K-POPを代表するBTS(防弾少年団)の所属するビックヒットエンターテインメントが韓国証券取引所に上場した。

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 初値の時価総額は8800億円となり、一時的に1兆円に膨らんだ。その後、株価は下落したものの、数千億円相当の時価総額があり、同時に900億円相当の資金を調達している。

 BTSについては、K-POPに詳しくない人でも、名前を聞いたことはあるはずだ。

 彼らは2013年にデビュー。韓国の大手芸能事務所であるJYPエンターテインメントからパン・シヒョクが独立しBTSをデビューさせている。

月間300万枚以上の売り上げを記録

 昨年リリースしたミニアルバムは月間で300万枚以上を売り上げ、凄まじい勢いである。

 元来アーティストビジネスは、CD(かつてはレコード)の販売がメインで、ライブはCDを売るための宣伝活動の一環であった。

 しかし、現在はライブ、コンサートグッズ、ファンクラブイベント、タイアップ、ゲームなどアーティストを中心に様々なビジネスが展開されている。

 そのため、CD販売以外の部分が収益の大半である。

 さらにここ10年で大きく変わったことは、インターネットとスマートフォンの出現で、ファンとアーティストが繋がったことである。

 かつては、事務所側はファンが誰なのかを十分に把握する術がファンクラブに限られていた。

 しかし、ここ数年でデジタル化が進み、従来紙ベースだったものがデジタル化され、ファンと直接繋がることが可能となった。

 ライブにおいても、電子チケットならば、実際の来場者のデータのみならず、申込者のデータを把握することが可能である。

 ファンクラブに登録しているファン以外も把握することが可能となった。電子化されていれば、ライブイベントでコロナ感染者が出たとしても、周辺の座席の人にはメールなどで連絡も可能だ。

 また申し込み、抽選、当選発表、振り込みがあった段階で、来場者を事前に把握できるため、コンサートグッズのTシャツもサイズ別にある程度精緻に揃えることができ、在庫切れや、売れ残りも最小限にすることも可能だ。

 また、CD販売においても、ファンがCDを買うのであるから、ファンが誰か分かっていれば、他の流通に頼らなくても直接ファンに販売も可能となる。

デジタル化がファンとの距離縮める

 こうなると販売手数料もプロモーション費用も抑制できる。

 すなわち、デジタル化が進行し、ファンが誰かが分かれば、ファンを大切にしてファンを増やすことで、様々なビジネスが可能となる。

 このファンクラブという概念は、実は日本独特であり、もともと海外では存在していなかったものである。

 日本の場合は、古くからファンの文化が存在し、歌舞伎、相撲、宝塚歌劇団などご贔屓のファンがそれぞれいて、昔からファンクラブを形成してきている。

 華道、茶道、柔道、空手というのも、見ようによっては一種ファンクラブビジネスとも言える。

 ただ、これらはすべてアナログで管理されてきた。

 そのため、会員が誰なのかを世界レベルで把握することは、非常に困難であり、地球の裏側で勝手に流派を名乗って道場を開いても、家元は把握することができない。

 アナログだと地球の裏側にファンがいることを、アーティストが把握するのは非常に困難である。

 今回、ビックヒットエンターテインメントは、株式上場で900億円の資金を得ている。株価は上場後、下落しており、今後どうなるのかは、全く予測はつかない。

 しかし、900億円相当の資金を獲得したことは、大きな意味がある。

 以前も示したが、アーティストビジネスをBCGポートフォリオで記載すると、以下のようになる。

 BTSというライジングスターを保持し、キャッシュが生まれるわけだが、それに加えて外部資金を900億円ほど調達しているため、新人アーティストにも投資が可能である。

 楽曲も世界中から集まってくるため、一番良いものから順に選ぶことができるだろう。

 また、すでにファンとアーティストを繋ぐ様々なツールインフラを保有しているが、さらにデジタル化を進め、プラットフォームとすることも可能である。

 ファンと直接繋がる仕組みをアーティストに提供することができれば、ビジネスの幅は格段に拡がる。

 アーティストも、事務所側がツールインフラを用意することで、個人情報保護、セキュリティ対策を含めシステム的には面倒なデータの管理を任せることができる。

 数年前、私の知人である韓国人のベンチャーキャピタリストがビックヒットエンターテインメントに投資をした。

 そのときのBTSは一部のK-POPファンが知っている程度で、日本ではほぼ無名。彼からBTSのコンサートグッズの一つであった保湿用フェイスマスクを記念にもらったことがある。

元気がいい韓国エンタメ業界

 男性グループなのに女性用のフェイスマスクのグッズが売れるのか当時は疑問であったが、彼に聞くと韓国では飛ぶように売れているとのこと。

 当時、私にはさっぱり理解ができなかった。そのマスクは会社の女性スタッフたちにお渡ししたのだが、誰もBTSのことを知っている人はいなかった。

 今思えば記念に持っておけば自慢できたのではないかと少し後悔している。

 なお、第92回アカデミー賞の作品賞、監督賞など4部門を受賞した「パラサイト 半地下の家族」を制作したのも、韓国のCJエンターテインメントであり、映画のCJ、音楽のビッグヒットと韓国のエンタメ業界は元気が良い。

 CJグループは、元々は製糖会社であり食品メーカーであったというのも興味深い話である。

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