
政府が旗振りをする「Go To イート」や「Go To トラベル」などのキャンペーンが始まり、普段は行かないような高級ホテルやレストランに足を運んだという人も多いはずだ。
高級ホテルやレストランと言えば、とにかく丁寧に対応してくれるイメージ。大泉さん(仮名・40代)は、20代前半の頃にソムリエの資格を取り、高級ホテルのレストランで15年に渡って働いてきた。その間、無理難題や理不尽な注文を押しつけられたこともあるのではないか。大泉さんに話をうかがった。
◆理不尽なクレームでも「絶対に客を立てる」
高級ホテルのレストランには、有名な芸能人も訪れる。
「誰でも知っている大御所タレントがどこかの社長と個室にやってきたのですが、テレビと違って紳士的で。『兄ちゃん、頑張りな』と2万円のチップをもらいました。
ルールでは、最初は絶対にチップを断らないといけません。しかし2回目に言われたら、今度は断ると逆に失礼なので受け取ることになっています。正直うれしかったですね」
2回目でチップを受け取るなど、高級ホテルにはさまざまなルールがあるという。
たとえば、客がどんな理不尽なクレームを申し付けても相手を立てないといけない。ファミレスなどの大衆店とは異なり敷居が高いので、そもそもヘンな客は少ないというが、なかには少し困ってしまう人もいる。大泉さんは言う。
「女性を連れた男性客がワインのボトルを注文しました。そしたら『以前飲んだ同じ銘柄のモノと味が違う』と言ってきたのです。念の為、私は試飲したのですが通常の味です。きっと女性の前で格好をつけたかったのでしょう」
客は高い料金を支払っているわけで、簡単には納得してくれないはずだ。ソムリエである大泉さんの対応は……。
「まずは『お客様が正しいです』と伝え、ワインには欠陥がないと言います。意外とこのような事例は多いので、その都度、客を納得させる方法は違いますね」
とはいえ、店側のミスも当然あるようだ。
「女性の誕生日などのお祝いで、名前のスペルをケーキやカードに書く際、間違えてしまうのは申し訳ないですね。当然ですが、7割ぐらいは文句を言われます。その場合は少し安くするか、後からお詫びの電話をします」
◆200万円のワインが酸化…
高級レストランのワイン、最高額は一体いくらか気になるのでないだろうか。
「最高額のワインは200万円がありましたよ。確か1957年の赤ワイン。正直、誰がこんなの注文するんだろうと思っていましたが、偶然その現場に居合わせたことがあります」
その客は二人組で、50歳前後の白人だった。
「ワインを出してコルクを開けました。コルクは腐ってないし、うまく開けられてカスも出なかったですが、匂いに異変を感じました。ワインが少し酸化しているのです。腐ってはおらず、飲めるので店側に責任はないです。でも200万円ですよ。客の立場を考えると……」
大泉さんはテイスティングをすると、やはり美味しくなかった。客も一口飲むと、渋い顔をしている。大泉さんは「ワインは運悪く酸化してしまった」と事情を説明する。
フランス人スタッフも駆けつけて話をすると、どうやら納得してくれたようでワインを飲み干した。そして、クレジットカードで支払いを済ませて帰っていったそうだ。
◆200グラムを測らせるセコイ客も
その一方で、セコイ客も現れる。
メニューで牛肉200グラムを注文。200グラムなんて意外と小さいものだ。焼くことによって少し縮む。それなのに、肉を運ぶと客は「小さい、200グラムはもっと大きいはずで量をごまかしている」とクレームを入れてきた。
「参りましたよ。そんなことするわけないし、説明しても納得してくれない。仕方ないので厨房からシェフを呼んで切ってある肉を出して、客の前で測りました。もちろん、200グラムぴったりでした。他の客も見ていて恥ずかしかったです」
◆なんでも「イエス」と答えなければならない
高級ホテルでは、客の要望に対して基本的に「イエス」と答えなければならないという。
ある日、50歳ぐらいの女性がメニューにはないはずの「スパゲティ・カルボナーラが欲しい」と言ってきた。大泉さんのレストランはフレンチである。
「基本的に『ない』『出来ない』は言わないのがルールなのです。厨房に行って、なんでも作れるシェフに相談しようと思いました。ですが、閉店時間が近かったこともあり、すでに帰宅しておりました。結局、コンビニでカルボナーラを買って皿に移して出しましたよ」
もちろん、客にはその旨を伝えたという。だが、とにかくカルボナーラが食べたかったようで、問題なかったようだ。
それならば、わざわざ高級ホテルに来ないでコンビニで買って食べればいいと思うのだが、お金持ちの考えることはよくわからない。
◆女性客から部屋に呼ばれる
前述のとおり、高級ホテルでは基本的に「ノー」とは言わないのが鉄則らしい。大泉さん自身も無理難題を押しつけられた経験があるという。
「レストランで40歳ぐらいの女性が食事して帰っていきました。その後、そのお客さんから内線電話が私に入りまして。『ホテル内のスパにいるから、大泉さん来てください』と呼び出されたんですよ。なにか苦情でも言われると思ったら、世間話だけでした。その後は部屋まで呼ばれて話をしましたよ」
そこは男と女。本当にそれだけであろうか。よからぬ想像をしてしまう。そのことを大泉さんにぶつけると、笑いながら言った。
「そこは守秘義務があるのでご想像にお任せします」
<取材・文/今永ショウ>

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