保することを目指している」
「このプロジェクトでは、アストラゼネカ社とオックスフォード大学のワクチン開発に12億ドル、モデルナ社には4億8300億ドル、ジョンソン&ジョンソン社には4億5600万ドルが提供されている」
「トランプ氏が『ワクチンが3週ないし4週間以内に完成する可能性がある』と豪語しているのはこのOWPを念頭に入れての希望的観測だった」
「だが、トランプ政権内部にも懐疑的な見方が根強い」
「米疾病対策センター(CDC)のロバート・レッドフィールド所長などはこの日までにワクチンが開発されるかどうかには終始慎重な発言をしている」
「HIV感受性株に対する活性が期待されて開発されたヒドロシクロロキンが重篤症状や生命を脅かす副作用を起こす事例が出ているからだ」
「新薬の接種許可権限を持っているFDAの生物製剤査定調査センター長のピーター・マークス博士は『万一、的確なデータのないままに新ワクチンの接種許可を求めらるような場合には職を辞する』とまで言っている」
(なお治療薬として日本で特例承認されている抗ウイルス薬のレムデシビルについて、世界保健機関=WHOは、国際的な臨床試験を行った結果、入院患者の死亡率の改善などには「ほとんど効果が認められないか、全く効果が認められなかったようだ」とする暫定的な結果を発表している)
Y博士は続ける。
「FDAが許可する前にワクチン使用の是非を決めるのが2019年12月31日に設置(2年間の時限期間)された『バイオロジカル・プロダクツ・アドバイザリー・コミティー』(Biological Products Advisory Committee=BPAC、生物由来物資に関する諮問委員会)だ。これが22日に開かれる」
「この会議の統括閣僚はアレックス・アザー厚生長官とマーク・エスパー国防長官、15人の医療・公衆衛生分野の権威15人からなる委員会で、新たに開発されたワクチンの効力、安全性、投薬方法などについて議論し、その結果をFDAに勧告する」
この会議でワクチン使用にゴーサインが出れば、トランプ大統領の「大勝利」だ。
大統領選の劣勢を一挙に覆すかもしれない。
ゴーサインが出なければ、トランプ再選の可能性はは限りなくゼロに近づく。
その日が3日後に迫っている。
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