2020年8月、米国・国防高等研究計画局(Defense Advanced Research Projects Agency:DARPA)が主催する「アルファドッグファイト競技会」のメインイベントで、人間と人工知能(Artificial Intelligence:AI)による「F-16」をシミュレートした空中格闘戦(ドッグファイト)が史上初めて行われた。

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 結果は「ヘロン・システム社」のAIが経験豊富な元空軍F-16パイロットに5-0で圧勝した。

 この競技会はDARPAの「空中戦の進化(Air Combat Evolution:ACE)」プログラムの一環として実施されたものである。ACEプログラムについては後述する。

 今回の競技会は、実機ではなくシミュレーション上で行われたものであるが、近い将来、AIが操縦する実機が、経験豊富なパイロットが操縦する実機に勝利することが予見される。

 航空宇宙会社「スペースX」および電気自動車テスラ」のCEO(最高経営責任者)であるイーロン・マスク氏は、2020年2月29日の自身のツイッターに「『F-35戦闘機は自律型無人戦闘機に勝ち目はない」と書き込んだ。

 マスク氏のいう自立型無人戦闘機について若干敷衍する。

 無人兵器は、AIとの融合により、「自動型兵器システム(automated Weapon system)」から「自律型兵器システム(Autonomous Weapon Systems:AWS」へと進化している。

 ちなみに、自動とは、人間の与えた手順や基準に従って、人間が介在することなく行動することであり、自律とは、人間が操作をすることなくAIが状況を判断して行動することである。

 自律型兵器システム(AWS)の中で、致死的な殺傷能力を有する兵器システムは「自律型致死兵器システム(Lethal Autonomous Weapons System:LAWS)」と呼ばれる。

 標的選択から攻撃まで人間の関与なくすべて自動で行う自律型致死兵器システムLAWS)の開発・配備を規制しようとするいわゆる「LAWS議論」があるが、これについては別の機会に譲る。

 ところで、近年の自動操縦技術・航法技術・センサー技術等の発達や搭乗員の生命にかかわる危険性がないなどの人間が搭乗しないことから得られる特徴から無人航空機がより積極的に導入され、その結果戦場の無人化が着実に進んでいる。

 例えば、米軍の保有する航空機について、2005年では全航空機に無人航空機が占める割合は約5%であったのに対して、7年後の2012年には、約40%まで急増した。

 ちなみに、無人航空機の定義であるが、米軍(JP1-02、2016年版)では、無人航空機(UA:unmanned aircraft)(旧UAV:unmanned aerial vehicle)を「オペレータが搭乗しておらず、そして、人間による遠隔操作の有無にかかわらず飛行ができる航空機(aircraft)である」と定義している。日本の航空法もこれと同じ定義を用いている。

 さて、AIの将来像を考える際、「シンギュラリティー(技術的特異点)」という言葉が使われる。AIが人間の知性を超え、世界を根底から変えてしまう転換点をいう。

 リポート「戦場のシンギュラリティー(Battlefield Singularity:Artificial Intelligence, Military Revolution, and China’s Future Military Power)」の著者であるエルサ・B・カニア氏は、「その段階になると、AIを導入した戦闘が必要とするスピーディな決断に人間はついていけなくなるかもしれない。軍は人間を戦場から引き上げ始め、むしろ監視役に据え、無人システムに戦闘の大半を遂行させるかもしれない」と予見している。

 現在、各国は、群知能の考え方をドローン群に適用したドローンの群衆飛行や有人機を支援する「ロボット僚機」の開発などにAIの軍事利用を進めている。

 本稿は、各国のAIの無人航空機への適用状況について紹介するものである。

 以下、初めに「アルファドッグファイト競技会」およびACEプログラムの概要について述べ、次に、ドローンによる群衆飛行能力の開発状況、最後に、有人機を支援する「ロボット僚機」の開発状況について述べる。

「アルファ・ドッグファイト競技会」
およびACEプログラム概要

アルファドッグファイト競技会」には航空機メーカーや大学の研究機関などからオーロラ・フライト・サイエンス社、エピシス・サイエンス社、ジョージア工科大学、ヘロン・システム社、ロッキード・マーティン社、パースペクタ・ラブス社、フィジックスAI社およびソアーテック社の8チームが参加した。

 今年8月の3日間に開催された決勝ラウンドでは、まず準決勝で参加8チームそれぞれが、ジョンズ・ホプキンス大学応用物理研究所が開発したAIと戦った。

 その結果、上位4チームのロッキード・マーティン社、オーロラ・フライト・サイエンス社、フィジックスAI社およびヘロン・システム社が決勝戦に進んだ。

 決勝戦では4チームの総当たり戦が行われた。1993年に設立された女性が所有する小さな企業であるヘロン・システム社が勝利した。

 そして、ヘロン・システム社がメインイベントにおいて、人間のパイロットと空中格闘戦を行った。ヘロン・システム社のAIは人間のパイロットが追随できない正確な機動により5-0で勝利した。

 DARPAの戦略的技術オフィス(Strategic Technology Office)のプログラムマネジャーであるダン・ヤボセック(Dan Javorsek)大佐は、「本イベントの目標は、AIが基本的な戦闘機動を迅速かつ効果的に学習し、シミュレートされたドッグファイトでうまく使用できることを実証することであり、そして、戦闘機パイロット、最終的にはより広範なパイロットコミュニティの尊敬を得ることである」と語った。

 次に、ACEプログラム(以下、ACE)について述べる。

 ACEは、戦闘の自律性に対する信頼を高めることを目指している。

 将来の航空領域では、1人の人間のパイロットが、その搭乗機から、複数の自律型無人プラットフォームを効果的に組織化することにより致死性(敵を撃墜する能力)を高めることができる。

 これにより、人間の役割が単一のプラットフォームオペレーターからミッションコマンダーにシフトする。

 特に、ACEは、航空機とチーム化された無人システムが個別の戦術に従事している間、パイロットが、よりグローバルな航空コマンドミッションに参加できるようにする機能を提供することを目指している。

 すなわち、ACEは自律性のための階層的フレームワークを構成する。

 このフレームワークでは、高レベルの認知機能(例えば、全体的な交戦戦略の開発、ターゲットの選択と優先順位付け、最適な武器または効果の決定など)を人間が実行し、低レベルの機能(航空機の機動と交戦戦術の詳細)は自律システムに任されるであろう。

ドローンの群衆飛行能力の開発状況

 米国、中国、ロシアなど各国が「ドローンの群衆飛行(Swarm Flight)」能力の開発にしのぎを削っているといわれている。

 米国と中国については以下のような開発状況が公開されている。他の国については不明である。

 2016年10月、米国は、飛行中の3機の「F/A-18スーパーホーネットから放出された103機の全長約16センチの超小型ドローン「Perdix(パーディクス)」の編隊飛行の実験に成功した。

 国防総省・戦略能力研究局のウィリアム・ロパー(William Roper)局長は、「Perdixは事前にプログラムされ動くものではなく、ドローン各々が意思決定できる分散型の一つの頭脳を共有し、生物の群れのように相互に協力しながら行動する」と説明した。

 2016年11月、中国は、コプター型ドローン67機の群衆飛行に成功した。

 そして、米国が103機の群衆飛行に成功した約半年後の2017年6月に固定翼型ドローン119機(機種は不明)の群衆飛行に成功した。

 実験では、119機のドローンが一斉に飛び立って精密射撃をし、空中で集結したり、チームに分かれてそれぞれ目標に向かって飛行したという。

 複数機の固定翼ドローンを同時に制御・操作する行為は、コプター型ドローンと違って全機の速度・距離を一定に保つのが難しく、相当な技術力を要すると言われる。

 中国は、既に200機の群衆飛行に成功しているとされる。

 紛争になれば、中国軍は安価なドローン編隊を用いて、米国の空母のような高価なプラットホームを攻撃するかもしれない。

 付言するがドローンの群衆飛行の研究は、群知能の研究でもある。

 群知能(Swarm Intelligence:SI)は、分権化し自己組織化されたシステムの集合的ふるまいの研究に基づいた人工知能技術である。

 SIシステムは一般に単純なエージェントの個体群から構成され、各個体はローカルに互いと、そして彼らの環境と対話する。

 個々のエージェントがどう行動すべきかを命じている集中的な制御構造は通常存在しないが、そのようなエージェント間のローカルな相互作用はしばしば集団として高度な動きを見せる。

 このようなシステムの自然界の例として、アリの巣、鳥の群れ、動物の群れ、細菌のコロニー、魚の群れなどがある。ドローンの群衆飛行も、群知能の考え方を多数の安価なドローン群に適用したものである。

「ロボット僚機」の開発状況

 軍用無人航空機は、用途により、無人攻撃機、無人偵察機、無人警戒監視機、その他通信中継機、電子戦機や標的機などに分類される。

 軍用無人航空機には、マルチロール(多用途)のものが多い。

 上記の用途に用いられる無人航空機は実用化されている。無人で空中格闘戦などの制空戦闘を行う無人戦闘機(unmanned combat air vehicle:UCAV)の研究が各国で続けられているが、いまだ構想段階にある。

 現状では制空戦闘を行う無人戦闘機の開発が難しいため、先進各国では有人戦闘機と協働し、有人戦闘機を支援する「ロボット僚機」の研究開発に取り組んでいる。

「ロボット僚機」が促進される理由としては、①有人戦闘機との役割分担でパイロットの負担を減らすことができる、②「ロボット僚機」の機能を空中給油や電子戦などの機能に限定すれば格闘戦などの戦闘よりは単純な動きになるので技術面、経費面で開発が容易となるなどが考えられる。

 次に各国の「ロボット僚機」の開発状況を述べる。

 米国は、2つの「ロボット僚機」の開発を進めている。一つはボーイング社が豪空軍と開発しているATS(Airpower Teaming System)である。

 2019年2月27日ボーイング社は、豪空軍と共同開発している無人実証機「Loyal Wingman(忠実なるウイングマン)」の実大模型を公開した。

 ボーイング社は、「Loyal Wingman」をATS (Airpower Teaming System)またはBATSBoeing ATS)と呼んでいる。

 2020年5月5日ボーイングオーストラリア社は、豪空軍から3機受注していたATSの1号機をロールアウトした。

 ATSは、全長が11.7メートル、航続距離は3700キロメートル以上。AIを活用し、ほかの有人機や無人機と連携しながら情報収集・警戒監視・偵察・電子戦などの任務を遂行する。初飛行は今年後半の予定である。

 もう一つは米空軍が開発する「XQ-58A」ヴァルキリーである。

 XQ-58Aは、空軍研究開発本部が目指す「低価格消耗航空機技術(LCAAT:Low Cost Attritable Aircraft Technology)」 プログラムのもとで開発された機体で、この機体を開発したクラトス社は、1機あたりの価格は300万ドル(約3.3億円)程度、100機以上の発注で1機あたり200万ドル程度(約2.2億円)になると主張している。

 XQ-58は、地上スタンドからロケットで発射され、有人戦闘機と同行、あるいは複数機が群となって攻撃に参加・帰還し、基地にパラシュートで降下して回収される。

 全長は「ボーイングATS」よりやや小さい8.8メートル、航続距離は約3900キロ、最大速度は時速1050キロで、情報収集、偵察、電子戦のほか、胴体下部のウェポンベイ(兵器倉)に精密誘導爆弾のJDAMや、小型精密誘導爆弾のSDB(小直径爆弾)を搭載して、対地攻撃を行なうことも計画されている。

 2023年の実用化を目途に試験検証が行われている。

 欧州では、2020年2月、仏・独・スペインが、将来戦闘機システム(FCAS:Future Combat Air System)の技術実証機製造に関する覚書に調印した。

 戦闘機1機で複数の無人機をコントロールするという。

 他方、英主導の次世代戦闘機テンペスト」計画に2019年7月、伊・スウェーデンが共同参画の意向を示した。

 テンペスト計画では、パイロットが搭乗する有人機型とほぼ同サイズの無人機型を同時に開発し、有人機と無人機で編隊を組んで運用する能力を備えるとされる。

 ロシアが開発を進めている無人攻撃機「オホートニク」も、同国の最新鋭戦闘機Su-57」との協働作戦能力を持つと報じられている。

 また、中国が開発を進めている無人航空機「暗剣」も、戦闘機と協働する無人航空機ではないかと見られている。

 次に、戦闘機と無人航空機の協働が構想されている日本の次期戦闘機開発計画について簡単に述べる、

 防衛省は国産主導で開発を推進し、「F-2」の退役が見込まれる2035年からの配備開始を目指している。

 2010年8月に防衛省が発表した、「将来の戦闘機に関する研究開発ビジョン」で、戦闘機と無人航空機を協働させる構想が示されている。同ビジョンでは、戦闘機と無人航空機の協働を、数的劣勢を補うための手段のひとつと位置づけている。

 また同ビジョンでは、戦闘機と無人航空機の協働技術が実用化される時期を2040年代から2050年代としている。

 日本は、F-2後継機の開発費を本年度予算に初めて計上した。河野太郎前防衛相は、本年3月27日の記者会見で、共同開発のパートナーとして英・米を検討しているとの考えを示した。

 また、2020年10月11日付の共同通信は、「政府がF2戦闘機の後継となる次期戦闘機として、無人機の導入を一時検討していたことが分かった」、「当時の河野太郎防衛相がコスト削減などを理由に採用を主張した。防衛省は従来通り有人機を開発する場合、少なくとも1兆2千億円かかると試算する。無人機は乗員スペースがない分、小型で軽量。安全装備も簡略化でき、費用を大幅に抑えられる」と報じた。

おわりに

 日本は軍用無人航空機の分野とAIの軍事利用の分野で世界の趨勢から大きく遅れている。

 車の自立走行の基礎技術は無人軍事システムに転用できるかもしれない。

 コンピューター・ビジョン(カメラからの入力画像をコンピューターで処理し、ロボットや自動運転車の目として機能させること)と機械学習の進歩によって、兵器システムが標的を認識する精度を向上させられる可能性もある。

 日本に限らず多くの国のAI技術は民間の技術的進歩に依存している。

 中国は、国家戦略として軍民融合を推進している。習近平主席は、軍民融合の重点分野の一つとして海洋、宇宙、サイバー、AIといった分野における取組を強調している。

 このようなハイテク分野における民間技術の軍事転用で中国軍の軍事力強化の効率性が向上することが見込まれている。

 他方、日本では軍民融合が全く進んでいない。

 その原因の一つは今話題となっている日本学術会議の「軍事アレルギー」にあると筆者は見ている。

 同会議は、2017年3月24日防衛省が推進する「安全保障技術研究推進制度」に反対する声明を発出した。

 科学者個人が、自らの良心に従い軍事研究をしないということは理解できる。

 しかし、権威のある日本学術会議として、日本のすべての科学者に「安保研究推進制度」の応募に応じるなということは、科学者の「学問の自由」を奪うことになるのではないか。特に研究意欲の旺盛な若手研究者の機会を奪っている。

 科学技術立国という言葉があるように科学技術は国力の源泉である。政府は、早急に日本学術会議のあり方を見直し、産学官が連携して、AIなどの新しい技術の共同研究開発ができる体制・態勢を構築することが必要である。

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