都農町に移住して半年、1万人のまちづくりで僕が今もっとも力を入れているのが、町で唯一となる中学校でのキャリア教育です。
今年度で県立の高校が閉校になることが決まっており、町から高校生がいなくなり、239人の中学生に、町の未来の担い手としての期待が高まります。
来年度から、僕も毎週協力させて頂く予定のキャリア教育プログラムについて、先生たちと協議を重ねていますが、今週は中学生たちに直接話をする機会として、年に一度のキャリア教育講演会を実施しました。
当日は、ワンウェイで難しい話にならないよう、講演の合間に、僕の会社の20代メンバーとリアルなまちづくりについてブレストする時間を加えました。
具体的には、事前に「中高生だけの居場所づくり」「町のホームページリニューアル」をテーマにアンケートをとり、集計結果をみながらグループで議論しました。
中高生だけの居場所でやりたいこと、1位は映画
当日、全員で議論したテーマの一つ、中高生が自由に使える居場所があったとしたら、何をやりたいか?
1位は映画(153票)、2位:ゲーム(124票)、3位:カラオケ(102票)、4位:ユーチューブ(100票)、5位:漫画(85票)
自由記述では、カフェやライブ会場の記載が目立ってました。
町のホームページで日常的に見たい情報、1位は占い
もう一つのテーマ、都農町のホームページにどのような情報、コンテンツが掲載されたら日常的に見るようになるか?
1位は占い(109票)、2位:流行しているもの(106票)、3位:天気予報(96票)、4位:○○診断(91票)、5位:受験対策(88票)
自分の町に戻って来たくなる動機づけ
人口減少、少子高齢化、若者流出が課題になる町では、中学生たちが自分の町に積極的に関わりたいと思えるかどうかが大事だと考えています。
一般的に、キャリア教育をすればするほど意識が高まり、進学や進路の選択肢が拡がり、結果的に町の外に出たくなるという矛盾は地方では不可避のこと。
本質的にはどこに住むか、どこで働くかは本人の自由です。
しかし、あえて理想を言うならば、町外流出を防止することではなく、若い頃から自分の町に積極的に関わり、当事者意識を持つことで、何年か経ってから、戻って来たくなるように動機づけすることではないでしょうか。
講演会では、伝えたいこととして、以下の5つを挙げました。
①仕事は楽しい!
②失敗はこわくない
③正解はない、あるのは可能性
④これからは地方の時代
⑤デジタルで世界とつながる
講演会が終わったその日の夕方に、担当の先生が中学生たち全員の感想文を持ってきて頂きました。
白紙に自由記述という形式ながら、ほぼ全員がびっちりと自分の言葉で書いていたことに手応えを感じるとともに内容を見て感動することばかりでした。
以下に、中学生の感想も抜粋して紹介します。
仕事は楽しい!
これは僕自身が一番伝えたいこととして強調しました。
楽しい仕事は少ないかもしれませんが、仕事の楽しみ方は無限大であること、まずもって、身近な大人が楽しんでいることを中学生たちに見せなければなりません。
来年度のキャリア教育では、オンラインを積極的に活用し、中学生たちが知らないような職種についていて、仕事を楽しんでいる大人たちをたくさん紹介していければと思っています。
(中学生からの感想抜粋)
「仕事の楽しさを知りました。決して楽な仕事はないと思っていたけど、自分の好きなことを仕事とすれば、仕事も楽しく感じることを知りました」
失敗は怖くない!
僕は30代と40代で2回、会社の倒産を体験しています。
中学生向けの話では生々しいかもしれませんが、成功体験より失敗体験の方が印象に残ることも多いと実感しており、いつも伝えることにしています。
仕事を楽しむためには、自分らしく、新しいこと、面白いことにチャレンジしていくことが不可欠ですが、失敗はつきもの。
失敗を恐れていては新しいことは実現しません。特に、これからの地方は、積極的にチャレンジをしていかないと存続すら危ういものと思います。
(中学生からの感想抜粋)
「ぼく自身、失敗がとても嫌いで、いつも完璧を求めて生活しています。でも失敗は怖くないという名言を聞き、考えが変わりました。これから先、失敗を恐れず、マイペースでいろいろな事に挑戦したいと思います」
「ぼくは、失敗を何回もして成功するということが分かりました。なので、ぼくもなんども失敗すると思うけど、今日話した七転び八起きという話を思い出したいと思いました。なので、とてもがんばりたいです」
正解はない、あるのは可能性
これも、今、都農町に限らず、全国の中学生たち、若者世代に声を大にして伝えたいことです。
今や先生も親も、地域の大人たちも、未来がどうなると明確に伝えられる人はいません。
当日、新型コロナウイルス感染の収束時期や、ポストコロナの時代、あるいは来年以降の台風被害や自然災害予測など、大人たちを含めて会場の全員に質問して、誰も正解が分からないことをみんなで確認しました。
●正解が分からないとして、あきらめて流れにまかせるのか?
●自分なりに考えて前を向いて進むか?
可能性という点で、最近、中学生の起業家が増えている実例も紹介したところ、中学生たちにはかなり刺激的だったようです。
(中学生からの感想抜粋)
「私は今日の授業を受けるまでは、今ある企業や仕事に就けばいいと思っていましたが、新しく起業を立ち上げることも大切なんだと学ぶことができました」
「どんな人でも会社を立ち上げることができたり、会社のトップになれる可能性があることに気づくことができました。自分だからできないんではなく自分だからできるんだという気持ちでどんなことでも挑戦し、最後までやり遂げたいです」
「将来は誰にも分からないということを改めて実感しました。なので、まだ将来の夢がない僕も、将来の夢が無いからこそ無限に道はひらけると思いました。新しい考えを持ってこれからの人生をがんばりたいです」
これからは地方の時代
新型コロナウイルス感染の影響で、地方に転職、移住したい若者が増えたり、東京の大企業がオフィスを地方に移転させたり、東京の転入超過のデータを紹介しました。
また、菅義偉首相が、就任会見で「地方活性化」「地方を元気にしたい」と述べていたことも伝えました。
何よりも当日、講演に参加した僕らの会社のメンバー7人が全員、この半年で東京や大阪から移住していることが一番分かりやすく伝わったようです。
(中学生からの感想抜粋)
「東京や大阪から自然の多い所で仕事をしたいと聞き、この都農町をとても誇りに思いました」
「私はまず、都農町に関東の方からたくさんの移住者がいることが知れてとても嬉しかったです!都農町には同じ宮崎県の人でも知らないイイ事!がたくさんあるので知ってほしいです」
デジタルで世界とつながる
都農町で進めるデジタル・フレンドリー計画。
今年度末までに、全世帯がインターネットに接続できる環境を整え、65歳以上と中学生以下の世帯、全世帯にタブレットが配布。
町のホームページを一新、自分のIDデータを入力すれば自分に関係のある内容がレコメンドされ必要な情報が入手しやすくなることを目指しています。
このような環境を活用できれば、都農町にいながら、東京に行かずとも全世界77億人とつながることが可能であることを伝えました。
(中学生からの感想抜粋)
「タブレットを各家庭にくばることなどを聞いてワクワクすることばかりでした」
「自由に個人の考えをデジタルを利用して世界に発信できることを知りました。町民として考えていきたいです」
自分もまちも可能性は無限
今回の講演会で改めて感じたことは、まちづくりの現状について、中学生たちとリアルに共有することの大切さです。
中学生たちの間でも、自分の町がなんにもない、住み続けても生活していけるのかという漠とした不安があります。
とはいえ、町がどう考えて、今何をしているのかということを知るすべが少ないというのが、これはどこの町にも共通していることではないでしょうか?
特に美辞麗句を述べたり、魅力的な戦略を出すことの前に、まず中学生も含めて、町の事実をしっかりと共有し、自由に意見を言い合い、町には自分たちのアイデアが反映される余白があると思えること、が第一歩なのではないかと思います。
上述の中高生の居場所について、講演当日の議論でも活発にアイデアが出ていて、全体共有の場で発表する際にもたくさんの挙手があり時間切れになったほどです。
事実の共有や双方向の自由な意見交換において、デジタルを活用できることは多いので、今後のまちづくりにおいて積極的にデジタルを通して発信、対話の促進をしていきます。
今回の講演はあくまでも来年度から始まるキャリア教育プログラムのキックオフ。
早速、中学生たちが帰り道に僕らのオフィスに立ち寄ってくれるようになりました。日常的に中学生たちと向き合いながら、町の将来を一緒に考えていきます。
これまでの記事一覧はこちら(https://jbpress.ismedia.jp/search?fulltext=%E4%B8%AD%E5%B7%9D%E6%95%AC%E6%96%87)
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