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ハマー復活するも 桁違い強調の戦略

text:Kenji Momota(桃田健史

ハマーが10年ぶりに復活した。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、当初の2020年5月20日正式発表が大幅に遅れ、5か月後の米時間10月20日にオンライン情報公開となった。

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オンライン上での画像や映像を見て「想像していたより、普通のピックアップトラックっぽく見える」。そんな感想を持った人は、筆者(桃田健史)を含めて多いのではないだろうか。

筆者はこれまで複数のピックアップトラックをアメリカで所有した経験があり、また初代ハマーブランドの「H1」、「H2」、「H3」や、それらの派生モデルSUT(スポーツ・ユティリティ・トラック)をアメリカ各地で試乗してきた。

ピックアップトラックというカテゴリーでは、パワートレインが何であれ、「実用的」であることが、商品としての必要十分条件である。

そのため、ボディデザインやインテリアデザインについても「尖り方の限界」があるのだと思う。

見た目がピックアップトラックらしさを維持したとはいえ、なにせパワーが凄い。

一般的にはEVなど電動車の最大出力はkW表示されることが多いが、新生ハマーではあえて1000psという、まさに「桁違い」を強調するマーケティング戦略をとった。

それにしても新生ハマーEVピックアップトラック、いったいどんな人が買うのか?

ビジネスとして本当に成立するモデルなのか?

ピックアップトラック市場の変遷

新生ハマーEVを考える上で、まずはピックアップトラック市場の変遷についてみていく。

ピックアップトラックとは、梯子(ラダー)型の車体構造を持つ小型・中型の商用車だ。

ベッド(荷台)がフラットになっており、荷物の積み下ろしがし易い。日本でいえば、軽トラックである。

一般的には、ミッドサイズピックアップトラックは排気量2.0L-3.0L程度の直列4気筒やV型6気筒エンジンを搭載するモデルがこれまで多く存在してきた。

それより大きな、フルサイズピックアップトラックになると排気量5.0L超のV8が「フルサイズとしての常識」だったが、近年はフォード・エコブーストV6を筆頭に、排気量のダウンサイジングが進んでいる。

ピックアップトラック市場が大きく変化したのは1990年代後半。一般家庭でピックアップトラックの乗用化が増えた。

乗用車の複数台所有が一般的なアメリカでは、1台をセダンSUVとし、その他としてオールマイティな使い勝手ができるピックアップトラックが好まれるようになった。

これとあわて、ピックアップトラックの車体とエンジンを共有するミッドサイズSUVやフルサイズSUVの普及も90年代後半から始まった。

いま(2020年)ではピックアップトラックSUVを合わせた「ライトトラック」分野がアメリカ全需の6割を占めるに至っている。

ピックアップトラック 米で多角化

こうして、アメリカ社会にとって「乗用・商用の主流カテゴリー」の1つとなったピックアップトラックでは、顧客の要望に合わせてモデルラインナップが拡充されてきた。

さらにいえば、北米市場向けと、東南アジア・南米などの経済新興国向けでは、市場からの需要に応じて仕様が異なる。ここではトヨタ、三菱、いすゞなどが大きなシェアを持つ。

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トヨタ・ハイラックス(2020年)    トヨタ

こうしたピックアップトラックの多角化が進む中で、EV化という解釈も当然出てくる。

90年代から2000年代になって、コンセプトモデルや試験車両の部類では存在してきたが、市場における需要が明確にならなかったため、量産計画は進まなかった。

これは、EV全体に言えることだ。2010年になり、日産リーフと三菱アイミーブが大手自動車メーカーとしての初めての大量生産・販売型のEVとなった。

一方で、テスラが築いたのが、プレミアムEVという新たなるカテゴリーだ。

100kWh級の巨大な電池パックを搭載する「モデルS」「モデルX」が登場し、その延長上としてアメリカで需要が多いピックアップトラックとして「サイバートラック」構想を立ち上げた。

2010年代以降のEV市場の変遷を振り返ってみると、GMがプレミアム・ピックアップEVを企画するのは、至極自然な流れだと思う。

換言すると、GMは焦っている……。

ハマーEV、どんな人が買うのか?

GMに限らないが、世界の大手自動車メーカーとしては、テスラをはじめとするEV事業の急速な成長に驚いている。

背景として、世界各地での電動車規制に加えて、従来の財務情報だけでなく、環境・社会・ガバナンス要素を考慮したESG投資への関心がここまで一気に高まるとは予想できなかった。

その上で、GMはハマーEV発表と同時に、米ミシガン州ハムトライク工場に総額22億ドル(約2300億円)を投じて全面改修した、EV専用製造拠点「ファクトリーゼロ」の詳細も公表した。

こうしたGMのESG投資に対するアクションも、ハマーEVピックアップトラックを購入するセレブ層にとっては、購入動機になるだけではなく、GMという企業に対するポジティブなイメージ要因となり得る。

GMとしては、中大型EV向けのEVプラットフォーム「アルティウム」の第1弾として、セレブ層に人気のGMCブレンドにハマーの名を復活させるという、総括的な商品戦略を進めてきた。

端的に、GMとしてはテスラサイバートラックより先に量産したいという思いが強かったはずだ。

さらに、車高調整用エアサス、四輪操舵システムクラブウォーク、800V・350kwの急速充電等の最新EV技術を集約した。

プレミアムEVピックアップトラックに一番乗りとなる可能性が高い、GMCハマーEV。

量産までの動向に注目していきたい。


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