2019年の「桜を見る会」で乾杯をする安倍晋三前首相(最後列右から2人目)、菅義偉現首相(中列右から3人目)ら(時事通信社

◆「桜を見る会」疑惑の本質
―― 吉井さんは毎日新聞の「桜を見る会」取材班として、「桜を見る会」疑惑を追及してきました。この疑惑は安倍前首相だけでなく、当時官房長官だった菅首相も説明責任を果たさなければならない問題です。改めて「桜を見る会」疑惑の本質を教えてください。

吉井理記氏(以下、吉井)桜を見る会にはいくつもの問題点があります。一つは、公金の私物化という問題です。
 桜を見る会には安倍首相個人の支援者が多数招待されていました。菅官房長官(当時)は当初、「総理枠、政治枠といった特別なものはない」と否定していましたが、最終的に、2019年桜を見る会には首相推薦の招待者が約1000人、自民党推薦の招待者が約6000人いたことを認めました。実際にはさらに多くの招待者がいたのではないかと見られています。
 桜を見る会は国の公式行事であり、税金が使われています。税金は、言うまでもないことですが、国民全体の福祉や公益のために使わなければなりません。一国の首相が自分の支援者たちを接待するために税金を使うなど、決して許されないことです。

 これは民主主義の根幹に関わる問題です。民主主義は選挙を基本とします。選挙では、政党や候補者の主張を踏まえ、有権者たちが自由な意思に基づき投票を行うことが前提になっています。それゆえ、有権者に対する供応接待は、公職選挙法で厳しく禁じられているのです。そういう意味では、桜を見る会民主主義を歪めるものだったと言えます。

前夜祭、そして名簿破棄……
 もう一つの問題は、安倍首相の後援会が主催した桜を見る会の「前夜祭です。この前夜祭2013年から開催されており、2019年前夜祭ホテルニューオータニ東京で開かれました。参加者は800人以上に及び、その場には安倍首相夫妻も姿を見せています。
 政治家の後援会など政治団体パーティーを開く場合、政治資金収支報告書の収入欄にパーティー券代を記入し、支出欄に会場代や飲食代などの費用を記入しなければならないことになっています。しかし、安倍首相の関連政治団体の政治資金収支報告書には、2015年以降、前夜祭の収入・収支の記載が見当たりません。

 首相側の言い分は、次のようなものです。安倍事務所は参加者から一人5000円を集金し、ホテル名義の領収書をその場で手交し、受付終了後に集金したすべての現金をホテル側に渡して支払いを行うという形をとったため、安倍晋三後援会としての収入・支出は一切ない。それゆえ、政治資金収支報告書への記載は必要ない――。
 しかし、一般には、事務所側が参加者から会費を受け取った時点で収入が発生し、それらをとりまとめてホテル側に支払った時点で支出が発生するとされます。安倍事務所の対応は政治資金規正法に抵触している可能性があります。

 また、桜を見る会招待者名簿が消えた問題も見過ごせません。私はこの問題こそ最も深刻だと考えています。野党やメディアが招待者名簿を提示するように求めたところ、内閣府は紙の招待者名簿はシュレッダーにかけ、電子データは消去したと述べました。しかし、桜を見る会は基本的に毎年開催される行事です。官僚は前例主義、文書主義ですから、彼らが資料を捨てたとはとても思えません。

 公文書をめぐっては、共産党の宮本徹衆議院議員内閣府に招待者名簿を含む資料請求を行ったところ、その日のうちに招待者名簿が破棄されるということも起こっています。もし宮本議員の資料請求を知りながら公文書を破棄したとすれば、大問題です。
 公文書は予算や政府権力の公正な執行を証明し、国民への説明責任を果たすために欠かせないツールです。しかも、公文書は税金で作られているわけですから、政府の都合によって勝手に捨てたり削除したりしていいものではありません。公文書管理法では、公文書は民主主義の基本であり、将来・現在の国民に対する説明責任を果たすために必要だと規定されています。安倍内閣の対応は民主主義を蔑ろにする振る舞いだったと言わざるを得ません。

◆菅首相は説明責任を果たせ
―― 菅氏は官房長官のとき、桜を見る会への批判を受けて、招待基準の明確化や招待プロセスの透明化を検討すると述べていました。しかし、新政権発足後、桜を見る会の来年以降の開催を中止すると表明し、会自体が中止になった以上、会のあり方を検証する必要もなくなったという姿勢をとっています。

吉井: いかにも菅首相らしい対応です。菅首相は官房長官時代、記者会見「そのような指摘は当たらない」、「全く問題ない」といった紋切り型の表現を多用し、コミュニケーションを遮断していました。今回の対応もそれとそっくりです。

 菅首相はアメリカのパウエル元国務長官の著書『リーダーを目指す人の心得』(飛鳥新社)が愛読書だと言っています。菅氏はパウエル氏が「記者には質問する権利がある、私には答えない権利がある」と言っていたことが参考になったと明かしています。つまり、彼には最初から国民に向かってきちんと説明しようという気がないということです。

―― なぜ菅首相は頑なに桜を見る会の再検証を拒否するのでしょうか。

吉井: 招待者名簿が出てくるのを嫌がっているのだと思います。政府は名簿を捨てたと言っていますが、絶対に残っています。菅首相もそのことはわかっているはずです。しかし、一度名簿は残っていないと言ってしまった以上、それがあとから出てくると、政権にとって大きなダメージになります。それを避けたいというのが本音だと思います。

 それから、政治家としての資質の問題も関係していると思います。たとえば、菅首相が「政治の師」と呼ぶ梶山静六元官房長官は、お兄さんが戦死されたこともあり、二度と戦争を起こさないために政治家を志したと言っていました。これに対して、菅氏はなぜ政治家になったのか、動機づけがはっきりしません。

 一部では、菅首相が地方出身のたたき上げということもあり、田中角栄元首相と比較する見方もありますが、菅首相には田中元首相のような「東京に負けるか」といった情念は感じられません。現在の選挙区は横浜ですし、出身地の秋田にそれほど思い入れがあるようには見えません。菅首相は小此木彦三郎元通産大臣の秘書を務めていましたが、これも法政大学の学生のころに大学の学生課やOB会を通して紹介されたからで、どうしても小此木氏のもとで働きたかったから門を叩いたということではありません。

 結局のところ、菅首相は情報をうまくコントロールし、自分の権力を維持していくことにしか関心のない人なのだと思います。民主主義を守ることや、国民に対して説明責任を果たすといったことには、そもそも興味がないのでしょう。私はまだ菅首相の人物像をうまく組み立てられていませんが、彼が理想の国家像や社会像を持っているようには見えません。非常に異質な首相です。

民主主義を守るため、名簿を公開してほしい
―― 桜を見る会の問題は、政権が変わったからといって終わるものではありません。今後どのように追及していく予定ですか。

吉井: なんとか招待者名簿を手に入れたいと考えています。この問題は菅氏をはじめ、内閣官房の一部の人たちだけで対応していました。政府からすれば、その少人数の関係者たちだけしっかりコントロールすれば、情報漏洩を防ぐことができます。残念ながら現状では、政府の情報コントロールはうまくいっています。また、2014年に設置された内閣人事局がいよいよ軌道に乗ってきたため、情報統制が強まり、新しいネタを入手しづらい状況が生まれてしまっています。

 しかし、先ほども述べたように、官僚たちはUSBメモリーなども含め、必ず名簿を残しています。関係者たちには勇気をもって招待者名簿を提示してほしいと思います。そうすれば、まだ日本の統治機構は腐敗しきっていなかったと希望を持てます。招待者名簿に誰の名前が載っているかよりも、名簿が出てくるという事実そのものに意義があります。関係者たちには民主主義を守るためにも、ぜひ名簿を公開してもらいたいと思います。
10月2日、聞き手・構成 中村友哉)

<提供元/月刊日本11月号

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