令和2年10月13日最高裁は非正規労働者への賞与・退職金の不支給について「不合理とまでは評価できない」とし、非正規労働者に厳しい判断(アルバイトは賞与不要、契約社員は退職金不要)をくだした。この結果、政府肝いりですすめてきた同一労働同一賃金の運用に影響が生じることが予想される。また非正規労働者を雇用する企業にとっても、この判決のインパクトは大きく、場合によっては「非正規には賞与や退職金を払わなくて良い」と、一方的に決めつける経営者も出てきかねない。

そこで今回は国が出している同一労働同一賃金のガイドラインについて、それが誕生した背景を紹介する。また今回の最高裁の判決とは逆に、非正規格差が認められた判例にも触れていく。話を伺ったのは富士見坂法律事務所の井上義之弁護士だ。なお、取材は10月15日に行われた。13日の最高裁の判決の詳細はその時点で不明であったため、それについては触れていないのでご了承いただきたい。

■同一賃金同一労働のガイドライン誕生の背景

まず同一賃金同一労働のガイドラインがどんな内容かを伺った。

「ガイドラインは、無期雇用フルタイム労働者正社員)と非正規雇用労働者(パートタイム労働者、有期雇用労働者派遣労働者)との間に待遇差が存在する場合に、どのような待遇差が不合理で、どのような待遇差が合理的かについて、原則となる考え方と具体例を示したものです」(井上義之弁護士)

非正規との格差が合理的かどうかの判断を明確にし、是正しようというのが狙いだ。

「かつての日本では、正社員終身雇用を前提とした年功序列の賃金制度が一般的でした。しかし、近年では経済競争・労働市場のグローバル化が進展し、非正規雇用労働者が就業者全体の約4割にも達しています。そうした状況を前提として、同じ仕事は同じ待遇であるべきだと考えられるようになりました」(井上義之弁護士)

■非正規との格差が不合理であると認められた判例

次に非正規との格差が不合理であると認められた判例を伺った。

「改正前労働契約法20条は期間の定めがあることによる不合理な労働条件の相違を禁じていました。最高裁は、同条の解釈が問題となった2つの事件について平成30年6月1日に判断を示しました。1つは正社員と有期契約社員の格差が問題となった事案(A事件)で、もう1つは正社員と定年後再雇用社員の格差が問題となった事案(B事件)です」(井上義之弁護士)

具体的にはどの点が違法とされたのだろうか。

最高裁は、両事件ともに賃金総額ではなく各手当の趣旨から待遇格差を説明できるかを検討し、説明できない手当の格差を違法であるとしました(A事件では皆勤手当・無事故手当・作業手当・給食手当・通勤手当の格差を、B事件では精勤手当と精勤手当を計算基礎に含んでいない時間外手当の格差を違法としました)」(井上義之弁護士)

同一労働同一賃金は、基本給・昇給・賞与・各種手当のみならず教育訓練・福利厚生などで、不合理な差別が禁じられている。

■不合理かどうかはどう判断すればよいか

最後に不合理かどうかはどう判断すればいいか伺った。

「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、基本給・賞与・手当など賃金項目ごとに不合理かどうかを判断することになります。単純に、一見同じ仕事だから必ず同じ賃金、ということではありません」

同じ仕事をしているかどうかは一つの判断に過ぎないという。責任や配置の範囲なども含めて総合的に判断するとのこと。

「支給目的が具体的な各種手当については格差が不合理とされやすい一方、例えば、正社員が管理職となるためのキャリアコースの一環として新卒採用後数年間パートタイム労働者と同じ業務を行うようなケースでは、当該待遇の性質・目的に照らして正社員とパートタイム労働者の基本給に格差があっても不合理とはいえないでしょう」

■政府の方針に変更なし

13日の最高裁の判決について、加藤勝信官房長官はその日に行われた記者会見で具体的な論評は避けつつも「政府としては引き続き、同一労働同一賃金の実現に向けた取り組みを進めていきたい」と話している。

この判決によって影響を受ける非正規労働者を雇用する経営者は、ただちに正規雇用労働者との間に待遇差がないかどうか確認したほうが良いだろう。もしも待遇差があった場合は、是正する必要があるが、不合理かどうかの判断は簡単ではないため、まずは専門家に相談することをおすすめしたい。

●専門家プロフィール:弁護士 井上 義之(第一東京弁護士会) 事務所HP ブログ
依頼者の置かれている状況は様々です。詳しい事情・希望を伺った上で、個別具体的事情に応じたきめ細やかなサービスを提供することをモットーに業務遂行しております。お気軽にご相談ください。

記事提供:ライター o4o7/株式会社MeLMAX
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同一賃金同一労働ガイドライン誕生の背景と非正規格差が認められた判例を紹介