「安倍(前)総理は、せっかく自由の身になられたわけですから、これからは国際的な視野に立って活躍していただきたい」

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 10月25日安倍晋三前首相の側近として知られる下村博文自民党政調会長は、『日曜報道 THE PRIME』(フジテレビ系列)に生出演し、安倍前首相の最近の映像を目にしながら、エールを送った。

「国際的視野に立った活躍」とは「台湾訪問」のことか

 安倍氏9月16日、7年9カ月近く務めた首相の座を菅義偉官房長官に引き継ぐと、そのわずか3日後に、靖国神社を参拝した。

 首相時代の2013年12月26日に一度、参拝しているが、その際には中国の習近平政権ばかりか、同盟国であるアメリカバラク・オバマ政権からも「失望した」と叩かれ、以後は参拝を自粛していた。そこで、「もう首相ではないのだからよいだろう」と言わんばかりに、心に秘めていた参拝を決行したのである。

 靖国神社では、10月17日と18日、秋の例大祭が行われた。すると例大祭が終わった翌19日朝、再び安倍前首相が参拝に訪れた。この時は記者団に囲まれ、「ご英霊に尊崇の念を表するために参拝いたしました」と述べている。

 加藤勝信官房長官も同日の記者会見で、「私人である安倍前総理大臣の個人の参拝だと承知している。個人の信教の自由に関する問題で、政府として立ち入るべきものではないと思っている」と発言。「私人である個人の参拝」にしては、菅政権との「暗黙の連携」を匂わせるような物言いが気になった。

 安倍前首相は10月24日には、6月に87歳で死去した横田滋さんのお別れの会に参列し、菅首相や加藤官房長官と同席した。滋さんは、北朝鮮に拉致された横田めぐみさんの父親である。

 このように、首相を退いてからも精力的に活動を続ける安倍前首相だが、冒頭の下村政調会長が言う「国際的な視野に立った活躍」とは、いったい何を意味するのか? 安倍氏と親しい人物に確認すると、「あくまでも個人的見解」と断った上で、次のように述べた。

「それはズバリ、台湾訪問だろう。首相時代は、中国への気兼ねもあって、台湾訪問はかなわなかった。8月には、李登輝元総統の弔問ということで、森喜朗元首相も訪台し、蔡英文総統と会見しているので、『元首相』が訪台した前例はすでに直近にある。この時は、安倍前首相の実弟である親台派の岸信夫議員がセッティングし、岸氏も同行している。

 安倍氏が首相時代は、安倍首相が中国を担当し、弟の岸氏が台湾を担当していた。その岸氏は菅政権で防衛大臣になり、中国と対峙する立場になった。そこで今度は立場を替えて、安倍前首相が日本の台湾外交を担当していくということだろう」

(参考記事:「岸信夫防衛相」に中国が慌てふためく理由
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62154

安倍前首相が極秘裏に会っていた蔡英文氏

 安倍前首相の「電撃訪台」はあり得るのか? 台湾の民進党関係者に聞くと、期待に満ちた口調で答えた。

「具体的に何か聞いているわけではないが、蔡英文政権としては熱烈歓迎だ。蔡総統とすれば、できれば年内にも訪台してほしいと思っているだろう。

 それは、このところの中国大陸の脅威が尋常でないからだ。(中国)人民解放軍は、明日にでも軍事挑発を仕掛けてきそうな雰囲気だ。台湾としては、アメリカと日本の助力がいまほど必要な時はない。

 だが、アメリカは(11月3日の)大統領選挙の後、選挙結果で揉めて、一時的に台湾防衛がなおざりにされるかもしれない。そんな時、安倍前首相が訪台してくれたら、これほど台湾にとって頼もしいことはない」

 実は安倍前首相と蔡英文総統は、面識がある。蔡総統は、総統就任直前の2015年10月、岸信夫氏の斡旋で来日している。その時、岸氏は蔡氏を、自分と安倍首相の故郷である山口県下関市まで、わざわざ案内している。

 この時、私はある首相官邸関係者から、このような話を聞いていた。

蔡英文氏の宿泊先を、首相官邸から一番近いザ・キャピトルホテル東急に決めたのも岸信夫氏だった。10月8日昼、ホテル特別室のランチの場に、岸氏は安倍首相を連れてきた。日台合わせて10数人のランチだったが、安倍首相は自分がいかに台湾ファンかを熱く語った。首相を退任したら、ぜひ台湾を訪問したいとも言っていた。

 だがこのランチは、安倍首相の首相動静からは削除され、日本側も台湾側も、一切極秘とした。それは、中国政府に配慮したからだった」

 もしも安倍前首相が「電撃訪台」を準備しているとしたら、この「5年前の約束」を果たそうということなのかもしれない。

かつてないほど高まる台湾人の危機意識

 日本と台湾は、新型コロナウイルスの拡大によって、往来を一時停止していたが、9月8日から、「レジデンストラック」を再開させている。これは、短期商用と在留資格の対象者に関して、入国を認めるというものだ。

 台湾は現在、中国からの武力挑発に対する危機感を募らせている。10月21日には台湾国防部が、アメリカ製の精密誘導型空対地巡航ミサイル135発、航空偵察ポッド6基、高機動ロケットシステム11基など、総額18億ドルの武器を購入すると発表した。

 また、10月24日に台湾国際戦略学会と台湾国際研究学会が発表した「台湾海峡安全調査」によれば、「もしも中国大陸が台湾に対して武力行使に出たら、台湾防衛のために戦う」と答えた台湾人は、77.6%に上った。前出の民進党関係者が続ける。

「いまや台湾人の危機意識は、1996年の台湾海峡危機の時よりも高まっている。アメリカ大統領選を巡る混乱が続けば、その間に人民解放軍が太平島の占拠を目指すかもしれないと警鐘を鳴らす専門家もいる」

 太平島は、南シナ海の南沙諸島北部に位置する南沙諸島最大0.51km2の小島で、台湾が実効支配している。かつては日本軍が潜水艇の基地を置いていたが、1945年の日本の撤退とともに、中華民国(台湾)の護衛艦「太平号」が乗り込んで実効支配したため、この名前が付いた。

 台湾では、高雄市旗津区中興里に属するが、高雄港からは約1600kmも離れている。一方、中国側は海南省三沙市に属すると主張し、近辺に人工島を張り巡らせて奪取の機会を窺ってきた。

 ともあれ、安倍前首相の動向から目が離せなくなってきた。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  「岸信夫防衛相」に中国が慌てふためく理由

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安倍晋三前首相(写真:AP/アフロ)