在宅生活を送る高齢者の中には、一人での歩行に不安を感じる、トイレなどに座ると立ち上がるのが難しい、お風呂につかまるところがなくて怖い、などの悩みを抱えている人も多いのではないでしょうか。

介護保険の住宅改修制度を利用すれば、20万円を上限に、1割の自己負担(一定所得者は2割、現役並み所得者は3割)で手すりを取り付けることができます。

手すり取り付け工事は「介護リフォームの入口」

筆者が福祉住環境コーディネーターとして勤務しているとき、一番依頼が多かったのが、「手すりの取り付け工事」でした。

「高い」「時間がかかる」などのイメージから、介護リフォームに積極的ではない人も多いでしょう。

しかし、一度手すりの取り付け工事をおこなうと、「意外と簡単にできる」ということがわかるのか、「次は段差解消工事をお願いね」などと、さらなる工事をお願いされることも少なくありませんでした。手すりの取り付け工事は「介護リフォームの入口」ともいえるのかもしれません。

そこで今回は、手すりの取り付け工事に着目し、取り付け場所や費用、工事時間などを詳しく解説していきます。

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介護リフォームをするには

介護保険の認定を受ける

介護保険の住宅改修制度で支給を受けられるのは、「要支援1~2、または要介護1~5の認定を受けた人であり、在宅生活を送っている人」です。現在、要介護認定を受けていないという人は、住んでいる市区町村の窓口に相談し、要支援、または要介護の認定を受けることが必要です。

認定後の詳しい流れ

  1. 担当ケアマネジャーに介護リフォームの相談をする

  2. アマネジャーが、介護リフォーム(住宅改修)事業所に下見等の依頼をする

  3. 介護リフォーム事業所の担当者が、自宅の下見をし、住宅改修案の提示・図面おこし・寸法確認・施工前の写真等を撮影する

  4. 介護リフォーム事業所の担当者が作成した見積もりを確認し、高齢者本人や家族が、住宅改修の契約を結ぶ

  5. 介護リフォーム事業所の担当者が、必要書類等を市町村の役所に提出する(※事前に申請しないと支給を受けられない)

  6. 役所から工事許可が下りたら、介護リフォーム事業所から自宅に連絡がきて、工事日程を調整する

  7. 工事をおこなう

  8. 本人や家族が、工事金額を支払う(※償還払い[一度全額支払い、あとから9割戻る仕組み]が多い)

  9. 介護リフォーム事業所の担当者が、施工後写真等の書類を市町村の役所に提出する

  10. 住宅改修費の支給額決定、支給がおこなわれる

手すりについて詳しく解説

手すりを取り付けるメリット

手すりを取り付けるだけで、転倒リスクを減らすことができる、自立度がアップし介護負担が軽減する、などのメリットがあります。家の中につねに掴まるところがあれば、安定した歩行が可能になるため、転倒による怪我や骨折を防ぐことが可能です。

また、手すりがあることで、立ち上がりなどが容易になり、家族のサポートがいらなくなった、介護負担が軽減した、などの声もよく聞かれます。

依頼の多い手すり取り付け場所

トイレやお風呂、玄関、廊下、居室、階段、屋外階段など、取り付け場所は多岐にわたります。とくに、トイレとお風呂は、取り付け依頼が多い場所です。

基本的には、本人(介護される側)の生活動線をもとに、手すりが必要な場所を見極め、設置場所を決定していきます。

階段などへの設置を希望するお宅も多いですが、高齢者本人が日頃から2階へ行っている、2階へ行く必要がある、と判断されなければ、住宅改修費を支給されないこともあるため、注意が必要です。

手すりの高さ

手すりは、本人(介護される側)の使いやすい高さに合わせて設置します。

縦手すりの場合は、取り付け場所によって基準が大きく異なりますが、横手すりの場合、女性が床から750mm前後、男性が床から800mm前後となります。

本人の身長や、腕の可動範囲、円背(背中が丸まること)などの状態によっても高さの違いが出るため、介護リフォーム事業所の担当者や施工業者が、使いやすい手すりの高さを測定し、本人や家族と話し合ったあとに、取り付けを始めます。

施工費用と工事時間はどれくらいかかるの?

(※)施工費用はいずれも、10割(総額)の金額を表示しています。
自己負担額は、所得によって「1割〜3割負担」と違いがあるため、ご注意ください。

<トイレ>

トイレは、柱が良い位置にないため補強をする場合が多いです。

設置例1:便座脇の壁に、座位を保つための横手すり×立ち上がりのための縦手すり(L型 補強あり)

  • 施工費用:約3万円~5万円(※)

  • 工事時間:約2時間半~4時間

設置例2:ドアから便器までの移動用横手すり+座位を保つための横手すり×立ち上がりのための縦手すり(I+L型 補強あり)

  • 施工費用:約4万円~6万円(※)

  • 工事時間:約3時間~4時間半

<お風呂>

磁石がつくユニットバスは強度が強いため、手すりをビス止めできますが、磁石がつかないユニットバスは強度が弱いため、接着式となる場合があります。また、タイル式浴室の場合は壁が硬いため、ユニットバス(ビス止め)より、工事時間が1時間以上長くなることが多いです。

設置例1:ドアから洗い場までの移動用横手すり+洗い場立ち座り用縦手すり+浴槽出入り用縦手すり+浴槽内立ち座り用縦手すり(ユニットバス ビス止め)

  • 施工費用:約6万円~9万円(※)

  • 工事時間:約1時間~3時間

設置例2:ドアから洗い場までの移動用横手すり+浴槽出入り用縦手すり+浴槽内立ち座り用縦手すり(ユニットバス 接着式)

  • 施工費用:約7万円~9万円(※)

  • 工事時間:約2時間半~4時間半(接着剤が乾くまで、約24時間使用できない)

<玄関>

補強が必要ない場合も多いですが、補強をする場合は、施工費用が1万円~3万円ほど高くなります。

設置例1:玄関扉から上がり框までの移動用横手すり+上がり框の上り下り用縦手すり(補強なし)

  • 施工費用:約2万円~3万円(※)

  • 工事時間:約1時間~2時間

設置例2:玄関扉から上がり框先までの、勾配に合わせた傾斜付き移動用横手すり(補強なし)

  • 施工費用:約3万円~4万円(※)

  • 工事時間:約1時間半~3時間半

<廊下>

補強が必要ない場合が多いですが、補強をする場合は、施工費用が1万円~4万円ほど高くなります。

設置例1:居室からトイレまでの移動用横手すり(2700mm 補強なし)

  • 施工費用:約2万円~4万円(※)

  • 工事時間:約1時間半~3時間

設置例2:居室からトイレまでの移動用横手すり(1800mm 補強なし)+居室から浴室までの移動用横手すり(3600mm 補強なし)

  • 施工費用:約3万円~5万円(※)

  • 工事時間:約2時間半~4時間

<階段>

補強が必要ない場合もありますが、補強をする場合は、施工費用が3万円~6万円ほど高くなります。

設置例1:直線階段の1段目から最後の段まで、片側に連続した手すり(3600mm 補強なし)

  • 施工費用:約3万円~6万円(※)

  • 工事時間:約2時間半~4時間

設置例2:回り階段の1段目から最後の段まで、片側に連続した手すり(4500mm 補強なし)

  • 施工費用:約6万円~9万円(※)

  • 工事時間:約4時間~8時間

<屋外階段>

アンカー固定式(ボルトで直接コンクリートに支柱を固定)と、コア抜き(コンクリートをくり抜いて支柱を設置したあと、モルタルを流し入れて固定)の2種類の施工方法があります。多くの業者は、長期的な安定性を考え、コア抜きでおこないます。

設置例1:階段3段の上り下り用手すり(コア抜き)

  • 施工費用:約7万円~10万円(※)

  • 工事時間:約5時間~8時間(流し入れたモルタルが固まるまで、約24~48時間ほど使用できない)

設置例2:階段6段の上り下り用手すり(コア抜き)

  • 施工費用:約14万円~20万円(※)

  • 工事時間:約7時間~10時間(翌日までかかる場合あり)

手すりを取り付けるデメリットもある

手すりは基本的に、介護リフォームを受ける要介護者の使いやすい高さに取り付けるため、同居している家族には使いにくい場合があります。また、手すりを取り付けることで、トイレが狭くなった、廊下の幅が狭くなった、などと感じることもあります。

しかし、手すりの高さが合わなくても、家族にはまったく使えないということはありませんし、手すりの突出は、壁から約1cm~2cmの場合が多いため、それほど不便は感じないでしょう。

さいごに

介護リフォームを考えているなら、介護保険制度をうまく活用しましょう。まずは、他の工事よりも簡単におこなえる「手すりの取り付け工事」から始めるのがおすすめです。

安価で出来るうえに工事時間も短く、短期間で住環境を整備することが可能です。手すりがあれば、安心した生活が送れたり、自立度がアップしたりするため、意欲的になる、活動的になるなど、さまざまな良い効果が生まれます。