美容医療はここ数年でぐっと身近になり、美容整形で顔のコンプレックスを克服したと公言する人は、リアルでもネットでも珍しくなくなりました。



写真はイメージです(以下同じ)



 でも、気軽になったのは、あくまでメスを使わない“プチ整形”の話。
 骨を削るような整形手術が必要となると、やっぱりなかなか踏み出すのは難しく、コンプレックスの渦に飲まれてしまう人もいます。本人にとって、容姿のコンプレックスはとても重たいもの。時にはその重さに耐えかねて、命を危険にさらしてしまう人までいるようです。


ギャルだった高校時代までは平和だった
 地方で事務員として働く松田あやかさん(仮名・29歳)も、コンプレックスを抱える女性の一人。彼女がそのコンプレックスをはっきり自覚したのは大学生になってからでした。


ヤンキー文化の強い地域に生まれて、高校時代まではギャル的なカッコをしていたので、半自動的にスクールカーストの上位にいました。だから、自分の弱みになるようなことと向き合わずに済んだんだと思います。


 自分のコンプレックスが気になるようになったのは、大学生になってからでした。好きになったサークルの先輩に告白して振られた時、陰口を叩かれるようになったんです……『アゴ女』って


◆自分のアゴが大嫌い、だけどどうしようもない



松田さん(仮名)。十分お美しいのに……



「面長で、横から見ると三日月のような形で前へ出たアゴ。このしゃくれアゴは、私の人生を黒く塗りつぶしていきました。一度悪口を言われてからは、全てのことがこのアゴのせいで上手くいかないと思うようになりました。どれだけメイクを頑張っても、ダイエットをしても、絶対消えてくれません。彼氏ができないのも、自分が憧れるようなメイクが似合わないのもこのアゴのせい。


 美容整形外科に相談に行ったこともありましたが、上顎と下顎、両方に骨切りの手術と歯列矯正が必要で、費用は数百万、ダウンタイムも3ヶ月~半年ほどかかると言われ、ずっと二の足を踏んでいます。二重整形の手術くらいだったら、数万円で済むのに」


 顔のコンプレックスとしては、目もとのコンプレックスも輪郭のコンプレックスもよく聞くものではありますが、手術の規模となると大違い。入院生活も長い輪郭関係の手術は、いくら美容整形が一般化してきたとはいえ、気軽にできるというものでもありません。


二次元にのめり込みコスプレの世界で認められるように
「自分の顔が嫌いで仕方なかった私は、どんどん二次元オタクの世界にのめり込んでいくようになりました。ネットで友だちを作って、現実の恋愛に自信が持てない分、推しのキャラクターと疑似恋愛して。そんな時に出会ったのが、コスプレだったんです」



※写真はイメージです



 SNSで仲良くなった人たちの影響で、自己満足の範囲で始めたつもりだったというコスプレでしたが――。


「でも、好きなキャラクターの衣装をまとった時の、自分ではない何者かになれたあの感じにあこがれて、SNSにも写真をアップし始めました。写真だけなら分からないだろうと、コンプレックスだったアゴは画像加工で消しました
 すると、徐々にいろいろな人からコメントが来るようになって……カワイイ、似合うと褒めてくれる人がいて。コスプレを始めて、自分のことを少しだけ好きになれたような気がしました」


◆大型のコスプレイベントリアルで参加
 好きなキャラのウィッグをかぶって衣装を着たら、自分ではない何かになれる。社会人コスプレイヤーとして趣味でコスプレを楽しむ人達は、そんなひとときの「非現実感」を味わうために、週末だけ活動をする人が多いのだといいます。



「しばらくは、宅コス(自宅でコスプレ)して写真をSNSアップするだけで満足していました。でも、少人数だけど私のコスプレファンだと言ってくれるような人も現れるようになって、コスプレを始めて2年ほどたった時に、とある大型コスプレイベントリアルで参加してみることにしたんです。
 自分に自信がない私がリアルイベントに参加できたのは、自分のフォロワーさんたちがとても温かかったから。日々お褒めのコメントを頂いて、調子に乗っていたんだと思います。でも、実際参加したのはその1回きり。もうずっとリアルイベントには参加していません」


◆「詐欺」「期待はずれ」と言われて……
 その日はSNSでも告知してイベントに参加したので、ネットでの知り合いもたくさん会いに来てくれました。


「でも、囲んで写真を撮る人の中に、小首をかしげながら小さな声で『詐欺乙すぎる』『期待はずれだったわ』などと吐き捨てていなくなる人たちがいて……。その後すぐSNSブロックされた人もいたし、後々になってコスプレ系の掲示板で無加工写真を晒されたりもしてしまって。なんて冷たい現実なんだろうって絶望しました



 SNSには自撮りコスプレアップする界隈がありますが、それを叩くためにあえて見にいくような人もいます。そんな好奇の目に晒されて、一度はコスプレをやめようかと思ったこともあったそうです。


「知り合いに晒されたことがトラウマで、一度はアカウントを消しました。でも、ネットでばかり生きてきたから、一人でいるのは寂しくて、また宅コスのアカウントを始めて」


◆わざとアゴを骨折しようと、ビルから飛び降りたことも
ネットで晒されてからはまた、整形手術を考えるようになったけど……やっぱり田舎のOLに出せる額じゃないし、親になんて説明すればいいかも分からない。一度は悩みに悩んで、アゴを骨折したりしたら、整形手術が保険適応になるんじゃないかと思って、ビルから飛び降りてみたこともありました。結局その時は、脚を骨折しただけ。


 叩いたら折れたり、凹んだりしないかなと思って、今でも毎日寝る前に20回くらいアゴを殴ります。まだ私のアゴは長いままだし、コロナがあってもなくても、私は人前では一生マスクが取れません


 1日20回、1年で7300回も自分のアゴを殴り続けているという松田さん。彼女はこのまま一生、自分のコンプレックスに飲まれたままなのでしょうか――。


私のコンプレックス


<取材・文/ミクニシオリ イラスト/とあるアラ子>


【ミクニシオリ】1992年生まれ・フリーライター週刊誌を中心にアングラな性情報、最新出会い事情など寄稿。逆ナンや港区合コンなどの現場にも乗り込む。自身の経験人数活かしtwitterWEBラジオairuca」でフォロワーの恋愛相談にも回答。カルチャーにも素養がある生粋のサブカル女子。@oohrin