月は強力な磁場で地球の生命を守っていた可能性

月は強力な磁場で地球の生命を守っていた可能性 / Pixabay

 1959年1月4日、ソ連の月探査機「ルナ1号」によって、史上初めて月の磁場が計測された。こうして月の磁場は地球のわずか10000分の1とごく微弱なものであることが判明した。

 しかし、その後にアポロ12号が持ち帰った月の岩石の研究からは、じつは月にはかつて強力な磁場が存在していたらしいことが明らかになっている。

 『Science Advances』(10月14日付)に掲載された研究によれば、地球上に誕生した生命は、40億年前はその月の磁場によって守られていたのかもしれないそうだ。

 「月には分厚いバリアがあり、それが太陽風から地球を守ってくれたおかげで、地球は大気を維持できたようです」と、主執筆者のジェームズ・グリーン氏はNASAのブログで語っている。

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生命を守る磁場の存在

 地球をおおう磁場は、太陽風(太陽が放出する放射線)から大気を守るバリアとして作用しており、ありとあらゆる生物にとって欠かせないものだ。

 磁場は地球内部にある溶けた鉄が流れることで発生していると考えられている。液体の鉄をいつまでも動かし続けているのは、コアに溜まっている熱などのエネルギーだ。そのために、そうしたエネルギーが消えてしまえば、磁場も消えることになる。

 すると太陽風によって電荷を帯びた粒子を吹き付けられた地球では電場が発生する。これが電荷を帯びた原子を加速させるために、大気が吹き飛ばされてしまう。

 かつて月に存在した磁場が失われてしまったのは、月が地球よりも小さく、内部が速く冷えてしまったからだ。結果、そこにあった大気も失われた。また同じことが現在、火星で起きており、そのために火星からは酸素が失われ続けている。

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地球の現在の磁力線 image by:NASA

月の磁場が地球を守っていた可能性


 NASAをはじめとする研究グループは、およそ40億年前に地球と月の磁場が互いに影響を与えていた可能性を検証するために、当時の磁場の挙動をシミュレーションしてみることにした。

 すると月の磁場がバリアとなって、地球の大気を太陽風から守っていたらしいことが明らかとなったという。

 原始の地球に火星くらいの大きさの惑星が衝突し、これによって生じた破片が月になった。これは月の起源に関するもっとも有力な説で「ジャイアント・インパクト仮説」という(関連記事)。

 シミュレーションによれば、地球から誕生した月は、40億年前は今よりもずっと地球の近くにあり、そのために両者の極地の磁場はまだつがなっていたようだ。

 このことは地球の生命の進化にとって決定的に重要だった。月と地球の重なり合った磁場のおかげで、強烈な太陽風にさらされても地球の大気は吹き飛ばされずに済んだのだ。

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40億年前の月の磁場 image by:NASA

地球と月で物質の交換


 面白いことに、地球と月の磁気圏は物質をも交換していたと考えられるという。太陽の紫外線は地球大気に含まれる中性粒子から電子をはぎとり、そこに電荷を与えることで、月へといたる磁場のラインに沿って移動させていたようだ。

 このおかげで、当時の月は薄い大気を維持することができた。あり得ない話に思えるが、月の岩石から窒素が発見されていることからも(地球の大気は当時から主に窒素で構成されていた)、地球から月へと物質が送られていたという説はそれほど突飛なものではないという。

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数十年前の地球と月の磁場は重なり合っていた image by:NASA

そして今、丸裸となった月


 月の磁場は、かつて存在したかもしれない大気についてだけでなく、その内部の進化についても知る手がかりとなる。

 月と地球の磁場が重なり合っていたのは、41億~35億年前のことだと推測されている。このとき月の内部にはまだ鉄が液体と固体が混ざった状態で存在していた。40億年ほど前、おそらく月の磁場は地球よりも強かったようだ。

 しかし内部が冷えるにつれて磁場は徐々に衰え、32億年前にはほぼ消失。15億年前には完全に死に絶えてしまった。磁場がなければ、大気は太陽風に耐えられない。今私たちが目にしている月は、そうして丸裸になった姿であるようだ。

References:nasa / conversation/ written by hiroching / edited by parumo

全文をカラパイアで読む:
http://karapaia.com/archives/52295745.html
 

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