以前小欄で、自殺を決意してしまったときに取ってほしい行動について書きました(「死にたい…」本当に追い込まれたあなたに、精神科医が勧める「これだけは試して欲しいこと」)。その中で、「一番会いたい人に、深夜でも早朝でも構わないから連絡を取ってほしい」という記述があります。

 コロナ禍に見舞われて精神的に追い詰められ、心療内科や「いのちの電話」にもたくさんの声が寄せられているため、簡単にはつながらない現象も起きているようです。

 日本はまだまだメンタルヘルスに対する理解が得られないケースも少なくなく、「うまく症状とつきあって良くしていく」環境が整わないことも考えられます。追い込まれた人にとっては、いっそうとれる選択肢が少なく見えてしまうでしょう。

 ただでさえ孤独に陥りやすいこの状況で、最後の最後に友人や知人に頼って悩みを打ち明ける人もいるでしょう。それだけに、「相談される側」「周りの人間」の対応は重要になってきます。

 とはいえ、今まさに自ら命を絶とうとしている人の告白を受けたときに、どう向き合えばいいのでしょう。自分の対応いかんによっては、助けられたはずの命を助けることができずに、深く悩み続けることにもなりかねません。

 そこで今回は、前回と同じく名古屋市西区にある名駅さこうメンタルクリニック院長で精神科専門医の丹羽亮平医師に、自殺志願者に悩みを打ち明けられた時の対処法を解説してもらいました。

「もうだめなんだ…死ぬよ」と打ち明けられたらどうする?

「もうだめなんだ……死ぬよ」

 友人や恋人からそう打ち明けられて、冷静な対応がとれる人などそうはいない。

 突然のことに取り乱し、パニックに陥ることもあるだろう。

 しかし、丹羽医師は言う。

「誰もがストレスを抱えて生きている現代、いつ『死にたい』と打ち明けられても不思議ではありません。想定したくはないことですが、その時に慌てないためにも、最低限の知識を持っていてほしい」

 自殺したいと考えることを「希死念慮」というが、この気持ちを告白されたときに絶対にしてはいけないことがある。

・詰問や説教
・楽しかった思い出
・飲酒を勧める

「必要に応じて『なぜ死にたいと思うのか』を質問することは大事ですが、相手を問い詰めるような聞き方や、『残された家族の気持ちを考えろ』などと叱るのは絶対にNGです。当人は相談する前に家族のことでさんざん思い悩んでいるはず。そのうえで死を選ぼうとしているのです。それを、たとえ親友や恋人であろうと、外部の人間に指摘されたら自棄になる危険性があります」(丹羽医師、以下同)

 恋人同士なら過去の楽しかった思い出話で落ち着きを取り戻せるような気もするが……。

「状況にもよりますが、過去の話は『今の私じゃ一緒にいてもつまらないんだ』と解釈されてしまう恐れがある。死を意識している人はすべてを悲観的に捉えてしまうので、警戒が必要です」

 最後の「お酒」は最も危険だ。

アルコールは恐怖心を麻痺させ、思考力、衝動抑制の低下を招くので、自殺のリスクを高める方向に作用してしまう。たとえストレス解消が目的であったとしても、飲酒の提案は避けるべきです」

「がんばれ」という言葉は使って良い場合も

 では、告白された側はどうすればいいのか。丹羽医師は、自殺企図を止めるのは容易ではないが、当事者の思いに寄り添うことが大切だとする。

「何よりも “感謝”の意をあらわすことです。死にたい、と打ち明けるには大きな勇気が必要です。まずその勇気を称え、また自分を信用して打ち明けてくれたことへの感謝の気持ちを込めて、『ありがとう。よく話してくれたね』と伝えるのです。その上で、話をせかしたり、話の腰を折るようなことをしたりせず、ただ寄り添うように話を聞いてあげてください。否定も肯定もせず、受容と共感を心がけましょう。間違っても『もっと苦しんでいる人はいる』、『俺だって死にたいよ』と当人の苦しみを過小評価したり、『大丈夫、何とかなるよ』などの安請け合いはしないでください」

 よく、「うつ状態の人に『がんばれ』と励ましてはいけない」という話を聞くが、実際のところはどうなのだろう。

「状況にもよります。日本語の『がんばれ』は命令ではなく、『私はあなたを応援しています』という程度の意味に過ぎないので、取り立てて問題になることはあまりない。私も『無理はしないでがんばってください』と言うことはあります。ただ、『うつ病は気力で克服できる』という考え方の人が『がんばればよくなる』という意味でこのセリフを使うと、追い詰める結果となってしまうので危険です」

 このあたりは二人の関係性や、それぞれの性格によっても違ってくるので、危険だと思ったら使わないほうが無難だろう。

 希死念慮を持つ人に「飲酒はご法度」と書いた。しかし、希死念慮がなくなるとは限らないが、場合によっては効果を発揮する可能性のある飲食物もあるという。

「甘いものを勧めたり、糖分が多めの飲み物を勧めるのはアリです。特にそれが深夜であれば、一時的な脱水や低血糖で判断力が低下している可能性もある。甘いものを摂ることでセロトニンドパミンなど多幸感をもたらす神経伝達物質が分泌されます。また、何かを食べる、飲む、という行為そのものが自律神経を副交感神経優位(リラックス状態)にさせるので、気分が落ち着くことはあり得ます」

落ち着いたタイミングで大切なのは…

 日中に直接会って話ができるなら、外に出て散歩をしながら話を聞くのもいい。

「相手が話せばそれに耳を傾ける。そうでなければ天気の話や時事的な話題などを選んで、自分の内面に向いている意識を外側に向けられるようにしてあげるといい。できればこの時はマスクを取って、こちらの表情を見せてあげてください」

 他にも、話をしながら軽く肩をたたく、恋人同士なら頭をなでる、軽くハグするなど、スキンシップをはかると効果的だと丹羽医師は言う。

「スキンシップにより、愛着や共感をつかさどるオキシントンというホルモンが分泌され、人とのつながりや協調を思い出すきっかけになります。それまで感じていたであろう孤独感が軽減される可能性が出てくるのです」

 この時も、基本姿勢は「話を聞く」ことにつきる。

死にたい」と相談してきたということは、死ぬか生きるかで迷っている段階。言い換えれば、「生きる」という選択ができる最後のチャンスだ。

 もちろん、かなり難しいチャンスであることも事実。当人は強いストレスの中で「死にたい」という言葉しか思い浮かばないのかもしれないし、こちらの言葉が伝わって欲しい形で届くとも限らない。だからこそ、できることは「話を聞く」ことで、「聞いてくれる人がいるんだ」ということを言葉に頼らない形でも伝えることだ。

「『死にたい』と言っているうちは死なない――という俗説がありますが、これは間違いです。この状況で、たとえ正論であっても、当人の話を否定するなど不用意な発言をすると、死に向けて一気に舵を切らせてしまう危険性があります」

 相手が落ち着くまで話を聞いたら、次に会う、あるいはメールなどで連絡を取る約束をするといい。

 生死にかかわる相談を受けるということは、あなたは優しい性格で、相談者から頼りにされている証拠。自殺を考える人は根が真面目なので、そんな大切な人との約束であればなおのこと守ろうとする。次に会う約束をして、「楽しみにしているよ」と声をかけてあげることで、約束の日までは“生きる選択”をしてくれる可能性が高まるのだ。

「次回以降、少し落ち着きを取り戻してきたら、心療内科などメンタルヘルスの受診や、専門の相談機関の利用を勧めてもいいでしょう。その場合は、当人だけで受診させるよりも、できれば誰かが同伴するのが望ましい。せめて予約の電話をかけるときだけでも一緒にいてあげると心強く感じるものです」

 「相談される側」が共倒れにならないために必要なことは…

 最後に、丹羽医師は「相談される側」のメンタルについて言及する。

「相談者との距離が近いほど、あるいは性格が優しい人ほど、悩みを打ち明けられたときのストレスも大きくなります。時には責任の重さに耐えかねて“共倒れ”になる危険性もあります。そうならないためにも、すべてを一人で受け止めるのではなく、相談者の家族や仲間と連携をとったり、必要に応じて“相談される側”として、専門の相談窓口の利用も視野に入れて考えてほしい」

 繰り返しになりますが、人はいつ自殺の危機に直面するかわかりません。自殺について相談する側、相談を受ける側の違いはあれ、“その時”に慌てて、誤った行動をとらないためにも、最低限の知識と対処法は持っておきたいものです。

※参考:政府広報オンライン「あなたもゲートキーパーに! 大切な人の悩みに気づく、支える」

(長田 昭二)

「いのちの電話」に苦しい声が数多く寄せられているといういま、「相談される側」がしてはいけないこととは ©iStock.com