ファンシーな土産物屋から妖気が…80年代の亡霊に遭遇する清里“メルヘン廃墟”巡り から続く

 どこを見渡しても、誰もいない。まるで撮影の終わった映画のオープンセットのように、町並みだけが佇んでいる。

 それまでのどかな高原地帯だった「清里」は、80年代後半にファンシーな雰囲気の漂う避暑地として人気を集め、若い女性たちが集うようになった。しかし、ブームが去ると町は徐々に衰退し、再開発されることもなく打ち捨てられてしまった。それがいまや写真映えのする「メルヘン廃墟」として評価され、一部の好事家たちを呼び寄せているという。(取材・文=素鞠清志郎/清談社)

(全2回の第2回/1回目から読む)

清里メルヘン廃墟群のランドマークMILK POT」

 まるで壁のような立ちはだかる「隆磯亭」を過ぎると姿をあらわしてくるのが、いまや清里メルヘン廃墟群のランドマークともいえる「MILK POT」だ。

 その名の通り、ポット型の建物で、鳥山明の漫画『Dr.スランプ』あたりにインスパイアされたと思われるデザイン。当時もインパクトがあっただろうが、現在の佇まいもなかなかショッキングだ。

 当時はメルヘン感が溢れていたと思われるが、いまでは出土した土器のような粗肌をさらしている。

 特筆すべきは、店内がほぼそのまま残されていること。中を覗くと、売れ残った土産物や、くたびれたクマのぬいぐるみなどが打ち捨てられており、ダークメルヘン感を醸し出している。

 クマが虚空をみつめる。カウンターにあるCDラジカセもたまらない。

MILK POT」は、隣の大きな時計のついた建物とつながっている。この一帯は「清里フェステ」と呼ばれていたようで、「ポッポ清里」などのお土産店やレストランが連なる複合施設だったようだ。

 イラストの雰囲気をみると、80年代でも少し古めだったのではないだろうか。

フェステ清里」は、線路に接しており、傍らを電車が走るという素敵なロケーションとなっている。

GALからBAL(おばさん)まで」賑わっていた大型商業施設

 フェステ清里の向かい側には、「ワンハッピープラザ」という大型商業施設があった。本稿第1回でも触れた週刊明星1988年7月21日の記事によると「駅の隣に広がる、乙女心をくすぐるファンシー空間。GALからBAL(おばさん)まで、あらゆる人たちで賑わっています」とのこと。「BAL」…初めて目にする呼称だが、かつてはそんな人たちも訪れていたのだろう。

 少し前までは中まで入れたようだが、現在は鉄板やネットで囲まれている。

 危険なので閉鎖されてしまったのかと思ったが、現在はなんと「CTE」(COMBAT TRAINING CENTER)という、サバイバルゲーム施設になっている。跡地をそのまま利用して、撃ち合うのは臨場感がありそうだ。

 向かいの「ポッポ」の入り口あたりにBB弾が散乱していたのは、この施設を利用したサバゲー客の仕業だろう。

 この日は「CTE」も営業していなかった。ゾンビ化した「BAL」に扮してサバゲーしたら楽しそう。

 ワンハッピープラザの中央には「アゼリアの塔」という時計台オブジェがあり、覗いてみると現存しているようだ。

Green Prak」という看板の「グリーンパーク

 そのまま道を引き返していくと、「MILK POT」の向かいあたりに、緑色をした、ヨーロッパ風の見事な建築物がある。

 建物だけなら、一流テーマパークにあっても遜色ないレベル

 外壁が剥がれ落ちてくるせいか、周囲には「頭上注意」の看板が。

 この施設は「グリーンパーク」と呼ばれているが、看板には「Green Prak」と表記されている。どこでどう間違えたのか、それとも「Prak」が正式名称なのか。さらにこの建物の地下には「ミルクポット」というカタカナ表記のお店があり、向かいの「MILK POT」との関連性も謎だ。姉妹店なのか、元祖と本家で争っていたのか…。いまはどちらも沈黙している。

 若者から「ファンシーショップって?」と聞かれても、誰もハッキリ答えられない。

迫力あるファンタジー系の造形物

 この「Green Prak」の前を通りぬけるように右折していくと、先程の「ワンハッピープラザ」の別ゲートに着く。こちらには、大きな顔のついた樹木や、キノコなどのファンタジー系の造形物が並んでいるのだが、いまではシートで覆われ、一部しか見ることができない。

 シートで覆いきれず、通行人を見下ろし続ける樹木さん。

 キノコの上にはカタツムリさんもいるよ。

 ワンハッピープラザ前には、シャトルバスの停留所が。どこに連れていってくれたのだろうか。

 清里は、元々は誰も住んでいないただの高原だったが、1938年の小河内ダム建設に伴い、水没する地域から移り住む人々が増加。そこにGHQの将校だったこともあるポール・ラッシュ博士が農園や牧場の開拓支援などを行う「清泉寮」を開設し、開発が進んでいったという。

 70年代中央自動車道が開通すると、首都圏の人々の避暑地として徐々に観光地化し、80年代に突如としてブレイク。「高原の避暑地」というメルヘンイメージと、原宿パステル文化が奇跡的な融合を果たし、様々な施設が開発されていったという経緯がある。

 そのシンボルとなるのが、この「ワンハッピープラザ」だったようだ。

ジェラテリア」なのか「紅や」なのか? 謎のジェラート

 駅前まで戻り、今度はもう一本の大通りを下っていく。最初に目に入るのは、屋根にネコのイラストが描かれた「GELATERIA」だ。お店の中を覗くと、ジェラート用の什器が残されており、近年まで営業していたのかもしれない。

 

 風雨にさらされたおかげで、ゴッホのような味わいになった「ジェラート」の看板。

 この建物の入り口には、売り物なのか「77」というプライスカードが掲げられたワーゲンバスや、牛のオブジェなどが残されており、なかなかカオスな雰囲気。看板をみても「ジェラテリア」なのか「紅や」なのか、その両方だったのかよくわからない

 

「e」だけ抜け落ちて、「hand mad」となっている。とにかく狂ってしまったようだ。

いまにも崩壊しそうな建物ばかり

 この通りは、両脇に廃墟や空き家が連なっている。今にも朽ち果てそうな建物がある一方、営業してそうな店もシャッターが閉まっているので、とにかく静かだ。

 レトロフューチャー感漂う照明の奥にも廃墟がある。

 ウッディな作りは雰囲気があるが朽ちるのも早いようで、いまにも崩壊しそうだ。

ANGEL」という看板がある建物は、外観だけでもオシャレにしようと三角形の山のようなイメージの外壁を建てていたのだが、それが朽ち果ててしまったせいで異様なスケルトン物件となっている。

 ポツンと建つコテージ風の建物は、それだけで80年代ホラーテイストだ。

「只今 占い中!」とのことだが、誰もいなかった。

通常稼働しているメリーゴーラウンド

 この通りをクルマでしばらく下っていくと、レストランペンションなどが集まった「萌木の里」があり、こちらは現在も人気の観光スポット。様々なミュージシャンのPVにも登場したというメリーゴーランドも健在だ。

 暗くなってから撮影したので怖めになってしまったが、通常稼働している。

 また歴史のある「清泉寮」や、周辺の牧場、自然を活かした施設の数々も根強い人気があり、シーズンには多くの観光客が訪れるという。清里で死んでいるのは、駅前のメルヘンタウンだけなのだ。

 最後に、気になったスポットに寄ってみることにした。「ワンハッピープラザ」から出ていたシャトルバスの行き先だ。調べてみると、清里駅からクルマで10分ほど離れた場所に、姉妹施設の「ワンハッピーパーク」があり、そこにも多くのショップが立ち並んでいたというのだ。

 さっそくクルマに乗り、ここだと思う場所に着くと、広大なモールの跡地のようなものが現れた。

 荒れ果ててはいるが、メルヘン溢れるショップステージのように立ち並んでいたようだ。ただよくみるとファンシーなのはガワだけで、実際は倉庫のような建物に装飾を施しただけである。

 照明は「ワンハッピープラザ」と同じデザイン

 看板には「りよん」、「里里庵」(たぶん、りりあんと読む)、「ABBEY ROAD」など、無邪気にメルヘンを発揮した看板が並ぶ。

跡地を利用した巨大な工場が

 広いぶんだけ荒涼とした雰囲気の漂う「ワンハッピーパーク」跡地だが、なぜか周囲には独特のニオイが漂い、よくみると誰かが建屋内で何かの作業をしている。中をのぞいてみると、なんと跡地を利用した巨大なキムチ工場になっていた。

 キムチは販売するだけでなく、近くのレストランでも出されているようだ。

 清里には今回訪れた場所だけでなく、周辺にはまだまだ魅力的な廃墟がたくさんある。バブル絶頂期の意匠やデザインが施された施設が、ほぼそのまま現存しているのは文化遺産としては非常に貴重で、観光資源としての需要もありそうだ。

 しかし、建物の権利も複雑だろうし、老朽化に伴って危険な場所も多い。なによりも、現地の人たちにとって「廃墟で町おこし」というのは、なかなか踏み切れない領域だろう。

 ただ、清里のメルヘン廃墟から感じるのは、不気味さや寂しさだけでなく、あの頃のやみくもなパワーや圧倒的な勢いだ。

 イメージを統括するようなプロデューサーや、大手のデベロッパーなどを介さず、勝手に時代の空気を読んだ野心家たちが、雑多にそれぞれの「メルヘン」を表現した所に価値がある。

 何もなかった高原にメルヘンファンシーな町並みが出来上がったこと自体が夢物語であり、そんな蜃気楼のような魅力がいまの清里にも漂っているのかもしれない。

(清談社)

MILK POT写真