ここ数年、「おじさんはカワイイものがお好き。」「トクサツガガガ」「海月姫」など、“オタク”を取り上げたドラマが急増しているように見受けられる。なぜこのようにオタクを描いた作品が多く作られ、視聴者に受け入れられているのだろうか。その背景と魅力に迫る。

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■ここ数年“オタク”を取り上げた作品が増加中

先日好評のうちに放送終了した「おじさんはカワイイものがお好き。」(2020年、日本テレビ系)。社内で“イケオジ”とされている主人公・小路三貴が、実は自身が“カワイイもの好き”で黄色いパグのキャラクター・パグ太郎を「推して」いることを隠して生活しているという作品で「推しは仕事のモチベーションになる」「好きって複雑だから」など、“オタク心に刺さる”名言の多さでもなにかと話題になっていた。

同作に限らず、ここ数年はなにかを熱烈に愛するオタクを描いた作品が豊作だ。小芝風花演じる“特撮オタ女子”が話題となった「トクサツガガガ」や地下アイドルオタクを描いたサスペンス「だから私は推しました」、BL好きな“腐女子”とゲイの少年の関係性を丁寧に描いた「腐女子うっかりゲイに告る」(2019年、NHK)、筋金入りの“クラゲオタク”・月海(芳根京子)が、自分には一生縁はないと思っていた恋を知り、新しい自分、新しい生き方を見つけていく「海月姫」(2018年、フジテレビ系)、同一アイドルグループが好きなことから女性同士の友情が芽生えていく「婚外恋愛に似たもの」(2018年、dTV)と枚挙にいとまがない。また、2021年1月放送スタートの「ウチの娘は、彼氏が出来ない!!」(日本テレビ系)も、詳細はまだ明らかになっていないが、菅野美穂演じる母が浜辺美波演じる“オタク”な娘と共に婚活する、という内容のようだ。

■“オタク”に対するまなざしの変化

これまでにも“オタク”を描いた作品がなかったわけではないが、向けられるまなざしは今とは異なり、少々厳しいものだった。

例えば、社会現象にもなった「ずっとあなたが好きだった」(1992年TBS系)では、佐野史郎の怪演で社会現象にもなった“マザコンでオタク”な夫“柏田冬彦は「んん~~」と唇を突き出してうなったり木馬に揺られるなど、過度に不気味に、好奇の視線が向けられるような描かれ方がされている。

また、「踊る大捜査線」(1997年フジテレビ系)第5話では、深津絵里演じるヒロイン・恩田すみれを襲うストーカー・野口達夫(伊集院光)は美少女アニメオタクであり、“アニメの登場人物とすみれの区別がつかなくなった結果”犯行に及んでおり、“オタク”は現実と空想の世界が判別できていない結果犯罪に走る存在として描かれている。さらには、いかりや長介演じる名物刑事・和久平八郎織田裕二演じる青島俊作に対し「まさかお前も何かのマニアっていうんじゃないだろうな」と発言するなど、“オタク”に対しての偏見を感じざるを得ない発言をしている。

これは、80年代後半に連続少女誘拐殺人事件を起こした宮崎勤が多くのアニメ作品を所持していたことから、“オタク”に対するマイナスイメージが社会に根付いてしまったことも関係していると思われる。90年代のドラマにおいては“オタク”に対する世間の偏見が反映されていたと言えるのではないだろうか。

それが「電車男」(2005年、フジテレビ系)において、“オタク”に対するまなざしは変化を見せる。“オタク”な主人公・電車男はヒロイン・エルメスを救った上、努力して彼女を恋人にするという好意的な描かれ方をするのだ。さらに2000年代中頃以降は矢口真里中川翔子など、「オタクであること」を積極的に発言する芸能人が増加したことで徐々に偏見は払拭され、“オタク”は市民権を獲得していった。

■“オタク”を描いた作品はなぜ受けるのか

しかしながら、“オタク”が市民権を得たというだけではこれほど多くのドラマが生まれている理由にはならない。それではなぜ、このように多くの作品が作られ、受け入れられているのだろうか。

■理由1:日本一億総“オタク”化

東京・渋谷のファッションビルSHIBUYA109」のマーケティング研究機関「SHIBUYA109lab」とCCCマーケティング株式会社が合同で2020年4-5月にT会員である全国の15-24歳女性8201人に対して実施した調査によると、「自分が『●●ヲタ』と言えるものがありますか?」という問いに「はい」と回答した人は66.7%と、約7割にも上る結果であった。かつてはもっとも“オタク”から遠いと思われていた“若い女子”層でこの数字というのは驚きである。

さすがにこの調査は性別・年齢が偏っているにしても、現在自らを何らかの「オタクである」と考える人は総じて増えていると考えられるのではないだろうか。そして受け手自身が自身を「オタクである」と自認しているのであれば、オタクを描いた作品は“自分ゴト”となり、共感して見ることができる。“オタク”自認人口が増えているからこそ、これらのドラマは人々に受け入れられているのではないだろうか。

■理由2:“謙虚”かつ“ユーモラス”な存在として描かれる“オタク”

これらのドラマ内で主人公は、己が“オタク”であることに一抹の後ろめたさを感じている。現実で“オタク”がそのように感じているかは一概に決めつけることはできないが、少なくともこれらのドラマ中の多くで主人公は劣等感やコンプレックスを抱いているように描かれているのである。その姿は一種の“謙虚”さとして人々に受けとめられているのではないだろうか。

また、“オタク”の「オタ活」は滑稽なものとして描かれる。例えば、「トクサツガガガ」のヒロイン・仲村叶は特撮もののガチャガチャをするため、周囲にいかにばれないようにするか工夫したり、同じガチャガチャをやろうとする小学生とかち合って苦悩したりと必死である。好きなもののために一生懸命になる姿は共感を呼ぶが、一方で思わず笑ってしまうようなユーモラスさも持っている。

このように「オタク」は“謙虚”かつ“ユーモラス”な存在として描かれるため、視聴者からの好感度が高いのではないだろうか。

■理由3:「ありのままの自分」を受け入れてくれる物語構成

ドラマに登場する“オタク”は内面が成長することはあれど、たいていは自分の“オタク”的性質はそのままで居場所を見つけていく。

「おじさんはカワイイものがお好き。」では、主人公・小路は当初自身の“パグ太郎好き”を誰にも公表できなかったが、同じくかわいいキャラクターを推している同士を見つけて友情を育んでいく。「トクサツガガガ」でも最初“特撮オタ”であることを周囲にひた隠しにしていたヒロイン・仲村は物語を通じてオタク仲間を作ることに成功しており、最後は趣味を否定していた母親とも和解の兆しを見せる。

恋する相手に対し自分の趣味嗜好を隠した上、普段無頓着だった容姿も整えて接していた「海月姫」のヒロイン・月海に至ってはその後本来の姿のままで思い人にプロポーズまでされている。

このように、“オタク”を描いたドラマはありのままの自分たちや価値観、“好き”を受け入れてくれる物語構成となっているのだ。

現代は価値観やライフスタイルが多様化する時代である。令和になってますます自由に生きていく我々に寄り添ってくれる“オタク”を描いたドラマはこれからも「ありのままの私達」を受け入れてくれることだろう。

「海月姫」で“クラゲオタク”なヒロイン・月海を演じた芳根京子/撮影=阿部岳人