北朝鮮当局は7月1日から、携帯電話を使ったキャッシュレス決済、「チョナトン」を禁止する措置を取った。購入したチョナトンがすべて無効になったことで、このシステムを利用していたトンジュ(金主、進行富裕層)はパニックに陥っている。

北朝鮮携帯電話は、諸外国でも一般的な、カードを買ってチャージする先払い制の料金システムを採用している。従来は、逓信所(郵便局)や奉仕所(携帯電話会社営業所)で3000ウォン分の「チョナトン」のカードを購入すれば、150ウォン分の「チョナトン」がおまけで付与されるというものだ。

チョナトン1ウォンは、75北朝鮮ウォンと計算されるので、150ウォンは1万11250北朝鮮ウォン(約135円)になるが、携帯メールを使えば他人に送れるシステムとなっており、送金、代金の支払いなどに使われ、現金化も可能ということで大人気だった。逓信所や奉仕所に行けない人の代わりに、チョナトンのカードを代理購入して、手数料を付けて売るブローカーも存在した。

ところが、このカードが事実上、無効化されてしまったのだ。カードを複数枚持っていても、逓信所でチャージできるのは本人名義1台と他人名義1台の計2台の端末までで、1台当たりの上限額も従来より100ウォン下げた400ウォンに制限、現金化もできなくなった。購入したカードのチョナトンを他人に売る商売ができなくなってしまったのだ。

カードを大量に購入していた人は、逓信所や奉仕所に押しかけて払い戻しを要求したが、このシステムに関する明確な規定が存在しないため、「カネはすでに国庫に納められた」「通信料金の支払いシステムカードを廃止するという政策的な問題なので、解決は不可能だ」との理由で断られたとのことだ。

大損害をこうむったトンジュたちは、激しく反発している。被害額は、1000ドル(約10万5400円)から、多い人では5000ドル(約52万7000円)に達する。

トンジュは、資金を勝手に国庫に帰属させられた形になるが、この措置の目的は私経済(インフォーマルセクター)を潰そうとするものではないかとの声が上がっている。2009年の貨幣改革を思い起こしたからだろう。

1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」の前後、北朝鮮では従来の国家主導の計画経済が機能しなくなり、市場が経済において重要な役割を果たすようになった。

それを資本主義の萌芽とみた金正日総書記は、経済の主導権を国の手に取り戻すために市場を潰そうとしたが、うまくいかず、2009年11月に貨幣改革を断行する。

貨幣単位を100分の1に切り下げるデノミネーションの実施と同時に、紙幣の切り替えを行ったが、地下経済に蓄積された富を収奪するために新券交換の額には上限を設けた。1世帯あたり旧券10万北朝鮮ウォンまでは銀行に預ければ新券に交換するが、それ以上は没収するというものだった。

財産のほとんどを奪われる人が続出し、国中が大混乱に陥った。一部では暴動が起きる事態となった。政府は怒れる民心をなだめるために交換限度額を増やしたり、責任者を銃殺するなどの措置を取ったが、貨幣改革による混乱は長年に渡り北朝鮮に悪影響を及ぼし続けた。

デノミで財産を失った北朝鮮の人々は、「銀行に金を預けるなら大同江に投げ捨てた方がマシ」と言うほど銀行に対して不信感を持つようになり、北朝鮮ウォンは完全に信用を失い、外貨で物を売り買いすることが一般化してしまった。「チョナトン」が流行る背景には、このような銀行の信用のなさが存在する。

貨幣改革に伴う大混乱は、北朝鮮の人々にとってトラウマとなっていて、当局が金融に関する何らかの措置を行うたびに当時の恐怖が脳裏をよぎるようだ。

金正恩(キム・ジョンウン)氏