15人の権威:「ワクチン使用は時期尚早」
10月22日は、ドナルド・トランプ米大統領にとっては劣勢を一気にひっくり返す最後のチャンスだった。
しかし、いくら贔屓目にみても、この日トランプ氏が態勢を逆転させたとはいえない。
がっぷり四つに組んだジョー・バイデン民主党大統領候補の余裕ある寄りに徳俵に足がかかった。
一つは、各種世論調査平均値で9%強、リードされているバイデン氏との最後の直接対決となった2回目のテレビ討論会。
そしてもう一つは、研究開発が続けられてきた新型コロナウイルス感染を止めるワクチンが一般人に投与できるか、15人の医療・公衆衛生分野の権威によって判断が下される日だった。
トランプ大統領が策定した国家プロジェクト、『オペレーション・ワープ・スピード』がワクチン開発可否を報告する期限だった。
総額100億ドルを投じた。アストラゼネカ社とオックスフォード大学には12億ドル、モデルナ社には4億8300万ドルを提供して尻を叩いた。
だが、結果は「時期尚早」。
「ワクチンは大統領選挙前には皆に配れる」と豪語していたトランプ氏の夢はもろくも消えてしまった。
この日、「ワクチン投与」の許可が出れていればバイデン氏を粉砕できたのに・・・。
討論会の方はどうだったか。
コロナ禍のため主催者が提案した2回目のバーチャル討論会への出席を拒否したトランプ氏。
満を持して乗り込んだ第1回はトランプ氏の発言妨害、不規則発言で「史上最低の大統領候補討論会」となった。
今回はいくらか改善されたかと思いきや、政策論争には新味はなく、相も変らぬ揚げ足取りと個人攻撃、両陣営がテレビ広告やSNSで流すネガティブキャンペーンの焼き直しだった。
トランプ氏はバイデン氏に「脱税疑惑」やロシア、チャイナ・コネクションを追及されると、逆にバイデン氏の息子のウクライナや中国との「怪しげな関係」を取り上げた。
トランプ氏がツイッターで連日のようにやってきた批判者への反論、「目には目を」。
テレビ人気ドラマの半沢直樹氏顔負けの「やられたらやり返す、二倍返し」手法がこの日の討論会では再現された。
コロナ禍真っ只中の討論会も、有権者にとっては、現実離れしたリアリティショーに過ぎなかった。
投票態度を決めずにいる都市近郊在住の「ワイン・マム」(Wine Mom)*1たちにとっては時間の無駄だったに違いない。
*1=都市近郊に住むアッパーミドルの有閑マダムたち。他の女友達とワインを飲みながら世相談議に花を咲かせ、大統領選では誰に投票するか決めかねている女性陣のこと。
どちらに軍配が上がったか。両陣営や支持者はそれぞれ俺たちが勝った、相手が負けたと言い合っている。
一方、中立なはずのテレビ、ネット、新聞は、ニューヨーク・タイムズやCNN、MCNBCといった主要メディアはバイデン氏、保守のFOXニュースやタブロイド紙のニューヨーク・ポストはトランプ氏に軍配を上げていた。
分裂する米国の最大の特徴の一つは、リベラルと保守、都会居住者と非都会居住者、高学歴者と低学歴者などが見るチャンネル、購読する新聞が全く異なることだ。
従って得ているニュース、情報も違っているのだ。
分裂が加速化し、分裂の度合いを深めているのはメディアのせいなのだ。
誤解を恐れずに言えば、全国レベルでニュースを均一化させているNHKやBBCの夜7時のニュースのような番組が米国にはないのだ。
バイデン支持者はCNNやニューヨーク・タイムズから、トランプ支持者はFOXニュースや保守派ラジオから異なる視点のニュースを得ている。
トランプ氏の遊説を報じているテレビニュースでもお分かりだと思うが、集まっている支持者たちの表情や行動と、バイデン氏の遊説に集まっている支持者たちのそれとの違いが一見して分かるのはそのためだ。
これに拍車をかけているのがSNSの劇的な拡散だ。
頼みのツイッターまで敵に回した
終盤を迎えた米大統領選挙とSNSとの関係は急速に深化してきている。
そうした中で、SNSの雄、ツイッターが、投稿内容を事前チェックすると宣言した。今回の措置は、少なくとも11月上旬の大統領選挙の週まで続けるとしている。
その背景には、トランプ大統領の、時に誤った情報を含んだツイート(つまりフェイクニュース)が、リツイートによって「拡散」されて公正な選挙キャンペーンができないとの判断がある。
きっかけは、4年前の大統領選にある。
トランプ氏とヒラリー・クリントン氏が激しく争ったこの選挙では、SNS上でフェイクニュースが拡散。選挙結果にも少なからぬ影響を与えた。
米情報機関はロシアによる選挙介入があったと断定した。
フェイスブックなどSNS各社は、ロシアが介在する投稿を適切にチェックできなかったとして強い批判を受けた。
そこに、すでに指摘した社会の分断に伴う政治思想や主義・主張の対立が加わってきた。
反対意見の人をインターネット上で徹底的に攻撃する風潮を強めたのは、トランプ氏自身だった。
米各界からツイッターやフェイスブックなどSNS各社に対応を求める声が高まった。
こうした状況を受け、ツイッターは政治的な広告を禁止したわけだ。
当初は、ツイッターは、トランプ氏の誤った情報を含んだ投稿に警告ラベルを表示。
その後、トランプ氏の発信するツイッターにはあまりにも事実誤認やフェイクニュースが多すぎるとの判断から事前チェック措置に踏み切った。
一方、ネオナチや人種主義をネット上で増長させるグループも現れた。
今注目されているのが「Qアノン」だ。
インターネットの掲示板に投稿を始めた「Q」を名乗る匿名の人物が3年前に始めたネットだ。
「陰謀説」を掲げるネオナチ・グループで、人種主義を標榜している。ネット上でトランプ再選を訴えている。
上下両院の選挙ではQアノンを支持する候補者が25人にものぼっている。
SNSから閉め出された超保守派分子が始めた新興のマイクロブログ兼SNSに「パーラー」(Parler)がある。
ネバダ州ヘンダーソンに本社を置いているがオーナーは不詳。極右、反ユダヤ主義的な情報を発信している。
ツイッターとよく似た機能を持ち、今年7月時点で利用者は280万人。利用者の多くは、トランプ氏を支持する保守派の人たちだ。
レギュラー投稿者にはマイケル・フリン元大統領国家安全保障担当補佐官やトランプ氏の政治顧問だったロジャー・ストーン氏が名を連ねている。
新型コロナ禍で、選挙運動が制約された。その分、SNSが「主戦場」になってきた大統領選。
残り2週間、投票日の11月3日ぎりぎりまで、両陣営と応援団SNSによるネガティブキャンペーンが過激化しそうだ。
(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201022/k10012675501000.html)
民主党「トリプル勝ち」の可能性72%
2016年の世論調査の支持率が実際の選挙とは異なる結果になったことから、バイデン氏がいくら9%強リードしていても「まだまだ分からない」という声は米国内だけではなく、世界中に拡散している。
そうした声があることを百も承知で、10月22日に公表されたABCニュース傘下で、その「予想力」では定評のある世論調査機関「ファイブ・サーティ・エイト」(FiveThirtyEight)の予想を最後に紹介する。
「2021年1月、ワシントンは一党独裁タウンになる十分なチャンスが出てきた」
「というのも民主党が大統領府を奪取するだけでなく、上院、下院でも過半数を取れるチャンスが72%出てきたからだ」
「民主党がトライフェクタ(Trifecta=トリプル勝ち)を収めるのはバラク・オバマ第44代大統領の2009年から10年までの2年間以来だ」
その時、民主党は何をするか。
「ファイブ・サーティ・エイト」は最高裁判事の増員、ワシントン特別区とプエルトリコの州昇格、地球環境保護を兼ねた「グリーン・ニューディール」国家プロジェクトを上げている。
気の早い話だが、下院は「トランピニズム」のあおりを受けて討ち死にする共和党現職議員が急増、上院でも共和党の現職議員が各州で苦戦、民主党が過半数を取る可能性が出てきている。
「トライフェクタ」実現のチャンス72%は決して民主党にとっては夢ではなくなってきた。
民主党の地滑り的勝利の可能性は州知事選、州議会選にも連鎖反応を見せ始めている。
今年行われる州知事選47州では民主党が24州、共和党が23州で勝利との予想がすでに出ている。
民主党が知事、州上院、下院を制する「トライフェクタ」は15州となり、共和党と互角になるとの予測も出ている。
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