―[インテリジェンス人生相談]―


 “外務省のラスプーチン”と呼ばれた諜報のプロ・佐藤優が、その経験をもとに、読者の悩みに答える!

デジタル化が遅れている日本を、どう変えたらいいのか?

★相談者★ 柚子胡椒(ペンネーム) 会社員 男性 56歳

 経済協力開発機構(OECD)によると、加盟37か国の中でも、日本は職場のデジタル化が遅れている国であるといいます。新型コロナウイルスの感染予防策としてのICT活用の進展を機に、この状況を抜本的に変えるにはどうしたらいいでしょうか、佐藤さん教えてください。

佐藤優の回答

 これまで日本のデジタル化は遅れていました。これが新型コロナウイルスによる混乱に直面して大きく変わろうとしています。菅義偉首相のブレーンの一人である竹中平蔵氏はこう述べています。

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 デジタル資本主義の時代に向けて、まず行うべきは日本が遅れている医療、教育、公的部門におけるデジタル化です。(中略)遠隔診療は、二〇一五年に閣議決定されています。にもかかわらず、この五年でほとんど進んでいません。その結果、今回のパンデミックでは、医療現場は大きく疲弊・混乱し、医療崩壊すら招きかねない事態となりました。新型コロナウイルス感染者であれ別の病気の患者であれ、軽症者は遠隔診療が当たり前になっていれば、そうした事態は防げたはずです。遠隔診療でよく言われるのが、「フェイス・トゥ・フェイス(対面)でないと安心が保たれない」というものです。

 しかしテクノロジーの進化により、今では画面越しの診察でも顔色をはじめ、かなりのことが正確にわかります。実際に触らなくても、触っているような感覚を得ることさえ可能です。(中略)教育もそうです。今、教師の事務負担が大きく、授業の準備にまで手が回らないといった問題があります。これに対し、学校の事務業務の中には、デジタル化で解決できる部分もたくさんあります。授業にしても、定型化できるものは、全部動画配信にすれば、教師は同じ授業を、いろいろな生徒に何度もする必要がなくなります。(『ポストコロナの「日本改造計画」136137頁)
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 菅首相は、新政権の目玉として、デジタル庁の創設を掲げました。今後、医療、教育、行政の分野でデジタル化が急速に進んでいくと思います。しかし、その結果もたらされるのは、いいことばかりではありません。私は京都の同志社大学同志社女子大学で、今年の春学期はリモートで授業を行いました。教育にデジタルを導入すると、できる学生とそうでない学生の格差が拡大します。

 基礎学力に欠損がある学生ほどアクティブラーニングのまねごとのようなことをしたがります。基礎知識を欠いていても、パフォーマンスでごまかせると思っているのでしょう。顔を突き合わせていると、学生のこういったパフォーマンスに騙されることがありますが、デジタルですと課題を与えて、結果を文章で求めることが多いので、パフォーマンスが通用しにくくなります。

 教育においても医療においても、対面でないと伝えられない事柄があります。デジタル化が進むとアナログな人間的接触の価値が高まります。その結果、「デジタル+対面」の機会に恵まれている人が社会の上層部を、もっぱらデジタルだけを使う人が中堅、デジタルを使うことができない人が下層を占めるということになります。デジタルの普及によって日本の格差は一層拡大します。

★今週の教訓……デジタルの普及で、格差は一層拡大します

佐藤優
’60年生まれ。’85年に同志社大学大学院神学研究科を修了し、外務省入省。在英、在ロ大使館に勤務後、本省国際情報局分析第一課で主任分析官として活躍。’02年に背任容疑で逮捕。『国家の罠』『「ズルさ」のすすめ』『人生の極意』など著書多数

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