コロナ禍で“ウィズコロナ”の生活を余儀なくされているいま、“緊急事態”をテーマに、5人の映画監督が撮ったオムニバス映画『緊急事態宣言』が、Amazon Prime Videoで独占配信中だ。これは、緊急事態宣言が解除されたあとの自粛期間に撮影された作品となっている。本作に参加した『孤独な19時』の園子温監督と、『MAYDAY』の真利子哲也監督に話を聞いた。

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緊急事態宣言』は、Epi1が中野量太監督作『デリバリー2020』、Epi2が『孤独な19時』、Epi3が非同期テック部(ムロツヨシ+真鍋大度+上田誠)監督作『DEEPMURO』、Epi4が三木聡監督作『ボトルメール』、Epi5が『MAYDAY』と、まったく違うアプローチで撮られた短編5本で構成されていて、それぞれの個性がスパークし合っている点もおもしろい。

園監督と真利子監督は共に法政大学出身で、世代が違うから接点はなかったが、同じ映画サークルに属していた。2人が初めて現場で顔を合わせたのは、真利子監督が、園監督作『Strange Circus 奇妙なサーカス』(05)のメイキングスタッフとして参加した時である。2人が揃って取材を受けるのは今回が初となった。

――園監督は、真利子監督についてどんな印象を持っていたのですか?

園監督(以下、園)「最近、張りのある映画監督が少なくなってきているなかで、真利子くんはそうじゃない。今回、『緊急事態宣言』に真利子くんが参加するということで、じゃあ僕もやってみようかなと思いました」

――真利子監督は、いかがですか?

真利子監督(以下、真利子)「思えば、園監督の8mmフィルムが、部室のロッカーにあって。」

園「やばい!ちゃんと回収しないと(苦笑)。あんな埃っぽいロッカーで打ち捨てられていたのか」

真利子「その頃はたしか『自殺サークル』の頃ですが、園監督作は、初期の自主制作の作品から観てきて、『紀子の食卓』(05)を観た時にまた驚かされたのを覚えています」

園「ありがとうございます!そろそろ本題にいきましょう」

■「『孤独な19時』は、コロナ禍の話を御伽話にするために、コロナ収束後の設定にしました」(園)

園監督が撮った、斎藤工主演作品『孤独な19時』は、新型コロナウイルス(COVID- 19)のパンデミック収束後、さらに狂暴なウイルスが蔓延し、長期間の自粛生活を強いられるという設定の物語だ。斎藤演じる主人公の音巳は、生まれてから一度も家から出たことがなかった。

――ソーシャルディスタンスを50メートルも取り、半永久的にステイホームが続くという設定は、いまとなっては、絵空事とも思えない気がします。

園「最初にコロナウイルスが中国で広まった時、スーパーでめちゃくちゃ距離を取って並んでいる報道を観て『こんなことが起きるわけないだろう』と、遠目で見て呆れていたんです。でも、実際に世界中で同じ運命が待ち受けていた。発想は、コロナ禍の話ですが、御伽話にするために、それが収まった後という設定にしました」

――ナレーションも園監督が担当されているので、よりしっくりきました。

真利子「僕も聞いて、すぐに園さんの声だとわかりました。説得力がありますよ」

園「いやいや、あれは、製作費がないからやったまでです(苦笑)」

――斎藤工さんのキャスティング理由についても聞かせてください。

園「斎藤さんは、絶対に“自粛好き”だと思ったからオファーしました。実際に彼は、家に

いることが楽しくてしょうがないし、天井の木目と語り合うらしく『“木目友達”が3木目くらいいる』と言っていました(笑)。だから、適切なキャスティングだったと思います」

――確かに今回の役柄はぴったりだったと思いますが、現場ではどんなやりとりをされたのでしょうか?

園「斎藤くんはこっちのリクエストを受け入れて出す名人です。全部を変えて、俺のものにしたいとか、そういう自我を出すタイプの俳優ではなく、非常にスマートな人。本当にすばらしかったです」

――真利子監督は『孤独な19時』を観て、どんな感想を持ちましたか?

真利子「園さんが、今回の状況とテーマで、どうやって作品を撮っていくんだろうと思っていたんですが、すごく映画として勝負されているなと思いました。映画のラストに提示されている、“ある台詞”がぐっと刺さりました」

■「『MAYDAY』はオンラインの打ち合わせを重ねて作り上げた作品」(真利子)

真利子監督の『MAYDAY』は、世界14か国、21都市の人々が関わった異色作で、コロナ禍で過ごす各国の人々が織りなす日常が描かれており、真利子監督は、現地の人々とリモートでやりとりをし、撮ってもらった映像を編集して一本にまとめあげた。

――バラエティーに富んだ映像ですが、なにげないリアルな日常が伝わってきました。各国から送られてきた映像を観た時、真利子監督はどう思いましたか?

真利子「アメリカに一年間滞在していて、今年の3月半ばに帰国してすぐにコロナで世界中が一変したので、友人たちがどうされているのか、気になっていたんです。報道を見て想像していたことだけではないことを知れて、世界中が同じ状況に生きていることを実感できました」

園「どういう仲間で撮ったの?映画祭で知り合った仲間たち?」

真利子「去年、シカゴ国際映画祭で審査員をした時に知り合った人たちに声をかけて、そこからその友人まで広がって、一般の学生やご家族に混じって、パフォーマーとかミュージシャンとか、普段からメディアに関わる人もいます」

園「けっこう幅広いよね。中国の方はどういう流れで?」

真利子「ミーナ・チェンというドキュメンタリーの監督です。北京で自分の作品を上映してくれた時に知り合ったプロデューサーが、ミーナさんを紹介してくれて、こちらの意図に賛同してくれて、彼女が置かれている状況の映像を送ってもらいました」

――真利子監督から「こういう風景を撮ってほしい」とリクエストされたのですか?

真利子「はじめにオンラインで話し合いしてから撮影してもらっています。ミーナさんは入院していたお父さんがコロナの患者が多くなって一時退院するというのでその風景を、NYのロドリゴ夫妻は俳優で、ちょうど子どもができたばかりで、『車を買って、おばあちゃん宅に行くつもりだ』という話を聞いたので、そのやり取りを撮ってくださいと。基本、その人の状況の中で撮ってもらうのを頼んでいるので、カメラを持ってる人はそれを使ってますが、スマホで撮られているのが多いですね」

――東京パートは、岩瀬亮さんと内田慈さんが出演されています。お風呂に入るシーンが印象的でした。

真利子「岩瀬亮さんと内田慈さんは実際に夫婦ですが、役者として、この作品だからこその挑戦をしてくれました。2人とオンラインで話していて、それまでは忙しく生活していたのが、コロナの自粛期間が夫婦で対話する期間になったということを話されていて、そこで『ふれあいについてなにかをやりましょう。2人でお風呂に入るってどうだろう』というアイディアが出てきました。あの頃は接触禁止とか距離を取れとか、世間にギスギスした空気が流れていた頃で、普段だったらおかしくないことも忘れていたことに気付かされました」

――東京パートでは、真利子さんの演出が入っているのですか?

真利子「他の国と同じで、現場に行かずに、オンラインの打ち合わせを重ねました」

園「僕は、うちの奥さんと一緒に観ていたんですが、ブルックリンの夫婦の車を買う買わないのやりとりが、うちとすごくシンクロしていて、世界中の家庭で同じような問題が話されているんだなと、2人で驚きました」

真利子「どこの国もこちらが演出している訳ではないのに、カメラを通して家族を覗くと、いつも女性がしっかりしていますね(笑)」

園「女性は子どもを守りたいという想いが強いのかもしれない。原発の時も、福島で夫妻の食い違いがあったんです。旦那は福島にいたいのに、奥さんが『なにを言ってるの』と言って離婚しちゃうケースがありました」

――園監督は、3.11後に福島を取材され、その声を反映した『希望の国』でも、そういった家族を描いていましたね。

園「3.11後もそうでしたが、うちも今回のコロナを含め、両方とも奥さんが厳しくて。でも、そのバランスでいいのかなと。男はちょっと適当な感じで、女子が強いほうが」

■「テーマに対して、バカみたいに真面目に取り組んだのが、この2作品だった」(園)

――日本では5月25日緊急事態宣言が解除されました。劇中の最後に6月1日の映像が流れ、日本では少し自粛が解かれている映像が流れますが、まだまだコロナ禍にあります。また、それとは別問題として、アメリカで起きたジョージ・フロイド抗議運動のデモの映像が映されていました。

真利子「国によって自粛解除の時期が違いますし、自粛が明けて外に出た感じも出ているとは思いますが、まだまだコロナの影響は、続いています。5月末頃からデモ運動が起こったのも事実ですが、それはずっと続いている問題で、いまに始まったことじゃない。自分は日本にいると、なかなかそういう意識に触れることが少ないのですが、遠い国の他人事ではなく、いろいろと考えさせられました。」

――『MAYDAY』の最後に明示されるフレーズは、コロナ禍で観ることも影響してか、いつも以上にとても心に響きました。

真利子「あれは、ぴったりの日本語訳がなかったんです。英語としては、諦めの言葉だったり、前向きな言葉だったりして、文脈や受け取り方によって全然印象が違うらしくて、ここで長々書くよりもそれが合っている気がしたんですよね。世界でコロナは収束していない、そしてデモの映像の後に、最後にどんな言葉を残すべきか、ひたすら考えましたね」

園「いま思えば、テーマに対して、バカみたいに真面目に取り組んだのが、この2作品だったかなと。ほかの監督は、変化球的な作品だったけど、真利子くんと僕は正面から行ってしまった感じ」

Netflixオリジナル映画『愛なき森で叫べ』(19)が話題となり、ニコラス・ケイジ主演のハリウッドデビュー作『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』が待機中の園監督と、『宮本から君へ』(19)で映画賞を席巻し、取材時は短編映画の撮影でシカゴに滞在していた真利子監督。

この2人の作品だけではなく、コロナ禍でアグレッシブに撮られた5作は、いずれもパワフルな作品に仕上がっているので、5本をイッキ観してもいいし、気になる作品から攻めていくのもおすすめだ。

取材・文/山崎伸子

園子温監督作『孤独な19時』/[c] 2020 Transformer, Inc.